第45話 どくしょ ①
まず、私の友人についてついて話そう。
私の友人は、とてもじゃないが頭が良いとは言えない。いや、むしろ弱い。
なぜかと言うと、正当性を持っているような態度を取るのに、肝心な所で馬鹿なことを言うからだ。
以前、大学生の時には何人かと話をしている時だった。
その日は運が悪かった。
俺たち、まず特定のグループである人物を嫌っていた。その人物はいっちゃ悪いが私から見ても冗談が通じない人間であった。
何か冗談を言うと「それは笑えないよ」と指摘をするのです。指摘された男子学生は俺たちの中では、一番発言権を持っている存在であった。
そいつが言えば、なぜか他の奴はどこか笑わなければならない雰囲気を漂わせている。
過去に女子生徒が一人混ざっていたことがあり、その女性から「少し言葉が強いかなって思う時はありますよ。はい」と言われたことがある。
言ってからその女性はしまった、と思ったのだろう。先ほどまでニヤニヤしていたリーダーがみるみる内に笑みを消し、しかめっ面になった。明らかに不機嫌になっている。
今のご時世でこんなことを書くと、女性蔑視などと言われるかもしれないが、やはり女性は男性をどこか誤解している、と私はその時、強く思った。
私たちはもう少年ではない。小学生のようにいざこざとかがあったら、喧嘩してその場で終わらせたり、嫌いになったらすぐ離れたり避けたりする。
あるいは、細かいことなんて一々気にせずに相手に気を遣わずに話す、なんてことは無いのだ。一般的に少年というのはこのようなイメージに溢れているものである。しかし、もう私たちはそんな時期じゃ無いのだ。
学歴やら記録や実績とかでマウントを取り合う、更に社会人の今となれば年収がどうたらこうたらなどと、言ってまたもマウントをして牽制し合う生物になっているのだ。
そしてこれを言うと夢も希望も無いのだが、そもそも少年は先述したような特徴を持つ者では無い。もちろん中にはそういう人もいるかもしれないが、本当の本当に稀な存在だ。
だからこそ少年漫画の主人公になるのだろう。まず、いるはずがないのだから。
元気で活発な運動少年も、どこか翳りがあるクールな少年も、女なれしているませた小学生男子なんてのは幻想だ。現実には、まずいない。
いたとしても、そう言うのを男子同士では決して見せない。見えない所で女子に見える所でやるのだ。
そこでバレたりバレなかったりで、女好きとか言われるのが常だったがそんなことはどうでもいい。
後は漫画の影響で真似して嫌われる奴もいた。
とにかく、その女性にとっては予想外だったのだろう。リーダーのその表情が。
すると、急にパッと顔が明るくなり、リーダーは「そっかそっかぁ、強かったかぁ、ごめんね〜」と屈託のない笑顔を見せた。
だがそれで女性は安心しない。すぐに立ち去った。懸命な判断だと私は思った。その女性が立ち去った後「あいつ、冗談聞かないわ。つまんねえ」とリーダーは一言そう吐き捨てた。
そこに、私の友人はゴマをするように、そうですよね、そうですよね、と言ってついて回る。そういう奴なのだ昔から。
まあ、そんなことはどうでも良い。
一体、彼はなぜ私を自分の家に呼んだのか。しかも、何枚かの原稿用紙を置いて。
まさかこれを見ててくれ、とでも言うのだろうか。そもそもこれは何だ? 小説か? 帯が全く見たことが無い。
そこで私は、ある考えが浮かんだ。
ひょっとするとこれは友人が書いた小説なのではないか? すると、今日ここに私を呼んだのはこの小説を見せたいから、なんていうのは自意識過剰だろうか。
いや、それでも呼んだ方が良い。
というか作者なんてどうでも良い。
さっさと中を見てしまいたい。
私は目の前のテーブルに置いてある本を無造作に取った。なんとも黒一色で暗い。
題名もどこか不穏だ。
恐らくホラーなのだろう。そうじゃなければ怪奇的なミステリーだ。
あまり私が得意なジャンルの本ではなかった。
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