ねらいうち ②
生まれ変わるなら男と女、どっちがいい。
その問いに対し、大体の女子は真っ先に男子と答えた。男子も同じだ。少なくとも俺の周りではそんな感じであった。
「男子ってそんな大変なことってないでしょ」
「女子は面倒くさいからねぇ」
なんて言いながら、女子は大変という雰囲気を漂わせていた。別にそこは個人個人で違うから別に良い。
だけど、男子はお気楽に過ごしているなんてそれだけは間違っていると思う。少なくとも俺は男子だからと言って楽に暮らせた試しなんて無い。それなのに、なぜ男は気楽みたいな言い方をされなければならないのだろうかと常日頃思っていた。
かと言って、男子特有の大変なことを聞かれても、それは何かというのは分からない。
身体で男は生理みたいなことは無いし、胸が大きくて嫌らしい目で見られることなんて少なくとも俺、そして俺の周りは味わっていない。
まあ、後者については少し疑問がある。
それは、俺が中学生の頃にはそんなに流行っていなかったが、今はSNSで様々なコメントを見れる。
個人がコンテンツや自身の周りに対してどういう感情を抱いているかなんてのがダダ漏れの時代だ。
なんとなく、クラスの奴らのアカウントとかも知ってる。そして、その裏アカも。
その裏アカでびっくりしたことがある。
とある情報で、女子生徒の裏アカがバレた。俺らのグループのメンバーとかも、面白いから見てみよう、ということで見た。
初めは女子もなんだかんだで異性のことを意識してるんだ、と安心した。
「なあ、やっぱガチムチで顔が細いマッチョイケメンとかの絵とか載ってんのかな」
「え〜? それは無いでしょ」
そんなことを話しているのを聞いていたが開いたら想像を遥かに超えていた。
クラスで俺たちも見ている漫画のキャラクターが、思いっきり恥部を見せつけて、なんていうかヤバい表情をして全裸になっていた。
一瞬にして俺たちの表情は凍りついた。
他にも色々な画像があった。
正直に言うと、言葉で表現できる画像はさっきの場面だけしかない。他のは本当に信じられないほど卑猥な絵だった。とてもじゃないがとても言い表すことができないほどである。
しかも何が嫌なのかと言うと、俺たちが普通に見ている漫画やアニメとか本とかゲームとかのキャラクターが元になっているのだ。
「え……あいつ……男をこういう目で見てんの?」
「うわ……マジで……ちょっと引く……いやだいぶ引くわ」
「いや変態過ぎだろ。てかチン」
「やめて、しゅうやん。ちょっとトラウマだわこの画像」
俺たちは、半ば女子に抱いていた清廉潔白でマジメだったりした人物像が全て壊れた。
これがカースト低い女子ならまだ、あいつだからなんてことで済んだかもしれない。
だけど、その女子はカースト最上階で、誰からも、特に女子からはもうカリスマ的な存在と化している女子だった。昔のマドンナ的な人物を超越しているほどに。だから尚更ショックであった。
prrrrr
「あ、あいつからだ」
その後、情報提供してくれた男子と色々話した。
まあ成績悪い女子とかだったら分かるよな
そういえば、この間、あのバカ女に性行為したことあるみたいなの聞かれたな〜。あれってそういうこと?
え〜?? きしょい
てかこの人が見てるなら他の女子も同じような目で見てるってことで良いよな?
案外、こいつアニオタなんじゃね?
うっわ、オタクとかキショいだろ。
でも、最近は結構みんなアニメ見てんじゃね?
ばっか、こいつらが見るのは深夜アニメの、なんか男に媚びたような女キャラばっかのキモいアニメだよ。いや、この場合は女に媚びた男キャラばっかか?
キモすぎぃぃ〜!!
なんて言いながら俺たちは、笑い合ったもんだ。
次の日、その裏アカ女子は、クラスの全男子に無視された。少なくとも俺たちは、そうなるべきだと思っていた。俺たち、クラスの男子は誰もその女子に話しかけなかったし、カースト低い終わった男子からも、舐められた目で見られて、時々コソコソ何か話されていた。
日頃から下であることからの鬱憤ばらしだったんだろう。
俺たち男子はもう認識しないようにするほど避けていた。
だけど、女子は知らないのかそんな様子は無かった。普通に話しかけている。
それで、そのマドンナは俺たちとかに話しかけてきたが、もう無視しようとしていた。
当然、相手からはなんだコイツ? となる。だから途中で言われた。
「なんで無視するの?」
その女子と他に二人くらい取り巻きを連れて。
「え? 無視? いや、してないけど、な」
「うん、なんのこと?」
「無視してたら今も反応してないよな」
「うん、言いがかりすぎ。草」
俺たちはとぼけたが、とうとうその女子たちは怒りだした。
「ねえ!! 私何かやった!?」
俺以外の奴がニヤニヤするのが分かった。
「じゃあさ、これ……なんだ?」
そこで、リーダーのしゅうやんが、その裏アカを見せた。マドンナとその周りの女子の顔が凍りついた。
それ今だと言うように集中砲火。
「きしょくね? お前、普段俺らのことどういうふうに見てんの? こんなさぁ、キモい絵とかリツイートしてさぁ。何で恥ずかしいと思わねえんだよ。てか、男性蔑視じゃね?」
「てか少年漫画をこういう風に見ている女って本当にいたんだな。そういうのってキモいオタクしかいねえと思ってたけど、真由ちゃんでもなるんだな。ちょっとがっかりなんだわ」
「シンプルにキモい。てかお前らとか何考えて過ごしてんの? 頭悪い女とかそういうこと考えてんの? もしかして、俳優とかもそういう目で見てんの? やばくね?」
もう、散々だった。初め、マドンナの真由は反論しようとしたがこいつらの攻撃が全く緩まないから反論も許さない。
途中から項垂れるだけとなり、二人の女子が真由に顔を向けている。
終わった、完全に終わった。
多分、この女子はカースト最上階だったのが一気に最下位に落ちて、男女からいじめられんだろうな。変態として。
そう思った。だけど、ここからが予想外であった。
「反論とかってある?」
意地悪にも、しゅうやんはわざわざそういうことを言って、相手のボロを出そうとする。
直後、小さな嗚咽と鼻をすする音が聞こえてきた。真由が泣いているのだ。
無理もない。自身のSNSの内容を筒抜けに晒されていて、クラス全員にバラされて理由を追求されているのだから。
「なにが悪いの」
少なくとも俺はこの時、驚いた。
まさか、庇う者がいるとは思わなかった。
少なくとも、両隣にいる女子は引くと思っていた。しかし、俺の予想とは反対の行動をとったのだ。
今、思えばこの時、俺たちはすっかり甘く見ていた。真由がどのような存在なのかを。
そして、俺たちがどれだけ嫌悪されることをしていたのかを。
「そもそも、しゅうやんだってグラビア女優の際どい格好、てかバストとか拡大させている画像載せてんじゃん。しかも表アカで。あれはどうなの?」
「は? あんなのそこまでじゃねえだろ。てかグラビア女優差別だろ。水着姿の画像をツイートするのをどうなのって」
「話をねじ曲げないで。私はわざわざ水着姿の女性の胸を画面いっぱいに載せた画像を載せることがどうだって言ってんの」
「え? そんなの別に……てか好きにさせろよ、そんくらい」
「だったら真由の裏アカだって別に良いでしょ」
「だからそれは俺とか男が見たら」
「だったらあんたのその画像だって見てた女子、結構不快に思ってたからね?」
「は? 証拠あんのかよ」
すると、取り巻きの一人は周りを見渡した。俺たちもつられてそうする。
そこで気づいた。クラスの女子全員が俺たちを睨むように見ていたのを。
甘かった。そもそも前提が違っていたんだ。この世は漫画とは違う、そんなことは分かっていたはずだった。
今思えば俺は高校の時、カーストの上位の男子と女子は自然と仲良くなるものだと思っていた。よくドラマや漫画とかでそういう場面を見ていたからそう思っていた。
だけど、現実はそんなわけでもなかった。
男子も女子も、関わる回数はほどほどだった。よく見る漫画やドラマみたいに、いつもつるんでいるなんてものではなかった。
それなのに、何故か俺は通っている学校の自分たちの関係はそのようなモノだと思っていたんだ。
でも実際は違う。カーストが高くても、男子は男子、女子は女子、と固まっていたんだ。たまに、学校行事で男女が関わる時になればそうなっていたが普段は関わっていなかった。
そして、更に俺は秀平の奴に思い込まされている部分があった。女子同士の友情はそこまでではない、と。
違った。最低でも俺の学級は違った。
真由は、ほとんどの学年の女子と仲良かった。嫌う女子は僅かにはいたが、その理由はほとんどが容姿に対する嫉妬であった。
そしてその程度の嫉妬では、今、秀平が面白がってやっている裏アカの晒しの行為を見たらどう思うか。考えるまでもなかった。
「別に言う必要なかったから今まで言わなかったけど。しゅうやん、あんた結構クラスの女子はあんたのこと大っ嫌いだからね」
そしてもう一つ、俺は忘れていたことがあった。秀平は異様に自尊心が高く他人を馬鹿に見下していた。男子も女子も。そんな奴が今の言葉を聞いたらどうなるか。
秀平の方を向くと、あいつは身体中の血液が沸騰しているかのように顔を真っ赤にしている。目は大きく見開き、唇、そして顔全体がプルプル震えていた。
だが、わずかに耐えていた。もう声を張り上げそうならなるほど怒っているのはわかっている。だけどなんとか耐えていた。
「あんたたち大体、クラスや他の女子の顔とか点数つけてるよね!? 知ってるからね!? バレないと思った!?」
「ていうか、あんた。人のこと評価できるほどの顔なの?」
この時まで秀平は耐えていた。
今にもキレそうになり、目の前の女子を睨みつけながら黙っていた。
多分、女子に暴力を振るうのはヤバいとブレーキをかけていたのだろう。だが、直後。
ブハッ!!!!!
誰かが吹き出す声が聞こえた。
その声の方向を向くと、それはクラスで最もカーストが低い男子たちだった。
こらえられなくなったのだろう。
口を両手で抑えて笑っていた。
あの笑い方は知っている。いつも俺たちがやっていたんだ。相手をバカにする時に。
「んに笑ってんだ……」
立ち上がった。もう堪忍袋の緒が切れた声音だった。
目の前の机を蹴る。思いっきり机が倒れる。女子が短い悲鳴をあげる。
ヤバい、と思ったのか目をつけられた男子たちが逃げ出し始めた。
「まてゴラァ!!!」
その怒号は開戦のゴングだった。
もうまるで猪のように辺りを走り回り、机を倒しまくり自分を笑った男子まっしぐらに走ろうとする。女子が大きく悲鳴をあげたり机が倒れる音が響いたりでもう何が何だか分からない状態になっていた。
もはや、秀平にはだれの声も聞こえない。
それは明らかだった。いよいよ大変なことが起きてしまったと思った時だ。
飛び蹴りが秀平に襲いかかった。
フィクションの学校ならまずいないであろうが、俺のクラスには何人か元運動部で退部して帰宅部の男子が何人かいた。
その男子たちとかも秀平のことを嫌っていた。
運動ができないわけじゃないから、喧嘩もある程度は強い。我を忘れた秀平に飛び蹴りを喰らわせるのは簡単だったのだろう。
「いい加減にしろやてめえ!!!」
秀平以上の怒りを見せて二人くらいの男子が秀平に襲いかかった。秀平はそのままリンチ。同じグループの奴ら、そして俺は足が棒になったように動かなかった。
それどころか、俺以外は呆れたり、少し笑っていた。
何も言ってこなかったが、取り巻きの女子たちが睨んでいた視線が目に焼き付いて離れない。
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