管理人 ③








『はい、ではアデン』


『ありがとうございました』


 俺は音読ユーチューバーなるものにハマった。彼女の声は素晴らしくトークも面白い。


 しかもこれは、会いに行けるアイドルどころか離れていても会えるアイドルだ。


 一緒に話をすることだって簡単にできる。


 彼女も僕は違う小説投稿サイトで活動している。最近だと彼女は日間、週間、そして一ヶ月間において、一位を取っている。


 彼女が一位取っているなんてものすごく喜ばしいことだ。彼女の一位こそが僕の生き甲斐になった。

 だから、今日もやるべきことをする。


 このために買ってもらった十台のスマホを取り出す。携帯代は両親が肩代わりしてくれるから大丈夫だ。


 さて、そのサイトを開くと……あったあった。彼女の小説のマークに更新の文字が。


 これは新しく話が書かれたことを表している。彼女の小説の所を開くと、152話がNEWという表示とともに追加されている。


 早速読んだ。


物語の内容と読後間かく



 さて、十分魅力を堪能したら、いよいよ感想タイムだ。


 持っているスマホを全て彼女の小説が載ってあるサイトに入り、彼女の小説を表示させていく。


 そして一つ一つ長い時間をかけて、感想を書く。なるべく同じにならないように気を遣う必要がある。だから自然と長くなる。


 ふぅぅぅ〜


 疲れた。ビールを飲みたくなる。


 感想、そして新作へのレビューや星マークで評価する。


 今日僕がそうするのは10人。彼女は10人にポイントを与えられている。


 これで次の日はまた一位だろ。

 ぼくが評価を入れている最中や、終わった後もどんどんポイントが増えていく。


 良かった、彼女の支えとなっている。


 しかし、その次の日、彼女は二位に転落していた。

 何が起きたのか全く分からないしイライラしたので癇癪を起こしてしまった。


 だけど、この一位の奴を調べたら仰天した。


 この偽物一位は、なんとスマホやパソコンなど複数のツールを、持っておりそこから自分の小説投稿サイトに入り込み、評価していたのだ。


 ふざけるな、自分が一位になるのにそこまでするのか? みっともないしムカつく。


 ていうか2ちゃんみたら問題児として認識されており、色々と衝撃だった。


 通常と言えば通常なのかもしれないが、こういった小説投稿サイトには、読んでもらったら読む、という暗黙や了解がある。


 読んでもらったら、というのを何で判断するのか。それは、感想、レビュー、あとはブックマークや作品のフォローなどである。


 そして、ポイントなんてのをもらい、しかもレビューなんてのを書かれたら、自分も描いた方が良いのか、と思わせてしまう部分もある。だから読ませて自然とレビューを書かれてしまう場合がある。


 中にはレビューの内容が的外れだったり明らかに読んでいないのもあったりするので、そういうのは違反とされ、評価されていないとする小説投稿サイトもあるが、彼女の小説投稿サイトではそれが違反になっていない。


 それに、なんだかんだで同じスマホではなく、複数のツールを使い、ちゃんと読んでレビューなどをしているのだから違反というほどでもない。


 だけど、僕は許せなかった。そういうズルいことをする輩が。


 だからめちゃくちゃ調べた。


 Xや掲示板を見て、誰がどういうズルをしているのか監視した。


 全て彼女を一位にするために、ズルい奴は絶対に糾弾してやめさせる。彼女の邪魔はさせない。彼女はもっと上になるべきなんだ。


 スペースで話していてもなんて可愛いんだろう、と思うし僕の話とかいうことも否定してこない良い子なんだ。

 彼女は報われるべきだ。


 そう思い毎日、複数垢やフォロワーに異様な媚び、現役ホストを語り、金の代わりにフォロワーとレビューをつけてください、なんてのもあった。

 

 信じられない、こんなクズどもがいるなんて。世の中どうかしてる。正さなければならない。


 だから徹底的に問い詰めて、僕は仲間を作り注意喚起や警告をした。大人しくやめてくれる人もいるけど、中には自分は悪くないとか人のせいにしたり、無視を決め込む人もいた。


 ふざけるな、特に無視する奴はふざけんな。答えろ。逃げるな戦え。


 そんなことを繰り返していると、その日は突然来た。


「森杏 直哉さん、貴方に逮捕状があります」


「え……どういうことですか」


「いえ、貴方テレビを見ていますか?」


「いえ」


「最近、自殺がものすごく多発していましてね。原因を調べていたんですよ。まあ個人個人別々よ理由で自殺して、たまたまそれが同じ時期だったと言えることもできます。しかし、こういうのを見てしまいまして」


 そう言って警察官の人は僕に自身のスマホの画面を見せた。そこに映っていたアイコンは二つ。どちらも見覚えがある。


 上が一度違反めいたことをしてるずるい奴のアイコンで、下が僕のであった。

 そして、こう書かれている。


『死ね 卑怯者。こんなことする奴に小説を書く資格はないし、小説の才能なんて更にない』


 その下に少しリプ欄が見えて、そこには


『ぐう正』


『普通に神経疑う』


『ガチで自殺しろよ犯罪者』


 などのコメントがあった。

 これがどうかしたのだろうか?


『あの、刑事さん。これは何ですか?』


『貴方が送ったものですよ?』


『それはわかりますが、このことが何か自殺と関係あるんですか?』


『これ、最低でも自殺教唆などにあたりますよ』


『え? 自殺教唆? いや何言ってるんですか刑事さん。これは注意、または警告をしただけじゃないですか』


 ごく当たり前のことをいうと刑事たちは苦虫を噛み潰したよくに顔を歪めていた。


『彼等そして彼女等はこういうコメントが原因で自殺をしたと考えられます』


『え? 刑事さん勘弁してくださいよ。注意されただけで自殺なんて言ったらどうするんですか。誰も注意できなくなるじゃないですか』


『わかりました、そこら辺の話は署で聞きますので。はい、今は……22時41分』


 なんと刑事さんは手錠を持ち、こっちに来た。やめてくれ、と抵抗しても刑事さんの力は強い。全く身動きがとれず、そのまま手錠をかけられてしまった。


「いや、おかしいでしょ……ねえ、注意は誰でもするし必要でしょ!? それで死ぬようなことがあったらそれは言われた本人の自己責任でしょ!! てか精神弱すぎるんだよ!」


 そう言っても刑事さんたちは、はいはいはい、と取り合ってくれない。


 くそ、折角ニートという立場を使って小説家書いて成り上がろうとしていたのに何でこうなった。


 スペースで話をしたことから間違ってたか? それとも音読ユーチューバーにハマったことからか? それとも、初めから小説など書かない方が良かったのだろうか。


 そんなことを言っていてもしょうがない。

 だれか、だれか助けてくれ。ふざけるな、何で俺はこんな奴なんだ。こんなに運が悪い奴に生まれたんだ。


「ふざけんな、元はと言えば俺を育てた親が悪いだろうが!! 俺を放っておきやがって!!」


 口の中の舌がいつも以上に潤っているのが分かった。


 

 

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