管理人 ②





 楽しい、あれからスペースでトークするのが楽しい。やっぱり同じ小説仲間が出るのは良い。だけど、時々ちょっとチクッと来ることがあるんだよな。


『あはは、でもやっぱりそういう女々しい男って嫌ですよね〜。男らしくないっていうかね〜』


『ね〜。ホントそうだよね〜。てかあの人さぁ、なんか言動? 色々と片腹痛いんだよねぇ〜。恥ずかしくないのかな』


『さぁ、やっぱでもさっき女々しいって言ったけどさ、女って基本、陰湿じゃん。だから女っぽい……』


 女っぽい男も陰湿じゃね? と言おうとした時だ。


『ナオシンさん、ナオシンさん』


『ん?』


『それ、線越えてるから。その言葉、アウトだから』


『あ、はい。すみません』


 注意されてしまったから、謝罪をして話を続けた。


 その後は何事もなく終わった。だけど、何かは分からないけど、胸にわだかまりが重くのしかかっている……いや、嘘だ。本当はそのわだかまりの正体はとっくに気づいている。


 例えば、さっきの会話だと女が陰湿なのがダメなら女々しい男に対してもそう言ってくれよ、と思うし他にもある。


『ホームレスとかは生きる価値とか無いから死んでも悲しまないでしょ。だからデスゲームとかで全員そういう奴なの描いてみたい』


『てか、なんかそういう日本人の下らない価値観とかマジで無理』


 

 今の言葉は全て同じ人物が放った言葉だ。


 正直、どれもこれも許せるものじゃあ無い。少なくとも僕の中では。だけど彼は、

『オナクル』さんはみんなから許されている。何故かは分かる。


 それは、彼が僕たちの中で一番、書籍化に近い人物だからだ。かそれに有名な大企業に勤めて重役を任されていることもあり、地位も高い。これも原因だと思う。


 俺と同じ投稿サイトに小説を書いているけど、俺が逆立ちしても、今の評価の十倍、いや百倍にしても届かないほど差がある人もいる。


 彼の小説サイト内のポイントは百万を遥かに越えている。

 これはほとんど書籍化まで秒読みだった。

 そういうのもあってみんな彼が凄い人物だと思い従っているんだ。


 もちろん、今言ったことを誰かに指摘したら、そんなことない、とか、人柄が良い、とか言うのかもしれない。


 それは多分、嘘じゃないと思う。本気でそう思っているんだと思う。だけど、それは全部思い込みだ。それに気づかないからそう言っているだけだ。


 人よりポイントを稼いでいる

 良い企業に勤めてして、且つ、毎日小説を投稿している。

 オマケにプロ顔負けの絵も描ける。

 そして漫画も描ける。下手すりゃ並の漫画家よりも画力がずば抜けて高い。なんでお前これでプロにならなかったんだよ、と言いたいほどに。


 他にも小説評価でのポイントがたくさんあり、ほとんどを現金に変えて、それで何ヶ月分かは生活できるほどの金額を得ている、などなど凄い所が沢山ある。

 みんなの憧れの的で何らおかしくなかった。


 歯痒い思いをしながら僕は過ごしていたが、ある日、事件が起きる。


『なあ、なんか2チャンで見たんだけどさぁ。オナクルさんさぁ。ほとんど不正行為スレスレのことをやってたらしいよ』


『え!? マジ!? どゆこと!?』


『なんかさぁ、あの人、スマホをいくつも使ったり親に頼んだり、友だちとかに頼んでポイント得ていたらしいよ』


『え? それマ?』


『マ』


『ヤバくね? ただでさえ複数アカでポイント稼ぎでもヤバいけど、親友だちとかに頼んでポイント得ていたってヤバくね?』


『何か証拠あんの?』


『これ見てみ。検証画像なんだけどさ。この人この画像を晒すためにわざわざ鍵アカ外してるし』


『その執念もガチコワじゃん』


『ほら、この画像』


『……え……うわぁ……こりゃあかんわ」


『なあ、今さぁこの画像の奴らの検索、サイト内でしてるんだけどさぁ、今んところ誰も引っかからないんだけど』


『もうこれ証拠じゃん。いないことが証拠じゃん』


『てか、そこまでして書籍化したいってその思考回路が分かんない』


『ですよねぇ、そこまでしてまでポイントを入れたいって、ちょっとカワイソ 笑』


 そう、これはオナクルさんが友人や両親に金を渡し、更に自身の多くのスマホで小説サイトのアカウントを作り、自分の小説のフォローや感想を書いたりしてポイントを稼いでいたことが発覚した事件が起きた。

 

 それにしても、友人は分かるが親にまで金を積むなんて、案外、両者の関係は冷え切っていたのかもな。


 でも、まさかこんなに簡単にバレるとは。




 因みにそれらをツイートしたのは僕だ。


 具体的なことは、そんなに細かく覚えていないが、過去のツイートや画像とか見て、そこからグーグルマップとかを使い、住所調べて、顔とか見て、よく寄る所に行って尾行するなどして掴んだ。


 顔は案外調べるのは簡単だった。

 だって、自分からインスタのアカウント名を口を滑らせて言ったこともあったからそこから調べることができた。


 話もした。いつも通っているバーで何回も話をして、掴むことができた。


 昔から本を読むのが速いのが俺の特技だ。

 だから、色々なウェブ小説というかエッセイを見ていたら、賭け事で負けた時に、それがきっかけでいきつけのバーで話すことがある。


 俺はそれを使い、始めはバーで何回か見かけるような感じで行っていた。競馬やボートレース、競輪とかにも通っていた。


 その先その先で見かけたからと言って、自分のことをストーカーしているなんて、まず大多数の人は考えない。オナクルもその一人だった。


 そんなこんなで通っていると、あっちから話しかけてきた。


 そういう経緯を越えて、何とか色々と話を聞き出して、それがバラすのに丁度良かったからバラした。


 元々おかしいと思ったんだ。

 だって、ポイントを入れている人物の半分以上が、小説を投稿していないどころか、フォローとか評価もオナクルの小説だけしているから怪しかった。

 

 そしたら、見事にそれをバラしてくれた。


 ありがたい。奴もまさか俺がバラしているとは思っていないだろう。

 

 ほとんど中卒で引きこもりのニートである俺が来るなんて誰が予想できるだろうか。

 俺ですら信じられないのに。


 現実は小説より奇なり、とはよくいったものだ。不思議とあいつの悪事を暴きに行こうと思ったら外に行くしかないと思ったからそれが出来た。


 そう言うといかにも簡単に出来たんだと誤解されそうだが、初めは家を出るまで二週間かかった。そこから街を歩き、店に入る、電車に乗る、ホテルに泊まる、バーのような場所、競馬などの所に通うための練習で半年はかかった。

 

 もちろん、実際にホテルに泊まるなどは本番でしかできない。だから様々な動画を見るなどをして、ホテルってこんな感じでこんな人々がいるんだ、とイメージしていた。


 まあ、実際に本番で行った時は、初めは予想外にイメージを上回っていたから発狂しかけて、何回かあちこちで警察を呼ばれそうになった。絶対あそこの地域では俺はホテル業界のブラックリストになっているな。


 約一年かけて、オナクルの悪事を暴いた。

 この話を聞いたら、その情熱を仕事に使えよ、などと言われるかもしれない。

 俺はそうは思わないけど、よく頑張ったと自分で自分を褒め称えたいくらいだ。


 さて、ツイートした後、あれ? て思った人がいて調べたら化けの皮が剥がれたというわけだ。


「あ〜あ、あの人、今まで賛同してくれた人に散々なこと言われてるな「

「みんな好き勝手言うよな〜」

 


 前からおかしいと思ってた

 元々そんなに好きじゃなかった。

 あの人の話、実はほとんど聞き流していたけど、あの人、俺の返事にすごく嬉しそうにしてたから聞いているポーズをとった。

 

 バラした元凶は僕だけど、こひつらのここ態度は少し看過できないものがあるな〜。


 まあ、所詮その程度の付き合いだってことなんだよな。まあ俺がとやかく言うもんじゃない。


 そのまま、俺はそいつらからフェイドアウトしていった。


 その後、俺は別なことにハマった。


 

 


 








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