悪童 ②
中間試験、期末試験、この二つのイベントはやっぱりどいつも気が重くなる。
なぁ、テスト範囲どう?
広すぎ、ガチであいつキモい。
あ〜マジだりい。
言ってお前、案外高い点数取るだよな。
中間、順位十番台だろ?
なぁ、バッセン寄らねバッセン。
お前また行くのかよ。なんでそれでほとんどの教科九十点とか取れるんだよ。化け物か!?
こことこことここさえ勉強すりゃああと良くね? 絶対ここ出るよな。あいつ何回もチョークで叩いてたし。
え? マ? それマ?
どいつもこいつも焦ってるねえ。
部活が無いと、やっぱそれぞれのスポーツしたくなるよなぁ。俺とかならバッセン、こいつらとかはそれぞれの体育館とか使いたくなるよなあ。
でも、やっぱ面倒くさいよな。
スポーツマンってやっぱ譲れないプライドがあるからさ、マジになっちまって喧嘩するのともあるんだ。
小学生の時にも何人かいたよ。
中学校の今でも、包帯とかしている男子とかいる。全く、男子って繊細なんだぜ? 知らねえのかガラスの少年を。なんて話をして笑っていたこともあったな。
でもそれがきっかけの日になるなんて思ってなかった。
やっぱ趣味って大切だよな。
なんだっけ、そういうの。そうだ娯楽だ。
何事も、面白いことがなきゃ生きてる意味ねえもん。
「じゃあな翼〜」
俺たちは部活か無い時は五人で帰るってこの間の期末試験で決めていた。
そして、お楽しみはあの日と同じ、翼と別れてから始まる。
「なあ、ジャケットとかいらなくね? てか邪魔じゃね?」
おいおい、我慢できなさすぎるだろ優希。
まだ翼が見えている途中でそういうこと言うんじゃねえよ。肘打ちをしたい衝動に駆られるけど、なんとか押さえた。
「静かにしとけ、バレるって」
「は〜い」
優希は翼に手を振りながら返事をする。
その返事がウザかったのは目をつぶってやる。感謝しろよバカが。
「じゃあ、行こうか」
翼が完全に見えなくなった時に、俺たちは一斉に前を向いて歩き始める。
「なあ、あそこにまだいるかな。魚。まだいるかな」
「さぁ、いると思うけどな」
そう答えると将也は大口を開けて、目を細くして笑う。
正直、半分白目を剥いていてこよ笑顔はキモくて汚いと俺は思うけど、他の人たちからはどんな印象なんだろ。女子にある程度モテているから分からないけど。
俺が女子だったら、こんな勘違いブサ男とか論外なんだけど、なんて話を優希としていたことを思い出した。懐かしい。
将也と優希、今こいつらはこのグループ内の地位を巡って静かに争ってるからな。
水面下で動く冷戦状態、なんて呼ばれている。よく女子の喧嘩は冷戦を生む。そんなことを言われていた時期もあったけど、なんのことはない、男子も変わらねえな。
全く、こいつらが本当に純粋に友だちとして付き合っていると思っている男子、または女子がいたらお笑いだ。
当の本人たちは、互いに互いのことを嫌っているのによ。まあ、そんなことはどうでも良いんだ。
「ねえ、あ、あそこら辺とかにいっぱいいそうじゃない?」
「ない」
「五月蝿え」
「一生黙ってろ」
「え〜みんなひどいよ〜」
相変わらずかわいそ。
景吾、お前は自分でも分かっているよな? お前が一番この中で弱いんだからな? お前には実質、発言権なんてものは無いし、誰かを揶揄うもそうだが、ボケる自由もない。
ただ俺たちの誰かがイジった時に反応する。それだけが求められるんだからな。
例えば……お、早速、将也がやり始めた。
「おい、景吾、景吾景吾、ほら、これ」
そう言って将也は地面に落ちてあるなんかわからない葉っぱを景吾に見せる。
「え……え」
「ほら、景吾食ってみ。この葉っぱ食ってみ」
それを見て優希がバカ受けしている。
本当は俺も笑って大爆笑、としたい所だけど、このイジリ、結構さ、無理があるかもしれないんだよなぁ。葉に毒とかあって景吾が死んだ。なんてなったら少し厄介だ。
まあ、そんな時は俺は止めたとか関わっていないみたいなことを真っ先に言って否定する。後はいつも将也か優希のどちらかがこの遊びをしているから、責任はこいつらになすりつければ良い。
本当にこいつらは面白え。そして退屈しない。前者は今も少しそうだ。だが後者は少し否定的になっていた。
退屈といえば退屈であった。
なんだかんだで毎日おんなじことの繰り返し。そろそろイジリのレベルとか上げようかなと思っていた。この前の期末試験の休み期間あたりまでは。
今はぶつける先がある。こいつらもそれは同じだと思う。日頃の不満を晴らせる趣味があるのは、やっぱり良い。そんなやりとりをしていると目的地に近くなった。
着いた場所は公園、と言えば聞こえは良いが実際は川の近くで、ただ動物の形のホッパーが二台だけ置かれているだけである。
あとは申し訳程度のベンチと水道と、雲梯があるだけだ。見事に殺風景な所だ。
「バッグとか邪魔だよな」
俺の言葉でこいつらはニヤリと笑い、一斉に学生カバンを地面に投げる。
「これ以外と重いんだよな」
そこから俺たちはそれぞれの物を取り出した。ガチャガチャガチャガチャと音を立てて。そこに入っていたのは、エアガンとかだ。
これで俺たちはハントをする。
「じゃあ、今日もやるか」
りょうかーい
四人は静かに同意した。
「しっかしさ〜この音、良くね?」
言いながら優希は何回もカチャ、と音を立てて、弾を入れ替えるようなポーズをしながらエアガンを構える。
「あー分かる!! めっちゃ分かる!! これでしょ!? これ!!」
将也の奴も同じようなことをする。
ったく、お前らいくつだよ。中学生にもなってそんなカチャカチャ馬鹿みてえに音出すなんて、小学生のすることだろ。
まだコロコロ卒業できてねえガキかよ、くっだらねえ。
「あ、それ僕も……」
景吾が話しかけると、二人はそれを白けた顔をして無視する。その後、景吾が困っていると、再びはしゃぐ。だけど景吾が話しかけたらまた白けた顔して黙る。景吾あせる。
そこら辺はやっぱりノリ良いよなこいつら。景吾をちゃんと美味しくしてやってる。
三人の時、いつも言っているけど、これで景吾がいつかモテるようになったら、間違いなく俺らのお陰だよな。そしたら、何人か彼女紹介するべきだよな。
面白いのが、断ったらどうするかって聞いたら二人とも寝取るとか……クク……寝取る? 誰かと寝てから言えよクソ童貞。
やっぱ馬鹿だけど面白えわこいつら。
あ〜あ〜、また景吾が泣き出しそうだぞ? まあどうでも良いけど。
「あ、着いたか」
はい、俺たちの撃ちスポットはっけ〜ん。
ここで罠を張って待つ。獲物が来たら足を狙って撃つ。上手くいけば面白くなる。
「景吾、行けよ」
「え、ぼ、僕が行くの?」
「景吾しかいねえだろ」
「え、いや〜、それは」
「早く!!」
「わ、分かったよ……」
っぷ、相変わらず景吾ってかわいそ。
おれたちみんなに責められて、無理矢理することにいつもなって、いつまで経っても弱虫野郎。俺たちがいねえとどうしようもねえんだもんな。
「なんかさぁ〜。いっつも景吾が行くよな。何でだろ」
「さあ? いじめられてんじゃね?」
「いやいや、あれはイジリでしょ」
クク、面白え。
「お、置いてきたよ」
景吾の奴が帰ってきた。そうだ
「景吾、景吾」
「え」
「もしかして、使用したのか? 使用」
すると、おいおい図星か? めっちゃ焦ってんじゃん。もじもじして汗流してるし。
「え? ガチ? 景吾、ガチ?」
「やば、こいつ変態クソ野郎じゃん」
「ち、違うよ!!!」
「ばっか!!」
思わず景吾を殴った。いきなり大声出す馬鹿がいるのかよ。ちったぁ頭使え頭。
「い、いたい……」
っち、相変わらずウジウジしやがるこいつは。見てるだけでムカつくぜ。
「あ、来た」
優希の声で気を取り直す。そうだ、今は狩りに集中するべきだ。そう、俺たちがやっているのは清掃だ。
ザッ……ザッ…………ザッ……ザッ……
相変わらずこの手の奴は足音が大きいくせに鈍い。まあ終わってるから仕方ねえか。
「おい、周りに人いるか?」
声をかけると将也と優希が、それぞれ左右を見渡し、オッケーサインをする。
よし、一番の的だ。
そう思うと同時にターゲットが姿を現した。それは、冬に近い季節だからなのか、無駄に多くの衣服を着込んでいる男だった。
その衣服は、どれもこれも砂や泥だらけ、首や口にマフラーのように服を巻いているがその下に汚らしい不清潔な髭が生えているのが見える。病院に行けるわけないから怪我が直らないのか、右足がびっこを引いている。
そんな男が俺たちの前に足を運んだ。
さあ、かかれ。餌だぞかかれかかれ!!
すると、男はチラと地面、というか脇の草道に目を落とした。そこには俺たちが罠として置いた、少しだけ汚れたグラビア写真や、ドギツイプレイの雑誌が捨てられている。
男は首を向けて、それを見て止まった。
いいぞ、いいぞ、さあ行け。
男は周りをキョロキョロ見たかと思うとその雑誌に近づいていく。おい、今笑うなよ将也と優希。あいつのキョロキョロした様子が可笑しいからって。
そんなことを考えていると、男はもう雑誌のすぐそばに立っているのか、止まっている。さあ、あと少しだ。あと少し……。
男は雑誌を拾おうとしているのか、読もうとしているのか、膝を曲げて……そのまましゃがんだ。今だ!!
一斉に俺たちは銃を構えた。
タァン!! タンタァン!! タン!!
ギャッあぁ?!?!
男は聞いたことがない、なんとも醜い叫び声を上げて飛び上がる。
「行くぞ!!」
俺たちは立ち上がった。顔に、男が近づいている時に全員に渡した黒い覆面を被っている。
背丈が高いか高くないかは分からないが、少なくともいきなりこんな怪しい覆面なんて出てきたらビックリするのは当たり前だ。
ふんぎゃっは!?!?
男は人間とは思えないほどの弱者の怯えを見せると、逃げ出した。さっきまでびっこを引いていた足は、少しだけ歩きにくそうにしていたが、辛うじて走っていた。
「ハンティングタイムだ」
俺の言葉が言い終えると、みんな適度な速さで走り始めた。
理由は簡単、俺たちが普通に走ったら狩りが終わってしまう。だから、できるだけゆっくりゆっくり行かないと狩りが楽しめない。
だからじっくりじっくり痛ぶる。
獅子はうさぎを狩るのにも全力を尽くすと言う。ああ、俺は今、獅子だ。追っている対象はうさぎでは無いが、とりあえず弱い生物だ。
お前は、俺の娯楽のために生きていたんだよなぁ!?
そのまま、俺たちはエアガンを撃ちまくる。だけど素人だから中々当たんねえなこれ。
「い、痛い……やめ、やめて……やめてください……お、お願いします……やめてください」
おんもしれぇ。ガチで高笑いしそうになる。お前らが人に働けとか言われてもしなかったように、こっちもしねえんだよ!!
そのまま構わずエアガンで足を狙って撃ち続ける。時々、コントロールミスで背中とかに当たったりするけど、基本はやっぱ足にあたるな。
さて、苦しくなってきたか? おいおい、血液を漏らしてるぜ?
「やめ……おね……やめ」
とうとう男は足の、動きが止まった。
観念したのか、痛くて足が動かなくかったのかどうでも良い。
男が止まって泣いている事実が分かれば良い。ここから俺が畳み掛ける。
「え、やめてって何をやめて欲しいの?」
「撃つ……撃つの……やめてもらって、やめて……やめてください」
「いや可愛い女の人が言うなら信じるけど、おじさんが言うとさ、信じらんないんだわ」
「え……なん……なん」
「ねえ、おじさんさ。なんでホームレスなったの? 借金? 保証人? パチスロとか? どれにしてもさ、同情の余地なんて無いんだよね」
「こ、殺す、んですか」
「……うん、そうかもね。殺しちゃおうかな」
すると男は再び泣き出した。
あ〜やっば、最高。これほんとたまんない。欲情とかは無いけど、心の底からスッキリする。良いストレス解消だ。
「お前は生きてるだけで罪なんだよ!!」
「そーだそーだぁ!!」
おいおい、今は俺の見せ場なんだけどなぁ。優希がでしゃばる場面じゃねえぞ?
「ゆ、許してください」
男は頭を下げて土下座した。いいね。
「あの……どうか、許してください」
「う〜〜〜〜〜ん……嫌だよ、許さない」
「こ、殺すの?」
「うん」
タァン!!
左足も撃った、まだエアガンだから本物よ銃よりはきつくないかも知れないけど、それでも痛い。さて、フィナーレだ。
はあっ、はぁっ、はっ、はっ、はっっ……カサ…………ハッハッハッハッハッハッハッハッ
ダダダダ
ぐあっ
ダダ
がっ
ダダ
ぐぎっ!
ダ
ギャッ!
ダ ダ ダ ダ ダ ダ ダ ダ ダ ^_^
ザッ……ザッ……ザッ……ザッ……………ザッ
カチャ
「や、やめ」
タアン…………バタッ
ザッ、ザッザッ、バタバタ…………………
………
トプンッ
「連続で他の奴と重なった時に撃つと、なんかガトリングみたいな音が鳴るな」
「ああ、分かる分かる、なんかエアガンってもうちょっとコンパクトなイメージあるけど、大輝が持っている奴ってちょっと違うよな。なんか、連射できるし」
「見た目とか俺たちのと変わんないのにな」
「あぁ、まあ少し特別性なんだ」
へぇ〜
こいつらは何の疑いも無く感心した。
こいつらが馬鹿なのか、それともグループのリーダーってのはこういうのも当たり前なのか分からないが、簡単に言うこと信じるんだなこいつら。
エアガンとかはこいつらが取り出した。
だけど俺のは少し特別な銃だ。
高かったんだよなぁこれ買うの。身長が高いのか顔が大人びていたのか分からない。
それか値段が値段だったからか? 一般的には高いもんな、この銃の値段は。
その手のサイトで買った銃だこれは。
今までのお小遣い全部使ってまった。
まあ、もうすぐ正月だし、そこでお小遣いとか貰えばいいか。
まあ、でもギリギリだったなぁ、見た目が誤魔化せる連射の銃は。
やっぱ、狩りは最高だ。
世界を綺麗にしている気がする。
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