かもとりごんべえ ③
「ごめん、権兵衛」
別なクラスでしたが再び会った拓哉君は、いきなり僕に謝ってきました。
「え……どうしたの……突然」
もちろん、僕は困惑します。
「その、俺、今までお前に嫌なことばっかりしてきた。俺気づいたんだ。今まで人と仲良くなる時、常にお前を利用していたことを。だからごめん、今更かもしれないけど、ちゃんと友だちになってくれないか?」
そうか、気づいてくれたんだ。
あの時とは違う意味で、目が大きくなったのが分かった。
「うん、こっちこそよろしく」
それからは穏やかな日常だった。
毎日、拓哉君と何か話をしたり、他の男子も混ざることがあるけど、拓哉君は僕をダシにして嗤いませんでした。
以前までいた、少し嫌な人たちもいないし、智久君は別のグループにいました。
たまにこっちを見てひそひそと話しているのが聞こえました。内容もバッチリです。
だけど気にしません。僕には被害がありませんから。
そしていよいよ、卒業しました。
その後、何かのタイミングで僕たちは卒業文集が置かれている部屋に居ました。
「あのさ……権兵衛。俺、お前とは色々あって色んな奴とさ、友だちになったけど……やっぱりお前が一番良いや。お前が一番の親友だよ」
「……うん……そうだね」
「権兵衛、本当にありがとうな」
拓哉君はこれまでと全く違う晴れやかな笑顔を僕に向けてくれました。もうこの間まであった心のわだかまりは溶けました。
「うん、こちらこそ、ありがとうね」
僕は、せいいっぱいの笑顔を向けた。
ごんべ〜のはたけ〜のカラスがな〜いた
い〜つま〜でたって〜もと〜ばず〜にな〜く
ほ〜じく〜りほ〜じく〜り
い〜つもおんなじと〜ころ〜を〜
ほ〜じく〜りか〜えし〜てば〜か〜り
ほ〜じく〜りか〜えし〜て〜はつ〜ちま〜きち〜らす〜
せ〜っか〜くう〜めて〜もほ〜じく〜りか〜えす
かえして〜るう〜ちに〜はたけがな〜くなる
「い〜きが〜いい〜きが〜いほ〜じく〜りか〜えし〜、なかったようにし〜てて〜もほ〜じく〜りか〜えす〜。な〜かま〜をや〜られ〜や、したいだってつ〜いばむ〜」
ザク、ザク、と小気味よい音を鳴らしながら黒の地面に穴を掘る。何回も何回も突き刺しては掘る。
僕は知っていた。拓哉君は、本当は仲間外れにされたから僕を頼ってきたことを。
智久君たちが話していた内容でそれが分かった。
「なあ、拓哉の奴さぁ、よく自分がいじめてた奴と仲良くできるよなぁ、まあ、あの権兵衛もお人好しすぎるけどな」
「アレだよな、この間のあれダサかったよな。拓哉な」
「そうそう、智久の弟、智則君? まだ小学生二年生だっけ」
「うん、流石にアレにマジギレして半泣きになっていたのはダサいわ。なんかイメージ崩壊した」
「ホンットそれな。ありえないでしょ、しかもポケモンの対戦で負けてさ、智則君に雑魚呼ばわりされてガチギレとか。ちょっと子どもっぽいよな」
「もうあれでこいつは無いわってなったよな。てかさ、智則君に暴力振るうのはダメでしょ」
「な、他人の弟泣かせるとかヤバいでしょ」
「おいおい、智久、悪い奴だなお前。智則がギャン泣きしてるのをお前めちゃくちゃ笑ってただろ」
「あ、バレてたか」
「まあ、どっちにしても、もう拓哉はねえわ。可哀想にな、あいつあの後ず〜っと引き攣った顔しながら笑うしかなかったんだぜ」
「いやそれしたの俺らだろ」
「はは、そうだな」
「悪い奴だなお前」
「お前もだろ」
「まあな」
「褒めてねえし」
汚い声の大爆笑。そして最後に言った。
「まあでも良かったんじゃね? やっぱりあいつの一番は、あの都合の良いお友達だし」
ねえ、拓哉君、僕のことをずっと、そして今も下に見ているだろ。そしてずっと友だちみたいなこと言ってたけど、君はすぐ裏切るよ。確実にそう言える。
その時が来たらまた僕をダシにして友だち作りのきっかけを作ろうとする。
すごいよね、頭良いのにそんなに同じことを繰り返すとか芸がないよね。
「ふぅ」
もう十分ほじくりかえしただろう。
目の前の黒、そしてポツンと見える赤だまりを見て十分だと悟った。
後は、色々やって……
二ヶ月後
前日たまたま音楽室が使えないとされたから特別体育館にある楽器やその器具を運んでいた。
「いや〜権兵衛せんぱ〜い、権兵衛せんぱ〜い」
「ん? どうしたの?」
「え? 話聞いてなかったんですか?」
「あ、ごめん。聞いてなかった」
「はぁ〜、男子には、女の子みたいなドロドロした人外関係とか抜け駆け、とかの策略とかってないんじゃないですか?」
僕は今までのことを思い出していた。
「でも、つい一年前とかこの学校の男子が行方不明になってるし」
「え、なにそれ」
「まだ行方がどこにあるか分からないし、事件だとしたら犯人が誰なのかの目星もつけられていない。もしかしたら最近の中学生の行方不明事件に関連しているって声もある。たしか、行方不明者って全員男性だったよね。珍しいなって思って」
彼女が全く何も言わないので見ると、笑ってしまった。彼女の真っ青な顔がおかしくて僕は笑った。
「男子の友情か〜……僕にはよく分からないや」
そう言ってせいいっぱいの笑顔を向けました。
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