私人逮捕 ②




 今の時刻は十九時四十八分、夜はまだまだこれからという時間帯だった。


 三人は、何かをするのいうわけでなくそれぞれ過ごしている。


 里瀬は小銭を探すように目を光らせて周囲を見ている。

 そんな彼を見てレオンは、ちょっと不審者と勘違いされることを危惧したが、突っ込んだことを言うと、また里瀬が不機嫌になることも考えられたのでやめた。


 ヒデはすっかり飽きているのか、いつ買ったのか、ナゲットとポテトチップスの両方を食べながらあくびをしている。


 なんにせよ退屈な時間には変わらなかい。 時刻はとうとう九時にまで食い込んできた。二時間をとっくに過ぎても不審者は全く発見できない。


「ねぇ、里やん。もうやめない?」


 とうとうレオンは思ったことを口から吐いた。答えは聞くまでもない。


「ダメだ、続行だ。不審者を見つけるまで絶対にやめない」


「いや……でもさぁ……」


 レオンは思っていた。ここで一時間以上もたむろしている自分たちの方が十分不審者なのではないか? と。


 しかし、当の本人はそんなことを微塵も感じていない。


「いいからやるんだよ。ここで人生変えんだろ? なあ」

 

 レオンは思いっきり大きくため息を尽きたい気分になった。その言葉はたしかにレオンが里瀬から誘われた時に言った。


 しかし、今はこう思っている。


(確かにそう言ったけどさぁ……そういうことじゃないんだよな。そういうことじゃあ。だってこのままだと、ある意味、俺たちの人生変わるよ? 悪い方向にさ)


 ヒデからも何か言ってくれ、とレオンはヒデに視線を注いだが、ヒデは別な所に集中して見ていた。


(相変わらずお気楽なやつだ)


 レオンはそう思っていたが、ヒデの視線の先を見ると、やがて彼がある一点をしていることに気づいた。


 レオンが不思議に思ったように、里瀬も訝しげにヒデを見る。


「なあ、あれ何?」


「「ん??」」


 二人は、ヒデが何のことを言っているのか分からず、首をかしげた。


「え、もしかして……霊的なモノが映ったとか」


「へ?????」


 レオンの反応にヒデは、素っ頓狂な声を出したが、すぐに呆れてため息をついた。


「だからさ、ああいうのどうなの?」


 ヒデは顎をしゃくり上げて、向こうにいる男を見るように示唆した。


 二人の目に入ってきたのは、ずっとコンビニの前で駐車ガードレールの上に座っている男がいた。男はニタニタ笑顔を浮かべさせ、自分のスマホを見ている。


 時々、噴き出したりして、ニタニタと気味の悪い笑みをしている。


 レオンは、ヒデがその男を怪しむ気持ちが少し気持ちがわかる気がした。というより、その男の容姿に注目してそう思った。


 男は、服が所々穴が空いている部分があり、髭もろくすっぽ剃っておらず、髪も長いのに全く整っておらず、どこか不清潔な容姿をしていた。更には顔がげっそりと頰が頬骨が出そうなほどやつれていることから、ろくに食べ物を食べておらず、不健康そうな毎日を送っているのは明白であった。


 なぜか背負っている黄色いリュックサックも、どこか薄汚れている。古くなった物を買い替える余裕が無いのを思わせるほどだ。


 全体的に見ると、その容姿はものすごく怪しく、変な動画を撮っていたとしてもおかしくはない。


 今、目の前にいる人がもし盗撮をしていたとしたら、自分は責めることができるのだろうか。仮にそうだとしても、容姿が怪しいだけで不審な目を向けるのは少し憚られる。

 それに、盗撮なんてことをしていない可能性だってある。

 レオンは少し不安になる。


「なあ、ヒデ。あの男いつからいた?」


 そんなことを考えていると、横から里瀬が入りヒデに聞く。里瀬はそんなことを考えなかった。今はもう、目の前にいる男が自分の餌になるかならないか試しているようであった。


「ああ、八時あたりからずっといたよ。まあ、さっきまでトイレ入ってたけど。それも少し怪しいけどね」


「でかしたヒデ!!」


 パァン!!!


 景気のいい音がレオンの耳に響いた。

 里瀬が両手を、思いっきりクラップさせたのだ。


「よし、あいつを狙うぞ」


「え、ガチ?」


 レオンは、本当にあの人は何か罪を犯しているのか疑問に思ったが、それでも里瀬は自信満々の様子だ。


「良いんだよ。とある私人逮捕の動画見てたら怪しい動きしてて、スマホ見せてと言って無理矢理見たやつがあったんだ。そしたらモノホンの変態で、警察行きになったからな〜。いや〜、あれは思いっきりスカッとした〜!」


 スカッとした。そんな気にレオンはなれない。もし、自分がなんかの手違いでそうなってしまう未来だってらあってもおかしくなかったのだから。


「よし、行くぞ」


 里瀬の言葉が号令の合図だ。


 レオンはスマホを持つ。

 ヒデはポケットに両手を突っ込み太々しそうな態度をとり、歩き始めた。


 

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