【短編】二重構造の追放からの成り上がりざまぁが起きた話

八木耳木兎(やぎ みみずく)

【短編】二重構造の追放からの成り上がりざまぁが起きた話





「イーサン、お前は、パーティー追放だァ!!!」







 そう言うと、勇者・ドルグは俺を殴り飛ばした。








「な、何を言ってるんだァ!!!」










 追放を言い渡された冒険者・イーサンは、同じように俺を殴り飛ばしながらそう答えた。









「言葉の通りだァ!!! お前を! これ以上! パーティーメンバーとしては! 認められねぇ!!」



 ドルグは俺の顔に連続パンチを食らわせながら、イーサンを見下すように言った。



「追放、なんて、あんまりじゃないかァ!!!」



 俺の腹や脚に蹴りを食らわせながら、抵抗の言葉を投げかけるイーサン。




「バカねぇイーサン、貴方みたいな人が……なんて言われているかわかる?」

 ぐったりと倒れる俺の下に、赤い光を放つ魔法陣が浮かび上がった。



「【役立たず】よっ!!!」


 ボオォォォ!!!


 魔法使い・ディアナの放つ炎属性の上級魔法が、俺を火だるまにした。





「最近戦闘でも、採集でも、何の役にも立ってねぇしなぁ!!!」


 シュババババ!!!!!

 すぐさま盗賊のレミルのナイフさばきにより、ヤケドだらけの俺の身体は更に傷だらけになる。





「だから前々から僕たちだけで話し合って、抜けてもらおうと決めていたんだよね!!!!!」


 ザスッザスッザスッ!!!

 弓使いのロッシュの放つ矢が、俺の胸、肩、右足を串刺しにする。




「くそぅ……くそぅくそぅくそぅ……わかったよ!! こんなパーティー……俺から願い下げだッッッ!!!」


 怒りをぶちまけるかのように俺の後頭部に延髄斬りを食らわせた後、イーサンは悔しそうにその場を出ていった。





「フッ……最後まで!!! 情けない奴だったなァ!!」


 吐き捨てながら放たれた、超古代文明の技術による合金でできた大剣による一閃。

 勇者・ドルグはその一閃で俺の身体を真っ二つにすると、パーティー仲間と共にその場を出ていった。




◆   一年後   ◆




「断る!!!」



 俺のみぞおちに拳を打ちこみながら、イーサンは目の前の相手の要求を断った。

 追放後、彼はチートスキルに覚醒し、国内最強の魔法剣士となっていた。



「た、頼むよ……俺たちの! パーティーに! もどって! 来てくれよ!!」



 ズタボロ姿の勇者・ドルグは、そう言いながら俺の顔を何度も殴った。

 イーサンの成功の裏で、彼のパーティーは最強モンスターの縄張りを荒らした結果モンスターの群れに襲われ、散り散りバラバラの状況になっていた。



「俺はもう、お前たちのパーティーに戻るつもりはない!!!」


 魔法剣士特有の一糸乱れぬ剣捌きで、俺の身体は傷だらけになる。


「三年間冒険を共にした仲じゃないか!!」


 ドルグも俺を剣で斬りつけた。1年前俺を真っ二つにした大剣とは、似ても似つかないナマクラ剣だった。


「もう!! 遅いんだよ!!」


 魔法剣士最強の技、【エアリアル・スラッシャー】をかました。

 真空の衝撃波によって、俺の身体はズタズタにされる。


「戻って来い!」

「もう遅い!」

「戻れ!」

「遅い!」


 そう言い争いながら、俺の顔や体を何度も傷つけるイーサンとドルグ。








 



 ――――――――――――――――――もう、そろそろだな。










 何度も殴られながら、俺はそう思った。



「戻れ!」

「遅い!」

「戻れ!」

「遅い!」

「どっちでもよくないか?」



 言い合っている二人に、俺はただ一言だけ呟いた。

 もう立っていられるのがやっとの状況だったが、それでも覚悟を決めて立ちあがって発した一言だった。



「「あ?」」



 眉間に皺を寄せて反応するイーサンとドルグ。

 二人とも飼い犬が急に人語を喋り出して反抗してきたかのような、強烈な不快感が表情に出ていた。



「本当の【成り上がり】も【ざまぁ】も……ここから始まるんだ」

「黙ってろ、スマル族の奴隷が喋ってんじゃねェ!!」



 魔法剣による強烈な一閃を、イーサンは俺に食らわせた。

 ふっ飛ばされて地面に倒れ込んだ俺だったが、その顔は笑っていた。



「スマル族の奴隷……か」



 スマル族……

 この国、パクラ王国で、会話のたびにサンドバッグにされてきた被差別民族。

 故郷のマッシュ村をパクラ王国に征服され、燃やされ、土地を追放された結果、この部族は奴隷として、勇者や冒険者たちに、息をするように殴られ続けてきた。

 ドルグ率いるパーティーで俺も、パーティー間で暴力沙汰が発生しないように、ストレスのはけ口として殴られる奴隷として飼われてきたのだ。


 だが彼らは知らなかった。

 スマル族から千年に一度……虐げられてきた同族たちの怨霊、呪いを魔力として蓄積させ、発動させる、【怨霊使い】が産まれるという伝説を。

 殴られ始めた時から、視界の隅に付いていた謎のゲージ。

 俺は勇者パーティーにあえて殴られ続けることで、【覚醒】のためのゲージが満杯になるのをじっと待ち続けていたのだ。



 ―――キラーン。



「今の一発で、必要殴打量ゲージは溜めさせてもらったよ……!!!」


 その時。

 自分でも驚くほどの強い魔力が湧いてくるのがわかった。


「ひっ……!!」


 これでもフルパワーにならないよう制御しているつもりなのだが、その制御した魔力を感じとっただけで、イーサンもドルグも目に見えて怖気づいているのが分かった。


「許しを請いたいところだろうが……【もう遅い】ぞ」


 禍々しい光の波動を、俺はイーサンやドルグに対して放った。

 散々殴られたことの怨みを、返すかのように。










 ◆   ◆   ◆












「さて……と」


 一息ついた後、俺はその場を去ろうと踵を返した。

 背後には生きているのか死んでいるのか分からない、イーサンとドルグのなれのはてが転がっている。

 そんな俺を、呼び止める声があった。


「完全に覚醒したようね、【怨霊使い】さん」

「あぁ、君か」


 イーサンとドルグの仲間かと思って警戒したが、見知った顔だったのですぐに警戒を解いた。


「君にはいつも助けてもらった。礼を言わないとな」


 ドルグやイーサンに殴られるたびに、彼を治癒魔法や蘇生魔法で治していた白魔導士・ピアラが、俺の下に来てくれた。

 表向きは奴隷が殴られた後死なないように癒やすお雇い白魔導士だが、【怨霊使い】の伝説を先祖代々語り継ぎ、スマル族の同胞たちに希望をもたらしてくれた語り部の一族の末裔でもあった。

 俺の視界の隅に写るゲージの意味を、俺に教えてくれたのも彼女だった。


「ところで、提案があるんだが」


 俺自身の復讐はまだ冒険を終えるわけにはいかない。

 奴隷として虐げられてきた民族自体の怨念を、俺は背負っているのだから。


「俺と、一緒に冒険ふくしゅうを始めないか?」

「ふふっ、面白そうね」


 ピアラはゆっくりほほ笑んで、そう言った。


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【短編】二重構造の追放からの成り上がりざまぁが起きた話 八木耳木兎(やぎ みみずく) @soshina2012

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