epilogue

 その日、一人の少女の死と共に、世界の運命は大きく変わってしまった。精神移植を非人道的な行為であるとして、およそ五年に渡って禁止を求める運動が行われた結果、ついに昨年、いかなる場合も精神移植を認めぬものとする法律が制定された。

 たしかに、精神は人が生きる為に無くてはならないものであると同時に、他のどの器官よりも壊れやすく、人体の中で最も神聖にして未知なる領域である。

 けれど、私の胸の奥にはあなたの精神が──世界で一番きれいな心が宿っていて、そのおかげで、私は今、こうして生きていられる。小さい頃からの夢を叶えることだってできたんだよ。

 メルシィ、私、作家になったの。あなたが主人公の物語を書いたのよ。素晴らしいことに、初めて書いたこの作品が大ヒットして、どこの書店にも在庫が無いくらいなの!お父様やメヌエから話を聞いて、優しくて無邪気なあなたを想像しながら物語を書き進めるのはとても楽しかった。だけどその度に、あなたと一緒に遊べたらどれほど楽しかっただろうって、毎日胸が苦しくなるの。

 此処に手向けられた花束やプレゼントの数からも、あなたがどれほど多くの人に愛されていたか──そして、今も愛され続けているのか、きっと、あなたを知らない外国の人にだってわかるでしょうね。

 大好きなお爺様には会えたかしら。会えたに決まっているわよね。だって、あなたたちは同じ場所で眠っているんだもの。

 あなたから貰った最高のプレゼント。そのかけがえのない精神に相応しい人生を歩み、たとえ誰かに傷付けられるようなことがあったとしても、何度でも立ち上がってみせる。

 だって、私はメルシィ、あなたなのだから。

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華麗なる精神 白井なみ @swanboats

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