幕間
「そういや嬢ちゃん、先週通信長が心不全で死んだ。これで残るは俺だけだ………」
「そう……」
「俺ももう永くはない、そしたら嬢ちゃんどうするんだ」
「そうね、一人でどこか遠くへ行ってみたいわね。地平線限り無く延びる広野を見てみたいわ」
「そうか……」
「わたしは仕合せね、ほんとに……」
「嬢ちゃんがそう思えるならあいつらも靖国でしあわせにやっているだろうな」
「ええ、きっと彼らは彼の地で救われているとおもうわ。だって想いがあるもの、みんなの無念と同じだけ希望があるもの、それだけさえあればひとは明日を生きられるわ」
「ところであの少年とは………」
「彼に導かれた、とでも言おうかしら。わたしにもわからない。でも、こうしてあなたたちと共に生きられたということはそれだけでわたしがあなたたちと生きるに値したと言えるわ」
「だが俺たちは今、生きているとは思えない。社会が変わり、見渡す限りの焼け野から日本中がこうも復興したとしても、俺たちは常に苛まれていた………」
「わたしたちだってそうよ………たとえ生きるに値した生であっても与えられたものがどんなものか分かっていたのなら、生誕することすらも辞退し、静かに解放されたかったわ」
「だが、俺たちはこうも存在しているということだ。それに意味や価値を見いだすかはさておき、俺たちはその生を少なくとも死ぬまでは大切にしなきゃならん。難しい話だ………」
「そうね………」
「………ところで嬢ちゃんはあいつのことをどう思っていたんだ」
「………淑女にそれを問うのは無粋よ。海のおとこってやっぱり品がないのね」
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