番外編 アフォガートのたたかい方

第1話

番外編 アフォガートのたたかい方


▫︎◇▫︎


 モカの去って行く背中を見送ったアフォガートは、そのまま踵を返し、実家へと帰宅しようとして諦めた。


「………ラテ嬢………………、」

「どこに行こうとなさっているのですかぁ?———アフォガート様」


 目の奥が笑っていない表情で庇護欲を誘う笑みを浮かべられた彼の全身には、これまでに感じたことがないほどに酷い悪寒が走っていた。

 死にかけるくらいに風邪を引いた時でも、ここまでの悪寒を感じたことなど無かったのにも関わらず、ラテの微笑みを見るだけで、彼の全身には酷い悪寒と怖気、そして何より憎悪が宿っていた。


 ………気持ち悪い、


 うぅっと口元を押さえかけながらも、商家である実家で鍛え上げられた営業スマイルでにっこりと微笑んだアフォガートは、恭しい仕草で一礼をする。


「此度のことを、我が父であるマキアート家の家長にお話しせねばなりません。少々帰宅させてはいただけませんか?」


 後ろに立っているカプチーノのから発せられる毒蛇のようなおどろおどろしさに、笑顔を引き攣らせそうになりながらも、アフォガートは言い切った。

 我ながら事なかれ主義の弱虫にしては頑張った方ではないだろうか。


「あら、そうですの?お母様、いかがなさいますか?」

「………何故子爵家である我々が、男爵家であるそちらの家の意向を伺わねばならぬのかしら。格下は格下らしく媚び諂っておきなさい」


 ニヤリと笑って言い切ったカプチーノに、アフォガートは唖然とした。


 貴族同士の婚姻はいわば契約。

 ………………常識はずれにも程がある。

 というか、コレ、間違いなく類を見ないほどに父上が激怒する未来が目に見えるな………。


 アフォガートは密かにアメリカン家を乗っ取れという命令を父から受けていた。

 それなのにも関わらず、下ろしやすいモカが婚約者ではなくラテが婚約者になった時点で、父にとってこの案件は終了に向かうものであろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る