第4話

「おかあ、さ………ま?」


 虚な目をして笑っているカプチーノの身体からはとめどなく赤いものが、カプチーノの命がこぼれ落ちて行く。


「あらまぁ、死んじゃったわねぇ」


 妖精という呼び名が思い浮かびそうなほどにふわふわした印象の美女が、カプチーノのそばに座り込みカプチーノの首筋に触れる。


「あぁッ!!なんて美しいの。こんなに温かい死体は久しぶりだわッ!!」


 心の底から嬉しそうに、熱に酔いしれたような声を上げた妖精のような美女は、血溜まりにとっぷりと浸かった血だらけの手を嬉しそうに頬に当て、その凄惨な血濡れを自らの唇に紅のように塗る。

 ほうっと溢れる美しい妖艶な微笑みが、母がもうこの世にいないことを否応なしにラテに伝える。


 わたくし、は、………どこで、………まち、がえたの………?


 呆然と地面に崩れ落ちながら、ラテの思考は死へと誘うメリーゴーランドのようにゆっくりと回り始める。


 あの、疑り深く他人を信用しないお姉様が一瞬で婚約を結んだと聞いた時点で?


 お姉様が愛する人ではないはずの人と婚姻を結ぼうと挨拶に来た時点で?


 それとも、お姉様が婚約の挨拶に来ると聞いた時点で?


 どれも正解で、けれど、どれも不正解な気がする。


「あら?この子も壊れちゃった?」


 美女の声をどこか遠くに聞きながら、たった数分で一気にやつれ正気を失ったモカは、13番目の離宮へと連れて行かれる。


「あらまあ、この子侍女を連れていないじゃない」

「まあまあ、それは大変。ここでは“実家の財力”でしか生きられないのに」

「そうねぇ。この子、こんなに広い離宮をひとりで管理しないといけないなんて、とぉーっても大変ね」


 うふふっ、あははっと話しながら遠ざかって行く美女たちの声を聞き届けたラテは、それから数日後に彼女たちの言っていた言葉を真の意味で理解することとなった。


 ターキッシュ伯爵家の財政状況は火の車で、侍女は愚かメイドすらもいなかった。

 だから、侍女を連れて屋敷に来なかったラテは全ての家事を自分1人で行わなければならなかった。


 愛らしささえあればどこでも生きられると教え込まれたラテには、当然家事なんてできるわけがなく、それから数週間後、13番目の離宮からは腐敗臭が漂うようになったらしい———。

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