第3話

 美女の言葉に恐々と後ろを振り返ったラテは、ひゅっと息を呑む。


「お母様ッ!!」


 地面に倒れ込んだカプチーノは、開いたままな口から涎を垂らし、血走った瞳から涙をこぼしていた。


「アハッ、アハハハッ!!」


 咄嗟に最愛の母であるカプチーノに駆け寄ったラテは、地面に膝を突き、カプチーノ抱き起こす。

 虚な瞳がジロリとラテに向かった瞬間、ラテはパッとカプチーノの身体から手を話してしまった。


「おかあ、さま………?」


 ぶらんぶらんと上半身を揺らした母は、いつのまにかしわがれてしまった肌を真っ赤に染め上げ、皺という皺に深い深い溝を刻み、血走った目で瞬きする事なくラテのことを見つめながら唾を吐きつけるように大声を出す。


「お前のせいでッ!!お前が勝手な行動をするからこうなったんだッ!!昔からバカなヤツだと思っていたがッ、ここまでバカだとは思っても見なかったッ!!」


 地面にぴちゃりぴちゃりと落ちる唾を呆然と見つめるラテは、唖然とした。


 どう、して………、どうしてお母様は怒っているの?


 わたくしはお母様の望む通り、お姉様のものを奪った。

 お姉様よりも上に立った。


 どうして、お母様は褒めてくださらないの?


「おかあ、」

「触らないでッ!!このドアホッ!!」


 勢い良く手を叩かれたラテの瞳にぶわりと涙の幕が張る。


 ———どうして、どうしてどうしてどうしてどうしてどうして………!!


 わたくしはずっとずっと我慢して、我慢して、要らないものでも、欲しくないものでも、嫌いなものでもお母様の言う通りにお姉様から奪ってきたのに、なんで、なんで褒めてくださらないの。罵倒するの………!!


「アハッ、アハハハハッ!!」


 壊れたように空を見上げて高笑いをし始めたカプチーノは、途中パッタリと高笑いをやめ、一瞬だけラテのことを見つめた。


「お前なんか、産まなければよかった」

「え、………、」


 呆然とした声をこぼした次の瞬間、母の喉には尖った石が刺さっていた。

 バタバタっと全身が暴れたと思ったら、ぼたぼたと赤いものが溢れて、そしてビクッと身体が硬くなって地面に崩れ落ちた。

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