第10話
▫︎◇▫︎
屋敷の奥深くに存在する北向きのジメジメとしたお部屋にノックもなく入室したモカは、窓の外にある星空を見上げながら所在なさげにベッドに腰変えているすっかりとやつれてしまった男の背中に抱きついた。
「ただいま、アート」
震える涙声を受けた彼は、背中に柔らかくのしかかる暖かさに、ぽろりと涙をこぼした。
「………おそいよ、ラテ」
溢れ始めた涙はやがて大洪水になり、アフォガートの顔中を濡らし、止まるところを知らずに流れ続ける。
すっかりと痩せ細ってしまった彼の身体をぎゅうぎゅうと抱きしめて撫でるモカは、やっと一緒にいられるようになった愛おしい人がゆっくりと自らの方を向き、力強く抱きしめてくれたことに彼以上に涙をこぼし、啜り泣く。
長い時間、それこそお星様の場所が大きく変わるぐらいに抱き合って泣き続けた2人は、やがて向かい合って微笑み合う。
先程までげっそりと表情が抜け落ち、死んだ魚のようになっていたアフォガートの微笑みに、モカは心が満たされるのを感じた。
「俺、頑張ったよ」
「知ってる」
声が震えた。
「俺、耐え抜いたよ」
「知ってる」
モカは彼の痩せこけてしまった頬をほっそりとした白いで包む。
「迎えにきたよ、アート」
悪戯っ子のような笑みを浮かべたモカのくちびるに、ちゅっとアフォガートが優しい口付けを落とす。
ぽふっと顔中が、耳まで赤くなったモカを、アフォガートは横抱きにしてこの世で1番繊細で大切なものに触れるように抱きしめる。
「ありがとう、モカ」
星空に見守られる中、2人のくちびるがもう1度接近し、離れる。
「愛してる」
「わたしの方が愛してる」
涙に濡れた顔で微笑みあった弱虫の2人は、たたかい抜いた末の幸せを噛み締めるように、お互いを確かめるように、ぎゅうっと抱きしめあったのだった。
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