第8話

「ラテ嬢、あなたに一目惚れいたしました。どうか私の妻になっていただけませんか?」

「えっ!?でも、あなたはお姉様の婚約者でっ!!」


 わざとらしい驚きの声と表情に、けれど、エスプレッソは簡単に引っかかる。


「そんなことは関係ありません。私は自らの欲望に従って動きます。ラテ嬢は見た目がよく仕事こそできますが、あなたのような愛想がありません。たった1日過ごして分かりました。私は、モカ嬢とは幸せな家庭を作ることができない。けれど、あなたとなら作れる。私の目指す、幸せな家庭を………!!」


 演劇のように大きな身振り手振りで伝えるエスプレッソに悲しそうな表情を向けたモカは、次の瞬間には勝ち誇ったような無邪気な笑みを浮かべている天使の皮を被ったラテに身体を向ける。


 エスプレッソの前に跪き、ぎゅっと彼の手を握り込んだラテは、あの日と同じように、無邪気に笑う。


「お姉様、コレちょーだい」


 ———純粋無垢に見せかけた笑みの後ろには、どんな汚れが潜んでいるのだろうか。


「待ちっ、」

「えぇ、いいわよ」


 絶望したかのように止めに入るカプチーノの言葉を遮るように、モカが頷く。


「あぁ!よかった。ありがとうございます、モカ嬢。いいえ、お義姉さん」

「エスプレッソ様、どうか、どうか私の可愛い妹を幸せにしてください」


 勝ち誇ったような笑みを浮かべているラテは気がついているのだろうか。

 私が初めてあなたの事を『義妹』ではなく『妹』と呼んだ事に。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る