第6話

▫︎◇▫︎


 次の日、モカは昨日婚約者となったエスプレッソと共に馬車に乗っていた。


 ガタゴトと揺れる馬車は3年前彼女が王宮に向かうために揺られたものよりも、格段に快適な品だった。


「モカ嬢の趣味は何ですか?」

「………お花を弄るのが好きですね」

「じゃあ、君の離宮には大きな花壇を用意しないといけませんね」

「………………、」

「モカ嬢の好きな食べ物は何ですから?」

「………マカロンが好きです」

「確かうちのシェフの得意なお菓子でしたね。彼は他にもトゥンカロンが得意だと言っていたので、ぜひ食べてみたらいいと思います。私も御相伴に預かったことがありますが、アレは非常に絶品でした」

「………………、」


 静かで口数の少ないモカに、焦れたエスプレッソがいくつもの質問を行う。


 数年ぶりに髪を完璧に下ろしたモカは、行きとは僅かに異なる風景となった窓の外を見つめながら、深い紫色をしたフレアスカートを撫でる。

 スカートと、ふんわりとしたデザインと大きなリボンが愛らしいサテン生地のの真っ白なブラウスは、昨日荷造りをしていた際に見つけたものだ。


 久方ぶりに身につけた私服は、肌触りが悪いが不思議と悪い気分はしなかった。


「も、モカ嬢のご実家は大変な田舎なのですね」

「………そうですね。自然豊かな土地で、小麦がよく取れます」

「それはそれは、秋には美しい光景が広がっていそうです」

「えぇ。………とても、………とても美しいですよ」


 優しい色彩ながらに黄金に輝く見渡す限りの小麦畑がゆらゆらと風に吹かれて波を描く光景を思い描いたモカは、ふわっと微笑みをこぼす。


「王都近郊にこんな自然豊かな光景が広がっているとは夢にも思っていませんでした」

「………あまり有名ではございませんから」


 モカの実家アメリカン子爵家の領地は王都のすぐ横にある。

 早馬の馬車であれば王都から1日で着く距離であり、立地はとてもいい。


「も、モカ嬢。あの、」

「あら、到着したようですね。早速向かいましょうか」


 エスプレッソの言葉をバッサリと切ったモカは、彼の手を借りることなくひらりと馬車から飛び降りる。


 勝手知ったる我が家には、昨日の夜のうちに先触れを出しておいたから一応の準備は整えてあるだろう。


 エスプレッソにエスコートをされながら、家への道のりを歩き始めたモカは、密かに微笑む。


 焦茶色の大きな玄関扉を彼が開くと、使用にたちがずらっと並んでいる光景が目に入った。

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