第5話
真摯な瞳、真摯な言葉、モカは表情ひとつ変えずにくちびるに、鈴を転がすように澄んだ声を乗せる。
「わたしの家族に挨拶をしていただけますか?」
「喜んで」
花の女王とまで呼ばれる薔薇の花ですらも恥じてしまいそうな美しさを振り撒きながら、エスプレッソは色気たっぷりに微笑む。
「いつ出発できますか?」
「………いつでも」
ゆったりと微笑んだ彼女に向けて、エスプレッソは幸せの絶頂にいるかのようにくちびるを緩める。
「では、明日出発いたしましょう。あなたの上司には私の方からお話を通しておきます」
「お願いいたします」
頭を下げたモカは今年で19歳を迎える。
そろそろ婚期のギリギリを迎える彼女にとって、王宮でも話題の今世1番とまで呼ばれる美男子にして近衛騎士団3位の実力者、そして何より伯爵からの求婚は悪いお話ではなかった。
———ごめんね、アート。
心の中で呟いた彼女は、アメジストのついた細い鎖のプラチナのブレスレットを撫で、澄み渡った空を見上げてから呼ばれた場所へと向かう。
お仕事も今日でお終い、か………。
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