第4話

▫︎◇▫︎


 王宮で暮らし始めて3年、モカはメイドから昇格し、侍女として王宮にて働いていた。


「モカちゃーん!こっちも手伝ってちょうだい」

「はーい、」


 ここでもモカは使い勝手の良い駒。


 何事にも反抗せず、すべてにおいて口が固く、そして美人すぎず不美人すぎない。

 実家が争いの種にもなりずらい子爵家ということもあって、モカはさまざまな場所でそれなりに活躍した。


 呼ばれた先輩の元に駆けつけるためにパタパタと走る彼女は、横から飛び出す影に気づけなかった。


「きゃっ!」


 勢い良く弾かれたモカは、ぺたんと床に尻餅をついてしまう。


「すまない」


 美しくテノールボイスと共に見上げた視界いっぱいに広がるのは麗しいご相貌。


「………ありがとうございます」


 太陽でさえも負けてしまいそうなぐらいに輝く黄金の髪を持つ男の手を借りて立ち上がったモカは、パンパンとお仕着せについた汚れを払う。


「怪我はないか?」


 情熱的なルビーの瞳をまっすぐと向けられたモカは、小さく頷く。


「お気遣い、ありがとうございます」


 真っ白な近衛騎士の軍服に身を包む男性に頭を下げたモカは、早く去れと心の中で念じるが、残念ながら男は去ってくれなかった。


「頭を上げておくれ。私の名前はエスプレッソ・ターキッシュだ。レディ、お名前をお伺いしても?」

「モカ・アメリカンと申します」


 雲の上の人間と言っても過言ではない伯爵に話しかけられたモカは、どう切り抜ければ無作法にならないか考えながらも、モカは無理だと諦めていた。


 この人、ここ数ヶ月ずっと視界の端に写っていた。

 多分、接触の機会を狙われてた。


「………………、」


 無難な薄幸そうだと言われる微笑みを浮かべた彼女は、柔らかくシニヨンに編み込んだ髪から溢れる後毛を耳にかけながら、エスプレッソの行動を見守るが、彼がモカの前で跪いた瞬間、全ての思考が飛んだ。


「モカ嬢、私はあなたに一目惚れいたしました。どうか私の妻になっていただけませんか?」

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