第3話

▫︎◇▫︎


 モカ・アメリカンはアメリカン子爵家の長女として生を受けた。


 両親は典型的な政略結婚ながらに仲が良く、モカはそれなりに愛されて暮らしていた。


 けれど、幸福というのはあっという間に崩れ去って、綿飴のようにじわっと消えていくもので、モカは7歳の時に大流行した流行病で母が亡くなり、モカの楽園は消え去った。


 父は母が死んですぐに生気を喪った。


 だからだろうか、モカ同様に弱虫の彼はあっという間に継母という毒牙に噛まれて死んでしまった。


 9歳にして、モカは蛇のような継母と無邪気に全てを奪い去る義妹の元に1人ぽつんと残されてしまった。


 それでも救いがあったのは彼女には婚約者がいたから。


 豪商の男爵家フラペチーノ家の四男アフォガートは、まだ母が生きていた頃から婚約者同士だった。

 四男で家を継げないアフォガートと跡取り娘であるモカとの婚約も両親同様に典型的な政略結婚であったが、お互いに良き関係を築いていた。


 けれど、カプチーノはどうやらそれが気に入らなかったらしい。

 モカから全てのものを奪う気でいた彼女は、モカから婚約者を取り上げ遠くに飛ばすことで本格的に子爵家を乗っ取るらしい。


 ———ごめんね、アート。


 何度も何度も心の中で、頭の中で、モカはアフォガートに謝ってしまう。


 モカは今から死地にでも赴くかのように真っ白な肌をしたアフォガートを捨てて、安全な王宮へと逃げてしまった。

 アフォガートはこれからずっと『苦手だ』、『嫌いだ』と言い続けていたラテの夫として過ごさなくてはいけない。


 王宮にやってきたからも流され、反抗せず、ただただ言われるがままに行動したモカは、あっという間に使い勝手の良い駒として重宝されるようになったのだった———。

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