第28話 レアアイテム【地図帳】と、風精霊

 試しに菜の花畑に表示された黄色いひし形をタップすると。

 画面上に文字が表示された。


 *****

 この場所に転移しますか?

 <はい> <いいえ>

 *****


 どうやらこの【地図帳】には、転移機能が備わっているらしい。


 ――これはすごいな。

 この文明レベルの中で転移機能つきって、だいぶチートじゃねえか。

 魔法書を買って取得したら、最低ランクでも500万ボックル超えの力だぞ。


 画面に表示されている<はい>をタップすると、足元に魔法陣が展開され――たかと思ったら、次の瞬間には菜の花畑に立っていた。

 転移酔いや頭痛などの不調も一切ない。さすがは女神がくれたレアアイテムだ。


「ここなら人もいないし、ちょうどいいな」


 俺は風の初級魔法を覚えるため『風の初級魔法①』に手をかざした。

 そして前回同様、そっと魔力を送りこむ。

 魔法書自体はただの市販品だし、人に見られて困ることはないが。


『わあ……お強そうな人間さんです……』


 問題はこの、魔法を取得する際に現れる精霊だ。

 精霊は俺以外の人間には見えないため、万が一精霊との会話を見られれば、一人で喋っている不審者だと思われてしまう。


「ありがとう。そして初めまして」

『ひえっ!? えっ? ……えっ?』

「すまんな、俺には精霊が見えるみたいなんだ」


 ゆるふわにウェーブがかった薄きみどり色の髪をした少女は、困惑したようにきょろきょろと周囲を見回していたが。

 俺の言葉で自分に話しかけていると分かると、びくっと肩を震わせた。

 どうやら、ほかの精霊たちに比べて臆病な性格らしい。


「大丈夫、何もしないよ。契約してくれてありがとな。俺はアサヒだ」

『わ、私はウィンです……。すみません、私の姿が見える人間さんに出会ったのは初めてで……びっくりして……』

「いやいや、こっちこそ驚かせてごめん。これからよろしくな、ウィン」

『こ、こちらこそです……』


 ウィンはおどおどした様子で、本当に俺を信じていいものかと決めあぐねているようだった。

 が、そこに火、水、氷、光の精霊たちが姿を現す。

 四体は、そこにウィンがいることに気づいて目を輝かせる。


『まあ! 新しい仲間が増えましたのね!』

『なるほど、風精霊か。キミ、名前は?』

『――え。ええと、ウィンと申します……』

『ウィンね! アサヒに姿を見られちゃったもの同士、これからよろしくね♪』


 勝手に目の前に現れておいて、人聞きが悪い言い方するな!

 いやまあ、予想外ではあったんだろうけどさ……。


『うふふ、アサヒったらこんなにたくさんの精霊を味方につけちゃって。人間最強なんじゃないかしら~?』

『こんなにたくさんの契約を……? えっと、人間ってこんなこと可能な種族でしたっけ……。あっ、よ、よろしくお願いしますっ!』


 四体の精霊の登場で、周囲は一気に騒がしくなった。

 だが、既に俺と交流を深めている同士がいると知ったためか、ウィンは慌てながらも心なしか少しほっとしている。

 先にほかの精霊に出会っておいてよかった……。


『――それでアサヒ、今日はこれから何をするの?』

「ああ、今日は少し、北西の森の様子を見ておこうかと思ってな。それと、探索がてら薬草採取でもしようかと。ギルドとの関係も構築しておきたいし」


 森の規模によっては途中で野宿になるかもしれないが、【ポータブルハウス】があれば寝る場所の心配はしなくて済む。

 どこにいてもいつでもインハウスできる【ポータブルハウス】は、旅をする上では本当にありがたい。


 一人でテントを張っての野宿となると、野獣や魔獣、野盗に襲われる可能性があるし、安心してぐっすり眠るなんてできないからな……。


『薬草採取? それならぴったりの場所がありますわ。この森には、妖精の国へ繋がる道があるんですのよ』

『ああっ、アクアずるい! それあたしが案内しようと思ってたのにーっ!』

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