第27話 弟子も下僕もいりません!

「あ、あの……」

「――はっ! 大変失礼いたしました。このような素晴らしい魔法師様を疑ってしまうなど……どうかお許しくださいませ」


 紫髪の彼女は、唐突に俺の足元に正座をして深々と頭を下げた。

 魔法書コーナーにふさわしいクール系美少女(見た目から察するに、17~18歳くらいか?)だと思ってたのに、その印象が一気に崩れ去る。

 崩れ去る、というより、もはやハンマーか何かで強制的に打ち崩されたくらいの衝撃だ。


「そんな、頭を上げてください。分かっていただければそれでいいですから!」


 そもそも、こんな人並外れた力を持ちながらそれを不用意に明かした俺が悪かったのだ。疑われても仕方がない。

 そう思い、慌てて土下座をやめるよう促したのだが。


「たった二属性しか使えないザコの分際でこのような無礼……な、なんなら、踏みつけて罵ってくださってもよいのですよ。ええ、むしろお願いします! そしてぜひ! ぜひわたくしめを弟子にしてください! 下僕でもいいです!」


 女性はハァハァと呼吸を荒げ、足元に正座をしたまま目にハートを浮かべて上目遣いでこちらを見上げる。怖い!


「と、とにかく俺は、魔法書が買えればそれでいいですから!」

「そんなこと言わずにどうか……! ああ、でもそのクールな対応も素敵です! さすがは四属性……いいえ、五属性持ちの実力者!」

「いや本当にそういうのいいんで! 弟子も下僕もいりません!」

「くっ……! そうですか……。あなた様がそうおっしゃるのなら仕方がありません……」


 彼女は名残惜しそうに立ち上がり、埃を払って結界を解く。

 そして扉を開け、部屋から出るよう促した。


 ――た、助かった。

 まったく。第二の人生でも魔法師には変わったヤツが多かったけど。

 まさかこんな本性を隠していたとは……。

 次からは気をつけないと。


「お買い上げありがとうございます。ぜひ、ぜひまたお越しくださいませ。――あ、わたくしめはヒスティと申します。あなた様の下僕になれる日を心よりお待ちしております」

「は、はあ……」


 そんな日は一生来ないけどな!

 俺は購入した『風の初級魔法』(20000ボックル)を受け取り、足早にその場を去った。


 ◇◇◇


「――つ、疲れた。まだ昼前なのに、すでに一日分の気力を消耗した気がする」


 しかし、今日はこれからやりたいことが盛りだくさんだ。

 そうぼんやりもしていられない。


 ブクスを出た俺は、武器と防具の店「アーム」とマーシー薬局、それからレスタショップを回り、下準備を整えて北西門を出た。

 北西門の先には、いくつもの農家と農場エリアが広がっている。

 が、お昼時であるためか人の気配はない。


 ――そういえば、あの女神にもらった【地図帳】はどうなったんだろう?

 少しは何か追加されただろうか……。


 俺はふと気になって立ち止まり、周囲に人がいないことを確認してからステータス画面を開いた。

 アイテム欄にある【地図帳】を開くと、現在地を記す赤い点のほか、俺が最初にいた場所からウェスタ町への道、農場、菜の花畑などが記されていた。

 やはり、俺が歩くことによって地図の表示範囲が拡張されていく仕組みらしい。


「へえ、拡大や縮小もできるのか。これはたしかに便利だな」


 拡大すると、ウェスタ町内の店一軒一軒の看板まではっきりと見える。

 そして最初にいた丘の上、ウェスタ町の入り口、菜の花畑がある位置に、黄色い小さなひし形も表示されていた。


 これは――何だ?

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