第26話 魔法書コーナーの店員の様子がおかしい!
――森へ行くにしても、まずは準備が必要だよな。
俺はまず、ブクスの魔法書コーナーへ向かうことにした。
昨日エルルが使っていた、風の初級魔法を使えるようにするためだ。
前回同様、身分証を提示して中へ入り、会計を済ませるためレジへと向かう。
受付にいたのは、前回同様、紫髪の女性だった。
切れ長の瞳がミステリアスで、思わずじっと見てしまいそうになる。
じっと――あれ、なんか見られてるのはこっちのような?
「……あの、お客様。先日、火、水、氷、光の初級魔法をご購入されましたよね?」
「? はい」
「……魔法書の転売は法律で禁じられているとご存じですか?」
レジの女性は、紫色の切りそろえられた髪の下から眼光鋭くこちらを見ている。
明らかに俺を疑っている目だ。でも。
――――転売?
知らなかったけど、べつに転売なんてしてないぞ?
「転売はしてませんよ。すべて自分で使ってます」
「……それですと、おひとりで五属性お持ちということになりますけど。本気で言ってます? 五属性持ちなんて、王宮魔法師でも三人しか知りません」
あ――。し、しまった。
そうか、全属性持ちなのは、前世の功績を考慮した女神からの特典なんだっけ……。
「えーっと……」
どうしよう?
前回の会計時に怪訝な顔をされたのはそういうことか。
転売疑惑をかけられるのは困るし、今さらやっぱり持ってませんとは言えない。
王宮魔法師に三人いるということは、存在しないってわけでもないんだよな?
「――でも本当なんですよ。何なら、実際に魔法を使って見せますが」
「……そうですか。かしこまりました」
紫髪の女性は店内に客がいないのを確認し、入口のドアに「CLOSED」と書かれた看板をかけて鍵を閉めた。
そしてレジの奥の扉を開けて、中へ入るよう促す。
扉の先は、壁一面が本棚になっている狭い部屋になっていた。
端の方に置かれた大きめの机にも、大量の本や紙の束が積まれている。
恐らく彼女の仕事用の部屋か何かなのだろう。
「失礼します……」
「もしお客様のお話が嘘だった場合、衛兵に連絡させていただきますので」
「分かりました。でも、本当だったら『風の初級魔法①』を売ってくださいね」
「それはもちろんです。――では失礼します。プロテクション!」
女性が手を前へかざしてそう唱えると、白く輝く魔法陣のようなものが現れ、部屋全体が薄い膜に覆われたのを感じた。
「念のために、強めの結界を張らせていただきました。この部屋には大事なものがたくさんありますので」
「問題ありませんよ。属性の有無が分かればいいんですよね?」
「はい。ちなみに、私はこれでも魔法書取り扱いの資格を得てここにいる魔法師です。不正はできませんので悪しからず」
めっちゃ疑われてる!
まあ、俺ももうちょっと配慮するべきだったな……。はあ。
「――ではいきますよ」
俺は火、水、氷、光の塊を出現させ、宙に並べる。
そういえば、光の回復効果はどうやって確かめるのだろう?
「――あの、これ、回復効果はどうやって」
「…………う、嘘。四つの異なる属性の魔法を同時に扱えるなんて、しかもこんなに安定させられるなんて聞いたことない」
女性はただただ呆然と、宙に浮かんでいる四つの塊を見つめている。
同時に扱っても特に問題はなさそうだったからやってみたが、まずかったのかもしれない。でも、これで――。
「えっと……俺のこと、信じてくれました?」
「疑って大変申し訳ありませんでした。まさかこんな辺境の地で、こんなにも素晴らしい力をお持ちの方と出会えるなんて……っ! ふ、ふふふふふ」
気がつくと、女性は頬を紅潮させ、興奮した様子で怪しい笑みを浮かべていた。
瞳の奥にハートが見えそうな高ぶりようだ。心なしか呼吸も荒い。
いやいやいやいや! 待って!
この店員、こんな感じだっけ!?!?
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