第二章 北西の森とドロップス

第25話 路銀を確保できる術は、持ってて損はないよな!

 今日は森に行って、どんな様子か調査だな。


 エルルと夕食をともにしながら話をした翌朝、宿屋エスリープで朝食(俺だけリディア特製クッキー付き)を食べながら、俺は今後のことを考えていた。

 ちなみにエルルは、昨日の夜にちゃんと家の近くまで送り届けている。

 決して家に泊まらせたりはしていないぞ。うん。


 ――そういえば、俺も路銀を稼ぐ手段くらいは持っておきたいな。


 今すぐ依頼を受けたいわけではないが、資金も無限じゃない。

 旅の途中でこなせる依頼があれば、ついでにやっておいて損はないだろう。

 森が畏怖の対象ならば、いい素材が手に入ればそれなりに金になるかもしれない。


 ◇◇◇


 朝食を済ませたあと、俺は町の中央広場近くにある冒険者ギルド「ブレイブ」まで足を運ぶことにした。

 レンガ造りのしっかりとした建物は三階建てで、多くの人が出入りしている。


 中へ入ると、仕事を斡旋している受付や依頼が張り出されている掲示板、それからギルド会員の交流の場にもなっている酒場が広がっていた。

 まだ午前中だというのに、既に酒を飲んで騒いでいる冒険者もいる。


 ――こういう感じ、懐かしいな。そして新鮮でもある。


 前世では曲がりなりにも貴族で、しかも魔王討伐を期待されていたため、周囲にはいつも使用人や護衛の兵士が付き添っていた。

 だから、酒場には多くの冒険者がいたにもかかわらず、そこにいる人々と交流することはほとんどできなかったのだ。

 だが今の俺は一人で、しかも貴族でも何でもなくて、魔王討伐などの重い責務があるわけでもない。

 ただの平民で、ただの旅人だ。


 ……自由っていいな。

 ここで依頼を受けるも受けないも、俺の自由なんだ。

 仕事を選ぶ権利もあるし、誰も俺に期待なんてしてない。心が軽い。


「いらっしゃいませ。見かけない顔ですね。新規の方でしょうか?」

「ええ。まずは登録だけでも、と思いまして」

「かしこまりました。身分証のご提示をお願いします」


 受付の女性は、俺から身分証を受け取ると、その内容に目を走らせる。

 身分証には相変わらずモザイクがかかっているが、それについて突っ込まれることはなかった。


「ご提示ありがとうございます。問題ありません。旅人さんなんですね。ウェスタ町へはいつまでご滞在される予定ですか?」

「今のところは一ヶ月ほど。――それにしても、ここは人が多いですね。冒険者や旅人って多いんですか?」


 町の人の反応から、この町に冒険者や旅人が訪れることは少ないと思っていたが。

 ギルド内は想像以上に活気づいていた。


「まさか! うちは実質、何でも屋なんです。町の人たちもお小遣い稼ぎによく利用するんですよ」


 受付の女性は、おかしそうに笑った。

 話によると、店や畑仕事の手伝いや庭の手入れ、町内の清掃、イベントの設営係やスタッフ、近辺での薬草採取など、簡単な依頼がほとんどらしい。

 この世界の冒険者ギルドって、そういう感じなのか!


「依頼のほかにも、治安維持に関する成果報告や素材の買い取りも受け付けております。分からないことがあれば、何でもおっしゃってくださいね」

「ありがとうございます。ギルドは各地にあるんですか?」

「ええ。依頼はほかの町にある支店とも連携しています。仕事がほしいときには、各地のギルドへ寄ってみてください。――これが冒険者の会員証です」


女性は、身分証と同じサイズの「冒険者ギルド<ブレイブ>登録証」と書かれたカードを渡してくれた。

表には名前などの個人情報とランクが明記されており、裏は空白になっている。

ちなみに、ランクは「E」と記されていた。


「ありがとうございます。また来ます」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る