第24話 故郷の味とエルルの思い
「スープもパンも、とってもおいしかったです! これ、ピザですよね? 私、パンで作ったピザって初めて食べました!」
「そうなんですか? 昔、よく食べていて……」
どうやらウェスタ町には、「ピザ」はあっても「ピザトースト」はないらしい。
適当に具材乗っけて焼くだけでうまいから、けっこう便利なんだけどな。
生地を作る手間も時間もかからないし!
ピザトーストは、昔ブラック企業に勤めていたとき作っていた。主に休日に。
まあデスマ中は疲労困憊でそれすら不可能だったけど!
だから俺にとってこれは、「(ちょっとだけ)余裕がある日のごはん」という思い出の味なのだ。
「……じゃあこれは、アサヒさんの故郷の味ってことなんですね! ふふ、なんか嬉しいです♪ ……私も故郷の味、もっとちゃんと味わっておけばよかったな」
エルルは少し寂しそうに笑った。
昼間に雑貨屋のガラルが言っていた、菜の花のことだろうか?
まだ幼さの残る彼女に、もう両親はいない。
その事実を思い出し、胸が締め付けられる気がした。
「……エルルさんの故郷は、ビスマ村という場所なんですよね?」
「えっ?」
「すみません、昼にたまたまガラルさんと会って……その……」
「そっか、ガラルさんから聞いたんですね。はい、私は見た通り獣人で、獣人の村で生まれ育ちました」
エルルは、ぽつぽつと自分がここへ来た経緯を話してくれた。
エルルの両親が事故で亡くなったのは、三年ほど前、彼女が十二歳になったばかりの頃だったらしい。
「それから、ずっと一人で?」
「はい。両親のお金があったので、しばらくはそれで。ガラルさんも、ご自身も弟さんが二人いて大変なのに良くしてくださって……。それを知ったランドラさんが――あ、レスタの女将さんのことなんですけど――彼女がうちで働かないかって声を掛けてくれたんです。そこから、レスタで働き始めました」
十二歳で知らない町に一人取り残されるなんて、しかも帰る術もないなんて、どれだけ心細かっただろう?
それなのに、こんなに真っ直ぐないい子に育って……。
「ビスマ村に、誰か親族はいるんですか?」
「おじいちゃんとおばあちゃん、あと親戚がいます。五年前と変わっていなければ、の話ですけど」
――なるほど、それでビスマ村の方を見てたってことか。
親族がいるなら、そりゃあ本心では帰りたいと思うのが普通だろう。
「――ってごめんなさい! 私、会って間もない人にこんな話。困りますよね」
「いや、話してくれて嬉しいですよ。ありがとうございます」
「ビスマ村にいるみんなが気にならないって言ったら嘘になりますけど、ガラルさんもランドラさんもとっても良くしてくださいますし、私この町も嫌いじゃないんですよ!」
喋りすぎたと思ったのか、エルルは慌てた様子で、急に明るい声でそう付け足した。それはそれで、恐らく本心なのだろう。
でも――。
「――そうですか。俺もこの町は好きです。食べ物もおいしいし、活気もあるし、景色も綺麗ですしね」
「えへへ、アサヒさんに気に入ってもらえて私も嬉しいです」
本当にいい子だな……。
でも今は、エルルの柔らかな笑顔に胸が痛む。
ガラルさんが、どうにかしてやりたいって俺を頼った気持ちも分かる。
「――エルルさん。何か俺にできることがあれば、遠慮なく言ってくださいね」
「えっ?」
しまった、唐突過ぎて変な人みたいになってしまったかもしれない。
「俺は一ヶ月くらいここに滞在して、その後は西へ向かう予定です」
「…………」
エルルは驚いた顔をしたが、それからしばらく、真剣に何か考え込んでいた。
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