第18話 雑貨屋の店員ガラルの頼み
「――そういえばエルルに会ったらしいな」
「えっ? あ、ああ、まあ。ガラルさんはエルルさんのお知り合いなんですか?」
「家が近くてな」
なるほど、幼馴染ってところか?
ガラルは「横いいか?」と言いながら自身も俺の横に座り、桜の幹に背を預ける。
何か用事だろうか……。
「……そうなんですか。エルルさんには、レスタでよくしていただいて」
「ああ、エルルに聞いた。旅をしてるんだってな。長いのか?」
「あー、いや、自分なんてまだまだ。はは」
あまり深く聞かれるのは困るな……。話題を変えたい。
というか、ガラルさんはなんで店で会っただけの俺にこんな興味津々なんだ?
旅に興味があるのだろうか?
「……が、ガラルさんは、ずっとこのウェスタ町に?」
「ああ、生まれも育ちもウェスタだ。ここは山と森に囲まれてるからな。相当な実力がなけりゃ遠出は難しい」
ガラルはそう言って笑った。
だが、その目は遠くを見ていて。
本当は町を出て旅をしてみたい気持ちもあるのではなかろうか、と思えた。
文明が未発達な世界では、山や森は畏怖の対象となることが多い。
それに野獣や野盗など実際の危険性も高く、山を越えるとなると命がけだ。少なくとも、第二の人生ではそうだった。
こういった事情から、山や森に囲まれた町はそこが一つの国のような存在で。
遠くへ行けるのは、衛兵や装備を揃えられる貴族などの有力者、もしくはそれなりに実力があり、なおかつ安全性よりも自由を取る冒険者や旅人くらいのものだと知った。
「それにオレには弟が二人いる。今あいつらを置いてこの町を出るなんてできねえ」
「なるほど、家族思いなんですね」
「別にそんなんじゃねえよ。ただ、うちは両親がいないからな。オレがいなくなったら弟たちが路頭に迷っちまう。それだけだ。――でも、諦めてるわけじゃねえぞ」
「――え?」
「今は無理だけど、オレはいつか国中を旅してまわるって決めてるんだ」
ガラルは意思のこもった強い口調でそう言った。
それから、この国のことを話してくれた。
クレセント王国は三日月型の大陸と、月の欠けた部分にあるいくつかの島で構成されていること。そのうち一番大きな島には、王城と城下町があること。大陸は険しい山脈によって南北が隔てられていること。北の方には、年中雪で覆われている真っ白な大地があること――。
「――まあ、すべて本で読んだ知識でしかねえけどな。でもいつかこの目で見たいと思ってる。……おまえは見たことあるのか?」
「いや、まだそこまでは……」
「そうか。まあおまえも俺と同い年か少し年下くらいだもんな。次に行く場所は決まってんのか?」
「次に行く場所か……」
まだこの町どころかこの世界に来たばかりだし、あまり考えてなかったが。
しかし先日フラムに言われた、『西の森にある精霊の国にも連れてってあげる』という言葉を思い出した。
「まずは西の方に行ってみたいと思ってます」
「……西? ってことは、あの森を抜けるつもりなのか?」
ガラルは、菜の花畑からずっと北西に進んだ先に見えている森の方を見て、それからじっと俺の目を見て真剣な表情で言った。
「そうなりますかね。恐らくは」
「森を抜けて、どこまで行くんだ?」
「えっ? あー、まだそこまでは。でもせっかく行くなら最果てまで行きたいです」
「…………そうか。なあアサヒ、おまえ、エルルのことはどう思う?」
え、エルル? いったいなんだ?
「ええと……? や、優しくて素敵な女性だとは思いますよ」
「そうか」
ガラルは聞いておきながら、それだけ言って黙り込んでしまった。
もしかして俺、恋敵か何かだと思われてる?
何か考えているようにも見えるが、正直俺にエルルをどうこうしようなんて気持ちはないので、変な敵意だけは抱かないでほしい。
「――あー、でも俺は」
「アサヒ、おまえに頼みがある。もしエルルが望んだら、そのときはエルルを旅に連れて行ってやってくれねえか?」
「――は!?」
ガラルの言葉は、あまりに予想外なものだった。
エルルを俺の旅に……連れていく……???
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます