第22話 ちょっと夫婦みたいだな?(嘘ですごめんなさい)

「…………」

「…………」


 き、気まずい……。

 いったい俺は、なぜこの子を中に入れてしまったのか。

 エルルも同じ気持ちなのか、落ち着かない様子で犬耳をピクピクさせている。


「あー、えっと……お茶でも出しますね! 座っててください」

「あっ……わ……すみません、突然お邪魔しちゃって……」

「いえ、こちらこそなんかすみません。――な、何かしようとか、そういう変な気は一切ないので!」

「それはもちろん! アサヒさんがそんな人じゃないのは、見ていたら何となく分かります!」


 俺は布団を引きっぱなしで、かつ洗濯物も干しっぱなしだったことに気づき、慌てて片付けながらそう返す。

 まさか【ポータブルハウス】に女性を招くことになるとは思いもしなかったため、タオルやら何やらもPショップの箱に突っ込んで放置したままだった。

 こんなことなら、棚か何かを調達して片付けておくべきだった……。

 テーブルセットに椅子が二脚ついていたことがせめてもの救いだ。


 ――服、どうしよう。

 まだ干したばっかりで濡れてるんだよな。とりあえず風呂場にでも突っ込んでおいて、あとでまた洗い直すか……。はあ。

 そう思っていたが。


「……あの、よければ乾かしましょうか?」

「えっ?」

「あっ、す、すみません突然! 困っている様子だったので……。私、風の初級魔法なら使えます。――でも見られたくないですよね。ごめんなさい!」


 エルルは真っ赤になってあたふたしている。

 そうか、風の魔法もあった方がいいかもしれないな。洗濯がラクになりそうだし。

 明日にでもあの魔法書コーナーに買いにいこう。


「……なら、お願いしてもいいですか? 助かります」

「はいっ! あっ、ハンガーを外して、机の上に置いてください」

「分かりました」


 エルルはほっとした様子で表情を緩め、俺が洗濯物を机に置くと手をかざした。

 すると洗濯物がふわっと舞い上がり、くるくると回転し始める。

 その勢いは次第に増し、まるで小さな竜巻のようになった。

 室内でこれだけの風が吹いているのに周囲に影響がないのは、やはり「魔法」だからだろうか。不思議だ。


「――これで大丈夫だと思います」


 数分後、濡れていた洗濯物はふわっふわに乾いていた。

 柔軟剤を使ったわけでもないのにすごい。

 このままPショップの箱に突っ込むのが申し訳ないくらいだ。

 やっぱり棚を買っておくんだった。


「ありがとうございます。助かりました」


 俺はせっかくのふわふわ具合がなくならないよう、乾いた洗濯物をそっと箱の上に載せる。

 と、そこで、炊飯器がメロディを奏で始めた。スープが完成したのだ。

 突然の音に、エルルは一瞬ビクッと身を縮こまらせ、耳をペタッと寝かせて警戒しながらキョロキョロと様子を窺っている。


「な、何の音楽でしょう? 不思議な音ですね……」

「大丈夫ですよ、料理が完成した合図です。今、スープを作っているところだったんです。エルルさん、夕飯はもう食べましたか?」

「合図……。い、いえ……。でもそういえばいい匂いがしますね……」


 エルルは理解の範疇を越えていたのか、腑に落ちない様子だったが。

 スープの匂いに気づいて少し緊張を緩めたようだ。


「せっかくなら食べていきませんか? 簡単なものですけど」

「えっ! いいんですか?」


 さっきまで下がっていた耳がピンッと上を向き、ふわふわもふもふのしっぽが左右に揺れ始める。可愛い。


「もちろん。――あ、でもサンドイッチが……。少し待っててください」


 さすがに、俺の食べ残しが混ざっているサンドイッチを出すわけにはいかない。


 ――でもなんか、こうして家で家事をしたりしてもらったりしてると、ちょっと夫婦みたいだな。

 まあエルルさんにはそんなこと口が裂けても言えないし、第一の人生でも第二の人生でも結婚なんてしたことないんですけど!

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