第21話 扉を開けるときは、誰もいないか確認してから!

「――外が見られるようになってる?」


 恐る恐るカーテンを開けると、少し薄暗くなってはいるが、窓の外にはさっきまでいた菜の花畑と桜が見えた。

 どんな原理なのかは分からないが、外からは見えなくても、こちらから外の様子は確認できるらしい。


 ――そうか、なるほど!

 つまりあれだな、【地図帳】といい【ポータブルハウス】のあの結界といい、旅人なんだから旅人らしく、自分の目で見て世界を知れってことか?


 最初に結界に気づいたときは、まだ【ポータブルハウス】を出る前だった。

 そのあと俺が外の世界を認知したことで、マップが広がるように外の世界と繋がることができた、ということなのかもしれない。

 何にせよ、外の様子が分かるというのは非常に助かる。


「にしても、もういい時間だな。そろそろ夕飯でも作るか。でもその前に――」


 俺はPショップで「炊飯器」(9000P)、それから「テーブルセット」(5500P)と置き時計(300P)を購入することにした。

 再びポイントが枯渇状態になってしまうが、まあ必要なものだし仕方がない。

 時計はショップ内の説明いわく、自動で時間が合わせられるシステムらしく。

 今は17時45分を指している。とても便利だ。


 俺は届いたテーブルセットを組み立て、炊飯器をキッチンに置いた。

 炊飯器はこの世界に来て初めての家電製品だ。嬉しい。

 コンセントをキッチン側にあった差込口に差し込むと、黒かった画面に時計と文字が表示された。どうやら操作はタッチパネル形式らしい。


「やっぱりテーブルと椅子があると、一気にちゃんとした部屋っぽくなるな。あと炊飯器も。まさか炊飯器を見て、こんなに感慨深い気持ちになる日が来るとは夢にも思わなかった」


 文明の利器が手に入ったことだし、これで料理がだいぶラクになる。

 ふっふっふ。

 俺は知っているぞ。炊飯器が万能調理家電だということを!


 早速、玉ねぎとキャベツ、セロリ、それから昨日使ったトマトの残り半分を適当に切って、炊飯器の内釜に放り込む。

 せっかくなのでソーセージも入れることにした。

 ソーセージを薄めに切って追加し、水と塩コショウを加えてスイッチを入れる。

 あとは一時間ほど待てば完成だ。

 先ほどまで薄暗い程度だった外は、もうすっかり暗くなっている。


「――そういえばカーテンを開けてる間って、外から見たらどうなってるんだ? まさか部屋の中が丸見えなんてことはないよな?」


 俺はふと不安になり、いったん外に出て確認してみることにした。

 この【ポータブルハウス】がどれほどのレアアイテムなのかは分からないが、変な目立ち方はしたくない。

 この第三の人生は、目立たずのんびり自由に生きると決めている。


「え……?」

「あ――」


 ――そう、決めていたのだが。

 外に出ようとドアを開けると、なんと目の前にエルルがいた。

 ちょうど出たタイミングだったため、【ポータブルハウス】の中が丸見えだ。

 エルルは突然現れた俺に面食らったような顔をしている。当然だろう。


「あ、アサヒさん!? あの……これはどういう……? こんなところにおうち、ありましたっけ……? いえ、それ以前にアサヒさんは旅人さんなんですよね?」


 エルルは【ポータブルハウス】の存在に気づき、俺の背後にある部屋を見てぽかんとしている。

 そこには扉があって、家の中も部屋もはっきりと見えている。

 だが、そこにたしかにあるはずの家が外からは見えない。存在しない。

 こんな奇妙な光景、どう考えても怪奇現象だ。


「ええと……これは携帯用の家、と言いますか……。と、とりあえず中へどうぞ?」

「え、あ、はい。お邪魔します……?」


 しまった、焦ってうっかり中へ招き入れてしまった……。

 そしてエルルさんも入るのかよ!

 さてはこの子も混乱してるな!?


 *****

 所持金:4,764,190ボックル

 ポイント:660ポイント

 *****

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る