第一章 旅のはじまりとウェスタ村
第1話 見知らぬ部屋から始まる、第三の人生!
「――こ、ここは?」
気がつくとオレは、見知らぬ空間にいた。
先ほどまでいた真っ白な空間ではなく、今度は現実的な場所だ。影もある。
「……どこかの部屋みたいだな。何もないけど」
そこまで考えて、ふと違和感を覚えた。
第二の人生が始まった際には、生まれたての赤ちゃんからのスタートだったが。
今のオレは、なぜかすでに成人しているらしい。
「――いや、鏡もないし、成人してるのかは分からないか。でも少なくとも青年と呼べる年齢ではあるな。ごほうび転生なことが関係してるのか?」
部屋の広さは、一般的な一人暮らし用ワンルームマンションの一室くらい。
正方形の枠だけがあるような殺風景な状態で、家具や家電の類は何もなかった。
床はフローリング、壁と天井はよくある白い網目模様の入ったあれだ。
窓にはカーテンがかかっていて、そのまわりを結界のようなものが覆っている。
そのため外を見ることはできないが、隙間から光が差し込んでいることを考えると、ここは地上で、今は朝か昼なのだろう。
「あれは――コンセントの差込口? なんか久々に見たな……」
窓の横とドアの近くに二つずつある差込口を見て、ふと懐かしい「
俺の記憶の範囲ではそれが最初の人生だが、正直あの頃には戻りたくない。
ブラック企業で仕事に追われ、家にもほとんど帰れず、おまけに上司に怒鳴られる地獄のような日々なんてまっぴらだ。
――助けたあの少女は、元気にしてるかな?
「ドアの先は何だ? 静かだし誰もいないように感じるけど……」
窓がある方とは反対側にあるドアのドアノブにそっと触れてみる。
どうやらこちらは結界に阻まれてはいないらしい。
ドア部分は白く塗られた木とガラスでできているが、
本当なら何か武器が欲しいところだが、部屋はがらんとしていて持ち運べそうなものは何一つない。
オレは慎重に、そっとドアノブを下げて少しずつドアを開いていく。
「……キッチンと……ユニットバス…………」
ドアの先には、細い通路の左側に設置された小さなキッチンと、右側の開け放たれた扉の先のユニットバス、それから玄関が姿を現した。
どう考えても、日本でよく見ていた一人暮らし用ワンルームマンションの一室だ。
ユニットバスに備え付けてある鏡に近寄ると、黒髪で整った顔立ちの、高校生か大学生くらいの男が映った。
「――これが俺か。まあまあいい感じだな、さすがごほうび転生だ」
転生も二度目となると、もはや自分というよりゲームのアバターか何かを見ている気がしてくる。ちなみに神谷旭は冴えないおっさんで、ライズは金髪のイケメンだった。
「にしても、外が見れないのはどうなってんだ? 玄関からは出られるのか? 出られない場合は、ここに閉じ込められてるってことに――」
そこまで考えて。
そういえばあの女神が、特典として【ポータブルハウス】がどうこうと言っていたことを思い出す。
「――ってことは。ええと、この世界でも出せるのかな? ステータスオープン!」
試しにそう前へ手をかざすと、「ブオン!」という音とともに半透明のステータス画面が現れた。ゲームによくあるあれだ。
*****
アサヒ(男・18歳)
職業:旅人(Lv.1)
魔法適性:全属性
状態:<インハウス>
所有スキル:【神の援助】(Lv.1)、【レイヤー透過】(LV.1)
所有アイテム:【ポータブルハウス】( Lv.1)、【地図帳】( Lv.1)、【アイテムボックス】(Lv.1)
所持金:500万ボックル
*****
名前、これ絶対「めんどくさいから第一の人生で使ってた名前でいっか☆」みたいに決めたなあの女神……。まあでも。
「あってよかったステータス画面! なるほど、今の俺は18歳なのか。状態のとこに表示されてる<インハウス>ってどういうことだ? ポータブルハウスの中にいる状態とか、そういう? それなら玄関からなら――」
オレは玄関へ行き、置いてあった靴を履いてドアを開ける。
「――――これは」
ドアの先にあったのは、マンションの共有部分や近代的な世界――ではなく、高台から見下ろす緑の多い景色だった。
坂の下には町が一つ、そしてその周辺に点在する家や農場がちらほらと見えているが、それ以外は見渡す限り森や草原、湖などの自然ばかり。どうやらだいぶ辺境に転生したらしい。
「――そうか、今の俺は旅人だもんな。ここからこの【ポータブルハウス】を拠点にしつつ、自分で歩いて世界を広げろってことか?」
外の風は心地よく、そよそよと優しく肌を撫でていく。
気候も程よく申し分ない。
俺は思いっきり深く深呼吸をし、新しい人生の始まりを噛みしめて、これからの生活に思いを馳せるのだった。
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