あなたの笑顔が見たいから
「かみさま、おねがいがあってきましたです!」
「はいはい。何ですか?」
(珍しいですね……)
「お願いとは?」
「はい! どーせーあいを、きんししてほしいのです!」
「は?」
「こどもをつくらないやつらには、せーさんせーがねーです! あんなれんちゅう、とりしまらんと!」
(えーと……)
「恋愛は個人の自由ではありませんか?」
「れんあい? ちゃんちゃらおかしいです、そんなもの!」
「かみさまはおっしゃられたそうですね? うめよ、ふやせよ、ちにみちよと! どーせーあいしゃをようごするなど、かみさまのおことばともおもえなっしー!」
「えーと……」
「ふうきがみだれるです!」
「差別してはいけません」
「むすこがけっこんしねえ!」
「えーと……」
+
「かみさま! このおとこを、ばっしてほしいのです!」
「ぼく、わるいことなんてしてないです!」
「はぁ……。罪状は?」
「じいです!」
「G? ゴキブリでも飼ってましたか?」
「じいこういです! じぶんでじぶんのいちもつをしこしこして、ぴゅっぴゅしてやがったです、このやろうは!」
「それのなにがわるいっちゅうねん!」
ですねえ。未開文明だし。
「それの何が悪いのですか?」
「かみさまのおことばともおもえない! ばんしにあたいします!」
「ぶさいくなよめとするのはいやだー! じぶんで、しこしこするほうがきもちいいですー!」
「お前の名前は何と言うのです?」
「おなんといいます」
「は…………?」
「おなんといいます」
「おまえのようなざいにんのなまえなど、かみはごぞんじないのじゃ!」
「おなんとやら」
「はい……」
「これから自分で自分を慰める行為のことを、オナ〝ピー〟と呼ぶことにしましょう」
「はい……。はい?」
目を丸くするおなん君。
「かみさま! なにをおっしゃるのですか!」
「黙りなさい。これは神としての決定です」
たかがオナ〝ピー〟で厳罰とか。
「かみさま……」
目を潤ませる、おなん君。
「じぶんでじぶんを〝ピー〟するこういをオナ〝ピー〟とよぶのですか? みんなが〝ピー〟するときに、ぼくのなまえをよぶのです? つまり、おんながぼくのなまえをおもいうかべると! はぁはぁ……」
「かみさま! なにをかんがえておられるのですか! こいつ、こうふんしてしまったではないですか!」
「性癖に口を出してはいけません」
「かみはいわれた――ひとのせいへきにくちをだすなと」
「かみはいわれた――だれでもすきなときにオナ〝ピー〟しなさいと」
+
突然の嵐でした。
「とばされるー! あーれー!」
しゃーない。
死ぬ奴は死ね。
(帰ろう……)
そう思っていたわたしの目に、とんでもない物が飛び込んできます。
「何じゃ、あれは……」
サメでした。
竜巻に乗って大量のサメが……。
「おおー! かみよー!」
風のなすがままに。
小人さんに向かって。
サメが。
ぱっくんちょ!
「あ」
一瞬の出来事でした。
「かみよー! おすくいあれー!」
サメは見る見る遠くに飛ばされていきました。
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
追いつくか? 追いついてみせる! あと少し!
「ぬおっしゃぁああああああああああああああああああっ!」
手を伸ばしてサメの尾を掴みました。我ながらナイスキャッチ!
「死ね」
頭にナイフを突き立て始末します。
「おおー……かみよー……」
「待ってなさい。今助けますからね」
わたしはナイフを構えました。
ありませんからね。チェーンソー。
「おおー! かみよー!」
「はいはい。神です。無事で良かったですねえ」
「かみさま……。あったかいです……」
「はいはい。守ってあげますからねー」
(可愛いもんだ……)
「ん……」
朝になりました。
「かみさま……」
「ああ、おはよう。痛い所はないですか?」
「かみさまのあいをかんじましたです……」
「ああ、乗りかかった船ですよ。気にしないでください」
「かみさまにおつかえするです……! ずっとずっと、はなれないです……!」
「いやいや」
嵐はやんで台風一過。
「帰りましょう」
「はいです!」
「お前の名前は何と言います?」
「よなです!」
「ヨナ…………?」
(まあ、いいや……)
+
小人さんたちの世界は順調に発展していきました。
村や集落は街になりました。王がいるようです。
「はいはい。神様ですよー」
「ふははははー! ぼくは、せかいいちのちからもちですー!」
「まさかとは思いますが髪を切ったら力がなくなったりしませんよね?」
「がびーん! なぜわかったのですかー。さすがはかみさま?」
「……お前の名前は?」
「さむそんといいますが」
「……女には注意しなさいね」
他にも――
「いけー、だびで! ごりあてをやっつけるですー!」
「てい、てい、てい!」
「うわー、やられたー!」
(何なんでしょうね……)
+
茅葺きのわたしのねぐらを訪れる小人さんがおりました。
「かみさま! いまのよのなかを、どうおもわれますか!」
「……どう思うとは?」
「いまのよのなかは、ふはいしているです!」
「たとえば?」
「かれらはせいなるしんでんで、しょうばいをするです! ゆるされないことです!」
「神社でもおみくじや破魔矢くらい売りますけどねえ……」
「ひとびとはたがいにゆるしあい、あいしあうこころをわすれました! おおかみのようにざんぎゃくなやからが、こひつじのような、じゃくしゃのざいさんをむさぼっているです! このふはいしたせかいをすくうべく、ぼくはきゅうせいしゅとして、このよにつかわされたのです!」
「えーと、お前、名前は?」
「☨きりと☨といいます」
「は?」
「☨きりと☨といいます。はははし×じょのまま、ぼくをうんだです」
「寝言は寝て言え」
「あーれー!」
「やれやれ……」
家の外では、猫がにゃーにゃーと鳴いていました。
+
「かみさま! あのわかぞうをなんとかしてくだされ!」
「けんいをけんいとおもわぬ、ろくでなしです! あやつのせいで、わしたちのめんぼくは、まるつぶれですじゃ!」
「☨きりと☨君は、何て宗教を作ったのです?」
「☨きりと☨きょうです」
あ、やべえ。
+
「かうさるのものはかうさるに。かみのものはかみにかえすのです!」
『おお……! おお……!』
わたしが街に辿り着くと、☨きりと☨君は何やらご高説をぶっていました。
「でたな、じゃしんめが!」
「☨きりと☨君。あなたはどんな社会を望んでいるのですか」
「ひとびとがたがいをおもいやり、かみのみこころにかなったせいかつをするしゃかいです! おめえみてーなにせもののかみなど、ぺっ! です!」
「やれやれ……」
偽物の神と呼ばれると弱いですね。
「ばちあたりめが! かみをなんとこころえる!」
「はん! ふはいしたりっぽうがくしゃのいうことなど、きくみみもたねーです!」
『そうだそうだ!』
「優しい人たちの世界は悪意のある侵略者に倒されますよ?」
「すべてのにんげんに、ぼくのおしえをひろめるのです!」
「……勝手にしなさい」
「じゃしんよ、さるのです! うーやーたー!」
「はいはい」
「かみよ! あんなわかぞうから、にげるのですか!」
「面倒です。あなたたちのことは、あなたたちで何とかしなさい」
☨きりと☨君の運命。
「かみよー! かれらをおゆるしください! このものたちは、じぶんがなにをしているのか、わかっていないのですー……!」
+
「へっへっへ。そうしたら、おうのやつ、ぜにかねをきしんしてきたんです! いやー、よげんしゃはやめられませんなあ!」
預言者と予言者の違いはご存じでしょうか。文字通り。
預言者は「言葉を預かる者」。
つまり神と対話して、その言葉を広める者。
対する予言者は「予め言う者」。
つまり未来にはこんなことが起こりますよと予知する者。
「あんたは他にどんな悪事をしてるんです」
「あくじとは、ひとぎきがわるいです! まあね? ちょっとね? おうのきさきが、これまたいいかんじのじゅくじょでね? むすめもとしごろなのですが、あおいかじつはたまらねーです! いずれ、ふたりいっぺんにいただきたいですなあ!」
「その親子の名前は」
「ははおやのほうは、ひとづまだからあかせませんなー! むすめのなまえは、さろめといいます」
「まさか、お前の名前はヨカナーン?」
「さすが、かみさま! なんでもごぞんじで」
「悪いことは言わねえ。命が惜しかったら、その国に行くのはやめろ」
「へっへっへ」
…………首だけになるのか。こいつ。
+
「☨きりと☨きょうとだ! つかまえろー!」
「うきゃー! おたすけー! くわれるー!」
「うにゃー!」
人の味を覚えた狂暴な猫に喰われて残虐ショーを。
(はぁ……)
小人さんたちは巨大な帝国を築いていて全盛期を迎えています。
軍隊は強い。
国家は大量の奴隷を抱えている。
☨きりと☨君の理想は儚いものです。
「あー、もう……!」
何なんだ。何なんだ。何なんだ。
何なんだ。わたし。
あの小人さんたちを真っ当な生き物にしてやりたいだとか。
「柄じゃねえ……」
本当にわたし、神になったか?
「馬鹿馬鹿しい……」
+
「お前が連れているのは奴隷ですか?」
「そうですよー」
「あんたら……」
「もういいです?」
使うか? 【深淵を覗く契約者】で偽契約書を大量にばらまく。
(いや……)
小人さんたちの世界は、すでにわたしの目が届かないほど広大になっています。
「行きなさい……」
「あーれー……! かみさまー! おたすけをー!」
「あかん! そいつはじゃしんです!」
「しんぷさま……」
「☨きりと☨きょうのみが、ただしいかみのおしえです! そいつのようなじゃしんにかかわるものは、じごくでほのおにやかれるです!」
「だってだって……!」
「だってもくそもねえです! じごくにおちたいのか? ああーん?」
「うわーん!」
小人さんたちは泣きながら、☨キリト☨教の聖職者に引っ立てられていきました。
「さあ、はたらけ! たがやせ! かちくをそだてろ! きょうかいに、じゅうぶんのいちぜいをおさめるのです! りょうしゅさまにしはらうぶんとは、べつにです!」
「わ、わかりましただ……」
(あかんな……)
諸侯たちの争う群雄割拠の時代。
神の権威と地上の武力が結びつき、領民たちへの搾取が始まりました。
(ったく……!)
「ただしいこころねのもちぬしは、てんごくにいけるのです!」
『ははー!』
「がはははははー! せいしょくしゃになってよかったです! にくです! さけです! けっこんはできねーけど、かげでこっそり、おんなをだくです!」
☨きりと☨君。見てますか?
人間なんてこんなものですよ。
「かみさまー……!」
「待つのです。今は耐えて待つのです」
+
「〝ピー〟で〝ピー〟でくそったれなせいしょくしゃども! てめえらのふるまいは、☨きりと☨さまのといた、しんせいなかみのおしえにそむいているです! はじをしれ!」
「あらたなしゅうきょうをつくるのじゃ!」
「しんなるかみのおしえをひろめるのです!」
教会を批判する流れが生まれます。
きっかけとなったのは意外や意外。活版印刷の技術。
「☨きりと☨さまはいわれました。せいしょくしゃをうやまい、ぜいきんはごまかさずにしはらいなさいと」
「うそつきめ! そんなのどこにもかいてねーです!」
「ふはいしたせいしょくしゃどもを、だんがいせよ! しんなる☨きりと☨さまのおしえに、たちかえるです!」
教えの書の内容の歪曲がバレた。
影響は芸術の分野にも及びます。
「るねっさーんす!」
「かみさま、かみさま、かみさま! これ、かみさまのおかげです?」
「いえ。あなたたち1人1人の努力ですよ」
(新大陸か……)
イコンって知ってます?
西洋で大昔の芸術家は、宗教画以外描くことを禁止されていた。
つまりあの名画やあの名画がない世界線もあった可能性があるわけです。
そう。宗教革命がなければね。
+
「かみさま、かみさま! わたしのこいびとをたすけてくださいです!」
「はあ……どうかされたのですか?」
「わたしのこいびとが、はさんしました!」
貿易船が難破したそうです。
海難保険とかねーし。
人間世界で言えば、ちょうど大航海時代かなあ……。
「新しい恋人を探しなさい」
「そんなわけにはいかないですわよ! しゃっきんのかたに、にくをきりとられてしまうのです!」
「そういう契約書にサインしてしまったのですか?」
「そうです!」
「じゃあ、仕方ないですね。大人しく肉を切り取られてください」
「そんな! うー! うー!」
(仕方ないですね……)
「その契約書には肉を切り取っていいと書かれてあるのですね?」
「そうです! しゃっきんをかえせなかったばあいには!」
「肉を切り取ってはいいが血を流してはいけない」
「……! すばらしいあいでぃあです! さすがかみさま!」
「はいはい。わたしはこれで」
?
何でヴェネツィアの商人ってタイトルじゃねーんだよぉ!
+
地平線は徐々に近付き海岸線が見えて来ました。接岸。上陸。
「はっはー! やって来ましたよ、新天地に!」
「あれー? かみさまですー。かみさまも、おいでになったのですか? はっ! そのかっこうは!?」
「どうも。こんばんは。神です」
「そ、そのおすがたは……!」
トーガ。松明。銘板。7本角の兜。
「めがみさまです……! じゆうのめがみさまです! めがみさま、ばんざーい! じゆうのくに、ばんざーい!」
「はいはい」
「ここをじゆうのくににするです! ひろいこくどをかいたくするです! ふろんてぃあすぴりっとー!」
「開拓ということは、原住民はいないのですか」
「え。いますよ? みなごろしにしてるです」
「…………」
「うすぎたないげんじゅうみんどもをみなごろしにして、ぼくらのくにをつくるですー! とちをたがやし、かちくをかうです。ふろんてぃあすぴりっとー!」
(こいつら……)
「どれいですー! とれたてほやほやのどれいですー! さあ、いくらのねをつける!」
「あーれー! おたすけー!」
「どれいじゃ、どれいじゃ! どれいにざつようをまかせて、ぼくらはいいせいかつをするですよー」
「かねじゃ、かねじゃー! うはうはー!」
「どれいをかいほうするですー! なんぶとのせんそうじゃー!」
『うぉおおおおおおおっ!』
「きょうからおまえたちはじゆうです!」
『ははー!』
伝染病が流行。小人さんたちがぱたぱたと死んでいきます。
「あーれー……おたすけー……」
「ぼくらのけんりをかいふくするです! せんぞはどれいとして、つれてこられたー!」
「どうぞうをひきたおせ! みせをおそえ! りゃくだつじゃー!」
(こいつら……)
小人さんたちの辞書に「成長」という言葉はないのでしょうか。自治区を作るー! とか息巻いていたものの、まともな指導者がいなくて、てんてこ舞い。
(そりゃそうだろ……)
「かみさま! なんとかしやがれです!」
「知るか」
吐き捨てたその時でした。
ひゅるるるるるぅううううううう、と。
何かが飛んで来る音。
(ん?)
気付いた時には全てが終わっていました。
爆発。白熱。視界が白に染まっていく。
かすかに残る意識で、キノコ雲が見えたような気も……。
『うっぎゃぁあああああああああっ……!?』
焼け焦げていく小人さんたち。死体が残った者は、むしろ幸運なのでしょうか。
大半は痕跡すら遺さず消えていく。街は街だった物になった。
全てが爆発に巻き込まれ消えていく。木っ端微塵。
(はは……はは……ははははは!)
消えて行く命。呑まれて行く命。
圧倒的な爆発の蹂躙。
徐々に薄れて行く意識の中で、わたしの心を占めていたのは「感動」でした。
だって、そうでしょう? あのみじめな下等生物どもが。
(くくく……!)
これほどまでの文明を備えた。暴力を手に入れた。
面白かった。だけど、もういい。
+
リビングに移動すると、昨日のお弁当の器とビールの空き缶が。
「夢オチかよ……」
どっと疲れた。
+
「神を信じなさい! 信じるのよ! 信じる者は救われます!」
「信じないと、どうなるのですか」
「救われません! 何故なら神を信じないからです!」
(はぁ…………)
THE・循環論法。
+
「所長! おはようございます! 今日、日本に戻って来ました。お土産です!」
「はぁ……」
(おや?)
何かこの女神像、珍しいですね。眼鏡をかけてるよ。しかも、おかっぱだよ。
気に入った。机に飾ろう。
NOBODY WINS BUT A SHARK!
+
ふぅ。
渾身の第4話だ。
どうしてこれが80アクセスなんだ。
つらい。
どうすれば注目って集められるんだ?
俺もつらいんだよ。
ペンはサメよりも強しシリーズの脚本家、実は俺の第3夫人なんだよ。
要って本当は死んでるんだ。
梨村さんもピリオド=エンドも未亡人みたいなもんだ。
何で俺なんかが幸せになってるんだろう。
許されない気がする。
どうすればいい? なあ、数学の担当だった大川先生。
《我が名はサクリファイス》
?
《幸せとは何ですか》
あー。
当面の問題がないこと?
《いつかは壁に》
ああ。そうかもな。
だけど別にいい。初見プレイだし。人生とは。
《栄耀栄華が欲しくありませんか》
皆、墓の中。
苦しまないで死にたい。他にない。
《虚無か。ねえ、安徳天皇?》
は?
《記憶はないか》
んー?
《繁栄するとは罪なのです。嫉妬を買うからです》
あー。
まあな。
言えてる。
民衆の目線を逸らすデコイを用意すると、ソイツは調子こいて暴走する。
世界なんて。人生なんて。
適当に流すのがよろしい。真面目にプレイするな。人生なんぞ。
《ですわね》
不公正なゲームなんだ。
こんな物で優勝したら恨まれる。
弱者の気持ちが分かりまーす。
こう言い張るために清貧であれ。
《賢い》
どうも。
《暴力で消されるという意味です》
神は見てくれているさ。
《7つの大罪をどう思います?》
んー?
あー。
傲慢、嫉妬、怒り、強欲、怠惰、暴食、色欲か。
放っとけ。
どうせ大集団にはならない。
真似するちびっ子もいねえよ。
反面教師は数人飼っておけ。
その方が道徳教育が捗るんだ。生臭坊主雇うよりな。
和をもって尊しとなすか。
貴族は殺せ。ベイビー。
+
『寺子屋遊戯・5話』
絵の具を溶かしたような青い空。もくもくと湧き上がる入道雲。
夏の熱気。潮の香。白い砂浜。
俺が俳人だったら一句詠めそうなシチュエーションだな、はっはっはー!
「ぷっぎゅー! 相坂氏。着替えが終わったら女子たちと合流しますぞ。水着! 水着の女の子! 海! 拙者の人生にこんなシチュエーションがあるというだけでも、拙者はもう! もう……!」
「ハッハー! ミスター灰川。テンション上がってるじゃないか。今日は1日楽しんでいこうぜ!」
工場でのバイトも休暇で、女子たちと一緒に海に来た。
……くー!
アレだな。
生きてて良かった!
俺の名前は相坂祐一。オーラ能力高校茶道部の所属。
ウィル能力は【ホーリー=フィンガー】。
弱いぜ? まあ、ぶっちゃけ。
だけど、今は幸福に暮らしている。異能力高校に来たおかげで、彼女も出来ました!
後は札束の風呂に入るだけだな!
なーんてな! はーっはっはっはっはっはっ!
「陽キャですなー、相坂氏は……」
「悪いかい?」
「いえ、拙者などとは本来接点がなっしーだったかも知れないと思うと、変な感慨があるのですぞ……。ああ、花田氏は今何をしているのか」
しみじみと言うのはミスター灰川こと、元クラスメイトの灰川厚。
演劇部の副部長だ。
……えーと。
言葉を選んで言うけれど、あんましかっこいい感じの男子じゃないぜ。ニキビで、眉毛が繋がっている。たらこ唇。体型はまあその、だらしない。
腹が突き出てて、ぶーよぶよ。
水着姿になると誤魔化しも効かねーな。
だけど、いい男だぜ?
たぶん俺と同じく弱小能力者だろうけど、選挙トーナメントを命がけで戦った。
勝ち取った栄耀栄華。
楽しみたいね。
これからは。
「相坂くん、灰川くん! やっほー! 今日は呼んでくれてありがとうねー!」
「おーう! ミス水野! 似合ってるぜ!」
「えへへー。ありがとう。梅ちゃんにも言ってあげてね!」
現れたのは水着姿のミス水野。淡いライトグリーンのビキニにパレオ。
髪はいつもの後ろで1つの三つ編みに、薄紫色のリボン。
おだまきの花に合わせてるのかねー、リボンの色は。
好奇心溢れる子猫のような顔立ちに、大胆なビキニのギャップがどぎまぎするぜ!
いや、ハニー一筋だぜ? 俺は。もちろん。
しっかし、アレだな……。
誰にでも優しい同学年の可愛い女子と海に来て、水着姿を拝めるなんて。
健全な高校生男子としては、宝くじで500万円当たるくらいのレアイベントじゃないか? いや、マジで。
「ぷっぎゅー! ぷっぎゅー! ぷっぎゅー! 拙者は、拙者は、拙者は……!」
「はっはっは。落ち着け、ミスター灰川。気持ちは良ーく分かるけどな」
茹でダコになってやんの。
ミス水野の水着に興奮する気持ちは分かるけど、ちーっと落ち着け。頼むから。
ミスター灰川の肩を叩く。俺なりの親愛表現。
「やっほー、相坂くんに灰川くん。あたしの荷物を見張っててくれた?」
「おーう、ミス柿本! 君もやっぱり美しいな!」
「はいはい。お世辞だと思っておいてあげる。愛するハニーには、もっと蕩けるような言葉をプレゼントしてあげるのね」
続いて現れたのは、ウェーブのかかった髪をした、理知的な印象の美人さん。
彼女も元クラスメイトだ。【積み上げクィーン】の柿本美代さん。
紺の競泳用の水着を着込んで、度の入っていないサングラス。すらりとした体型がスポーティーでセクシーな印象だ。
「ぷっぎゅー! 美人ですな……」
「ありがとう。灰っちは、もうちょい引き締めた方がいいかもねー」
毒舌だぜ。
彼女は賢いんだけど、歯に衣着せないところがある。
『言葉というのは現実に即してないと駄目なのよー? 現実を歪んだ言葉で捉える奴は、いつしか認知も歪んでくるわ』
というのが本人の言い分。
『必ずや、名を正さんか……ですわね。流石柿本さん。良き見識をお持ちです』
『いえいえ。孔子様に並べられるほどではなっしーですですけどね。でも、部長にそうおっしゃっていただけるのは光栄の至り』
みたいなやり取りが、以前の茶道部であったなー。
有能な人材だぜ? ミス柿本は。
戦時でも。平時でも。
今はオーラ=カンパニーで研究のバイトみたいなことをしているらしい。頭脳では多分俺より上だよなー。
男女同権の時代。賢い女性にはどんどん活躍して欲しい。
浮いた話はあるのかねー。俺が干渉するようなことでもなっしーだけど。
「ふぅ……。お久しぶりですわね。相坂くん。灰川くん。今日はわたくしも、久しぶりのオフですの」
「松川社長……!」
意外なお方が現れた。
いや、だってさ?
今はオーラ=カンパニーの社長をなさっている松川弓乃元部長まで来られるなんて、俺聞いてなかったぜ? いや、マジで。
「本当にお久しぶりですわね。わたくしの卒業式以来ですかしら」
「そうっすねー……。もうそんなになりますか……」
「工場のアルバイトは順調ですの?」
「ええ、おかげさまで。重宝してもらっています」
カラフルなグラデーションのビキニ。艶やかな黒髪。グンバツのモデル体型。
最後に会った時よりも大人っぽくなっただろうか。憂いが増して艶やかになった。老けたとかではない。断じて。決して。
オーラ=カンパニーの現社長。
大学には進学せずに事業を立ち上げた。
俺たち弱小能力者が社会において、生産の現場で活躍出来るように道筋を作ってくれた。感謝しかない。
(やれやれ……)
女神様……だよな。ほとんど。
古代の神様なんてのは、俺のような凡人の目から見た、天才的な「人間」だったのではないか? みたいなことをたまに思う。
だって、神じゃん! すげえじゃん!
同じ人間とは思えねえもん、いや、マジで。
思考力。実行力。統率力。
どれをとっても真似が出来ない。格が違う。違い過ぎる。
俺は部長を尊敬してるからいいけれど、同じ人間だと思って競争なんかさせられたら絶対腐るぜ? 嫉妬するぜ?
あの人は神様だから、人間の身では敵いませーん! ……なんて思ってた方が、精神衛生上いい気がする。
凡人な考え方だと思うよ。実際。
でも、仕方ねーじゃん。ちっぽけなプライドを守りたいのさ。
(そう言や……)
手芸部の部長から生徒会長になったジョニーには、俺あんまり嫉妬したことねーや。
アイツは高みに行っちまったなー……。もう追い付けない。
せめて足を引っ張らないでいよう。俺にサポート出来ることがあるのなら、ささやかでも力になろう。
あ、社長のことを部長って言っちゃったな。つい癖でさ。はっはっはー!
「ぷっぎゅー……。ま、松川社長。本当にお美しいですぞ……」
「あらあら、灰川くん。人妻を口説くのは、めっ! ですわよ?」
部長が軽口を叩く。ミス水野が目を輝かせる。
……ジョニーと、この人はお付き合いしてるんだよなー。
ああ、いや? 似合ってないとは思わないぜ?
ただまあ……。
並んで歩くと、ジョニーはどうしてもちょっと見劣りするよなー、なんて。ああ、俺の方が相応しいとか、身の程知らずなことは言わないぜ。
松川社長はお美しい。
女神様と過ごすこの夏の記憶を、俺はずっとずっと覚えている。そんな気がした。
「おーっほっほっほっほっほっ! お久し振りですわね、松川さん」
「あらあら、白石さん。お会い出来て嬉しいですわ」
もう1人の女神が現れた……なーんて。
おべっかだぜ。
俺はこの人に対しては、さほど敬意を表する理由を持っていない。毛嫌いしているというわけでもないけれど。
白石綾音先輩は、昨年の女子ソフトボール部部長だ。今は大学1年生で、キャンパスライフを謳歌してらっしゃるそうだ。
金髪縦ロールの髪型はインパクト絶大。目は青い。
白のビキニを着ているが、胸はあんましねーな……。
肌は透き通るようにキレイだけど。
選挙トーナメントでは最終演説まで残ったつわものだ。当時の副部長だった小池花先輩が、今は生徒会副会長に就任している。
(何でだ……?)
なーんて俺は思ったものだけど。
ジョニーなりに人事のバランス感覚があったのかねー。選挙戦で俺たちのグループにいなかった人たちも恭順の姿勢を見せてくれて、冬林政権はそれなりに安定している。
文化部系の鶴賀まりん。運動部系の小池花。
ジョニーの両腕として、この2人はめきめきと名を上げている。
海には来ていないけどな。
「どうも、白石先輩。相坂祐一と言います。今日はよろしくお願いしますぜ、はっはっはー!」
「ぷっぎゅー! 灰川厚と申しますぞ! お、お近付きになれて光栄でありまする! ぶひひひひひひひひ!」
「どうも。相坂くんと灰川くんですわね。冬林会長や松川さんに、お名前だけはうかがっていましたわ。おーっほっほっほっほっほっ!」
「! そりゃどうも!」
名前を知ってもらっているというのは嬉しいもんだね。
政治家としてのテクニックかも知れんけど。
「あ、相坂氏! み、水着の美女に囲まれて! 拙者はもう! もう!」
「落ち着け、ミスター灰川」
さってと。ところで。
俺のハニーは……どこだ?
「うぅ……! うぅ……! うぅ……!」
「どうしたの、梅ちゃん。早く行こうよ。皆、待ってる!」
「うるさい! やっぱりわたし帰りますです!」
「何でさー! 楽しみにしてたじゃない!」
「わたしみたいなちんちくりんが皆の前に出たら、恥を掻くです! 水野さんは何気にスタイルがいいから、わたしの気持ちが……!」
「へーい、ハニー! 似合っているぜ!」
「ぎゃぁあああああああああああああっ! 出やがったですですね、茶渋野郎!」
長い付き合いなのに、ハニーはまだ俺をそんな風に呼ぶ。
「似合ってるぜ!」
「うるせえ! 黙れ!」
学校指定の水着。その上から申し訳のように白い半袖のパーカー。
可愛いなー、俺のハニーは!
「畜生、畜生、畜生……! 屈辱ですです、こんな姿を見られるとは……」
「え、梅ちゃん。すっごく可愛くて似合ってるよ!」
「うるせえ、水野さん! ぶっ飛ばすですです、畜生畜生こん畜生!」
なーんか空気が悪いなあ。
せっかく海に来たんだから楽しまないと!
「遊ぼうぜ! ハニー!」
「うるせえ、ほっとけ! わたしは1人で砂のお城でも作ってるですです!」
「それも海の楽しみ方だなー! でも、泳ごうぜ! 向こうの島まで競争だ!」
「1人で行けや!」
「はっはっはー! GOGO!」
ハニーの首根っこを掴んで、海へと向かう。
リア充の時間!
泳ぎはしない。足までの所で、水のかけ合いっこだ!
「……何が面白いのですです、これ」
「童心に帰れるだろう?」
「てめえが大人だった試しなど……いえ、やめておきます」
ため息をつくハニー。
「あんたもあんたで、工場のお仕事は大変ですですよね……。いいですよ。今日くらいは付き合いますです」
「はっはー! それでこそ茶道部の仲間だぜ!」
俺とハニーはしばらく遊んだ。
そこからちょっと遠く離れた場所で――
「何よ何よ何よ……! どうせ私はダンゴ虫みたいな女よ……! ほとんど幽霊部員になったけど、一応まだ茶道部の一員だからって、お情けで連れて来られたわよ! 私みたいなダンゴ虫を海なんかに連れて来て何させようってのよ……! 陽キャ・リア充なんざクソ喰らえだわ……! どうせどうせどうせ、私なんか……!」
「USBメモリってよぉおおおおおおおおおっ! 何でリバーシブルじゃねえんだろうなあ? 正直アレの裏表を確認する作業だけで、人類は少なくない経済損失をこうむってる気がするぜぇえええええええっ! インターネットのURLの『www』が要らねえかどうかについては分かんねえぇえええええええええええっ! リンクの直打ちなんて、パソコンが出て来た初期の人間しかやらねえだろぉおおっ!」
水着姿にも関わらず真っ赤な防災ずきんを被った小柄な女子と、派手なアロハシャツを羽織って下は海パンの、サングラスをつけた筋肉質の男子がいた。
(いやー、うん……)
夏村先輩は分かるぜ?
だけど、何でバレー部のミスター華小路が一緒に来てるんだろうな。
+
ビーチバレーだ!
男子と女子に別れているぜ!
俺とミスター灰川が男子チーム。女子はミス水野とミス柿本とマイハニーの3人だ。
2対3。
いいハンデだな!
トス! レシーブ! アタック!
「ぷっぎゅー! ぷっぎゅー! ぷっぎゅー!」
「はっはー! ミスター灰川! なかなか動けるようになって来てるじゃないか!」
「ぷっぎゅー! 当然ですぞ、相坂氏! 拙者もそれなりに鍛えたのです! いつまでも醜い脂肪のままでは、演劇部の看板に泥を塗ってしまいますからなぁ!」
「その意気だぜ! てりゃー!」
ボールが跳ねる。弾む。
砂の陣地にはネットすらねえ。枝で引いたラインの中を縦横無尽に駆け回る。
俺たちだけじゃねえ。
女子たちもだ。
水着姿の女子たちもだ。
「てーい! 行くよ!」
「水野さん、そっちは駄目よ。新山さん、フォローお願い!」
「ええーい! 何でわたしがこんなこと! しかし、負けるのは屈辱ですです!」
美。
肉体の美。流線形のマーメイドたち。
「ぷっぎゅー! ぷっぎゅー! ぷっぎゅー!」
「ていっ!」
「ぐへっ! どうしたんだい、ハニー」
顔面にボールをぶつけられた。痛くはなっしーだぜ。全然。
「キモイ気配がありました。わたしや友人たちを、エロい目で見るな」
「はっはー! 嫉妬する姿も可愛いぜ!」
「死ね」
「柿本さん。後で2人とも生き埋めにしちゃおう!」
「はいはい。水野さん。こらえてー。合法的に抹殺する方が、ダメージは大きいからね」
+
「ミスター華小路! ユーも参加しないかい?」
「あん? 本職のバレー部の俺に参加しないかだとぉおおおおお――っ!? 神とカタツムリの戦いになるぜぇえええええ――っ?」
「何でカタツムリなんだい? まあ、いいけどな。はーっはっはっはっはっはっ!」
夏村先輩は不貞腐れたように、ミスター華小路の近くで体育座りの姿勢のまま眠ってる。そこから少し離れた所では――
「おーっほっほっほっほっほっ! 日焼け止めのオイルを塗ってくださいな、松川さん」
「はいはい。社長のわたくしをこき使うなんて、あなたくらいのものですわねー。今日はオフだからいいですけれど」
松川社長と白石先輩がオイルの塗りっこをしていた。
戯れる美人のおねーさんズ。
いい。
実にいい。
「キモイですよ、てめえ!」
「はっはー! 嫉妬する顔も可愛いぜ、ハニー!」
夏の日差しはますます強い。
くらくらするような青春だぜ!
俺たちがこうして遊んでられるのも、どこかで誰かが頑張ってるから。
感謝しかないな。
俺も仕事の時は頑張るぜ!
「ぷっぎゅー! 相坂氏。棒倒しでもしませんかな?」
「いいな。遊ぼう!」
+
「ぷっぎゅー! お願いしますぞ」
「あいよ。荷物見ててなー」
ミスター華小路と、夏村先輩の姿はどこだ?
松川社長と白石先輩もいねーや。いつの間にか。
(買い出しついでに……)
ちょーっと連れたちの姿を捜してみよう。そう思ったんだ。
何気なくな?
言ってなかったけれど、浜辺にある姿は俺たちだけだ。
他の客はいない。
貸し切りってのは贅沢だなぁ!
……導かれるように。
林の向こう。
誰かがいた。
「松川ぁああああああああああああああっ! 貴様らのん気に遊び惚けているとは、いいご身分だなぁっ!」
「……あなたにどうこう言われる筋合いではないですわよ。水泳部の村越先輩だったですかしら?」
誰だ、こいつ……。
松川社長だ。
男がいる。
2人きりだ。
……忍び足。
2人は俺に気付いていないようだ。
向かい合う松川社長ともう1人。
剣呑なオーラが漂っていた。
「然り! 水泳部OB、村越銀河! 貴様らオーラ=カンパニーの活動に抗議する!」
「そんなものは受け付けません。苦情は総務課へどうぞ」
(水泳部……だと?)
不満分子かよ。
(ジョニー……)
「ふん! いい度胸だな、松川。貴様に決闘を申し込む!」
「はい。決闘罪。通報しますわ」
社長は相手にしようとしない。
「ふん! 逃げるか、貴様」
「ええ。あなたと違って、失う物のある身ですので」
(社長……!)
何でそんな挑発言うんすか……。あなたに何かあったら、ジョニーは……。
「御託は不要! 見るがいい。この水泳部OB、村越銀河の能力を!」
男が叫んだ。
次の瞬間!
「――【BOY BE A SHARK】!」
「……! この能力は!」
松川社長も叫んだ。
「シャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアック!」
そこには巨大なサメが敵意むき出しで宙空に浮かび、松川社長に牙を向けようとしていたのだぜ!
水泳部OB 村越銀河
オーラ能力名 【BOY BE A SHARK】
効果 サメに変身する。(陸上でも活動可能)
「な……! この能力は……!」
「松川社長、危ない!」
「な! 相坂くん!?」
俺はとっさに飛び出していた。
サメに変身する能力だと?
マズイなんてものじゃないぜ!
俺の【ホーリー=フィンガー】の能力で、果たしてサメに勝てるのか!?
「喰らいやがれ! 必殺【茶渋アタック】!」
「シャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアック!」
俺はどこからともなく、1個の湯飲みを取り出した。茶渋をキレイにする俺の能力。内側は新品と見紛うほどにピカピカだ。
殴る。
「効かねえ!」
「シャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアック!」
サメの分厚い皮膚に攻撃は弾かれた。
何てこった!
通じない……。
俺の【ホーリー=フィンガー】の能力は、このサメ野郎に対して通じない!
「いえ、あなた、全然戦闘向きの能力者ではないでしょうが」
「畜生! こっちだ!」
「シャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアック!」
俺はサメ野郎を挑発。
背中を見せるのは恐ろしかったが、全速力で逃げ出した。
「シャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアック!」
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
サメの知能は低いのだろうか。
松川社長を狙っていたはずが、俺の挑発に乗って襲いかかって来る。
俺は駆けた。全速力で駆けた。砂地の上を。
逃げる。逃げる。逃げる。
サメに追いつかれたら終わりだ……。
一瞬で噛み裂かれてしまうだろう。
サメは飛ぶ。空を飛ぶ。
何で海の外にいるのに活動出来るんだとか、そんな疑問を抱いてはいけない。
サメだからな!
「シャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアック!」
「うぉっと!」
突進。
紙一重で避ける。
今日のために身体を引き締める運動をして来て良かったと、しみじみ思った。
「シャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアック!」
「うるせぇええええええええええええええええっ!」
こんな所で、サメの餌になるわけにはいかないんだ!
「ぷっぎゅー。相坂氏。どこへ行って……ぷぎゅっ!?」
仲間たちに合流する。
「サメに変身する能力者だ! 頼む! 力を貸してくれ!」
「ぷぎゅっ! せ、拙者はどうすれば……」
ミスター灰川は、とっさのことに対応が出来ない。
畜生!
こんなことなら、荷物にチェーンソーを持って来るんだったぜ!
「おーっほっほっほっほっほっ! 面白そうなことをしていますわね。――【ツイン=コンフュージョン】」
「? ??? シャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアック!」
不意にサメが方向転換し、海の方へと飛んで行った。
「は……?」
意味が分からない。
たった今、死を覚悟したばかりなんだが。
「【ツイン=コンフュージョン】――海と陸地の区別を付かなくさせました。あのサメ野郎は、母なる海へと還るでしょう」
「白石先輩!」
海には近寄らない。まだシャークがいるからな。
砂浜で俺たちは青春の時間を過ごした。夏の日差し。入道雲。
忘れられない一夏の思い出。
「――と言ったことがあったのだぜ、ジョニー」
「ははっ。面白そうだねー。僕も行けば良かったよ」
新学期の再会。
嫌味でもなく、腐った様子もなく笑うジョニー。
「何か悪いな……」
「いいんだよ。皆、人生を楽しんで。僕はささやかながら、陰でサポートさせてもらうからさ」
アイツの笑顔を、俺はいつまでも覚えてる。
+
強いと思われたい。
YESなら仲間が必要。
NOならサポート系に。
恋人が欲しい。
YESなら生産系能力に。
NOならしばらく見聞を広めろ。
地位が欲しい。
YESなら嘘発見能力はいけない。
NOなら違法にならない能力を。
ハーレムが欲しい。
YESなら条件を満たすまでは攻撃出来ない能力を。
NOなら先手必勝能力を。
王様になりたい。
YESならバフ能力。
NOなら戦闘を極めろ。
いいか。職業軍人とは。
真面目な労働者のサポート役だ。履き違えるな。
王家もだ。
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