第35話 『完全体』

『その程度カ。今度はこちらからゆくゾッ』


 魔竜王が、無数の光弾を飛ばしてきた! これは俺の分裂弾バレットスピリッツ……!? 俺は消耗しているアリシアを庇いながら、なんとか凌いだ。レティシアと女王も、なんとか対応している。



「クソッ……! なんでお前が、俺の創作スキルを使用つかえるんだよっ!?」


『ククッ……魔王ヤツを取り込んだ際、ついでに“暴食”スキルもゲットだぜ! 一度受けたスキルなら、我がモノになろうゾッ!』


 ったく、自分テメェのスキルでもねぇのに威張るなっての。攻撃に回りたいが俺は消耗したアリシアを抱えてるし、レティシアも女王を気にしている。


『どーシタ? 逃げ回ることシカ出来ぬか? もっと我をタノしませヨッ!』


 魔竜王が、光の奔流ほんりゅうを放ってきた! これは、レティシアの光の螺旋オーロラか! てか、元『闇竜』なのに光属性使うなよ。


「チッ……! 己のスキルの対処法を、知らないとでも思ったかっ!」


 レティシアの銀の剣が、通常の3倍の輝きを見せた! まさか正面から受け止めて、カウンター戦法か!? レティシアもまた、この一戦に命を賭けている……!


 正面からぶつかる二つの光! 拮抗きっこうしているが、魔竜王はほくそ笑んだ。


『ほぅホゥ? 存外ニ粘るではナイか。いやはや、人間にシテおくのが勿体ないワ。ダガ、これならどうだッ!?』


 魔竜王から、今度はドス黒いオーラがほとばしった! まさか終焉の焔メガフラッシャー……!? 光に闇の力が上乗せされた!


「なっ……バカな!」

「レティシア……!」


 女王がレティシアを庇うように、聖なる障壁ホーリーバリアを張った! だが凌ぎ切れず、二人とも吹き飛ばされた!


『他愛もないのぅ。こんな人間ヤツに一度敗けたカト思うと、余計に腹立つワ』


「――テメェエェエエエエっっ!!」


 魔竜王は俺をジロリと睨み、咆哮ほうこうした! 黒い稲妻が、無数に飛来する!


「……っ!? なんでお前が、将軍のスキルを使えるんだよっ!?」


『ナンセンスなりっ! “上位互換”の魔王なら、使えて当然であろうッ!』


 まぁ理論上はそうなんだが、反則にも程があんだろ……。せめて、両手が自由に使えればな。


「タクミ、私を見捨てなさい……」

「何言ってんだっ! そんなマネ、出来るわけないだろっ」


 しかし、アリシアは静かに首を横に振った。


「私がいても……足手まといになるだけ。パパの仇を討ってくれたら、それでいいから……」

「だからって……!」


『折角、そー申しておるノダ。お言葉に甘えたらどーだ? 我も“お荷物”を抱えていたから敗けました、なんて言い訳は聞きとうナイしな』


「それ以上言ってみろ、俺はガチで手段を選ばねぇぞ?」


 目を細めた俺に、魔竜王は黙った。ここで『何度でも言おう』と言えないあたりが、コイツの三下たる所以ゆえんだ。


 よし……ヤツがビビってるうちに、アリシアを安全な場所に……



『バ カ め ♪』


「……っ!? タクミっ、背後うしろ……!」

「なにぃ……!?」


 振り向くと、俺の眼前には魔竜王の大口が……! しまった! ビビったのは演技フリだったか! 俺は咄嗟とっさにアリシアを離すのが、精一杯だった。


『絶望せぇよぉおおおおオオオオッッ!!』


――ガブリッ、ゴキグシャ、ベリバリボリ……!!


 魔竜王はしつこいくらい咀嚼そしゃくして、ゴクリと俺を呑み込んだ。


「タクミ、ウソでしょ……?」

「バカな、これは悪夢だ……」


 絶望に打ちひしがれる、アリシアとレティシア。


『おやオヤァ? 唯一、我に“勝てる可能性”がある存在モノがあっっさり殺られてもうたナァ?? タクミ・セナを取り込み、我は“完全体”となるのダッ! ウハハハハッ!』

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