第25話 異界へ

「なんだって……? 正気なのか、レティシア」


 俺が訊いても、レティシアは何も答えない。が、その表情かおが不動の『決意』を物語っていた。


「タクミの言う通りよ。ちょっと自意識過剰ね」

「悪いけど、ちょっと黙っててくれないか?」


 俺がたしなめると、アリシアは「はーい」と素直に黙った。


「タクミ……私は誰がなんと言おうと、異界へ向かうわ。母上を救助するのは、私の責務よ」

「気持ちは解るけど、これはレティシア一人の問題じゃないだろ?」


 そう……魔王が復活すれば、地上全体が危うくなる。レティシア一人に、押しつける訳にはいかない。


「ですが、タクミを巻き込むわけにはいかないわ! 私はこの命に代えてでも、母上を助けてみせる!」


「レティシアを『一人』で、行かせるわけないだろ?」


「……ぁ……」


 俺は彼女の頬に触れながらさとした。彼女も俺の手に触れる。そのは涙ぐんでいた。


「レティシアは、俺の『相棒』だ。どこへでもついていくぜ」

「タクミ……ありがとう。帰ってきたら、正式に『婚約』しましょう」


「あーストップ……ストォオオップッ!」


 アリシアが、俺たちの間に割って入った。


「なーにどさくさに紛れて、婚約しようとしてるのよ!? 私との『子作り』が先でしょ?」

「き……貴様、公の場でな……なんという破廉恥な言動を……!」


「それにさ」


 アリシアは目を細めた。


「異界に行くって簡単に言うけど、相当な『覚悟』が必要よ? 三人分の『次元渡航ロード』となると、せいぜい『一回』が限界ね」


 つまり、“片道切符”ってわけか。


「元より『覚悟』は出来ている。母上を救助し、地上に平和をもたらすのは我々の悲願だからな」


「――ちょっと待ったぁ!」


 いざかんとばかりのタイミングで、何故か国王がストップをかけた。


「タクミ殿とレティシアがいっぺんにいなくなったら、城の再建はどーなるんじゃ!?」


「ハハハ。父上、まーたご冗談を。今までサボってた分、父上が◯ぬほど頑張れば済む話でしょう?」

「そんなっ!? ワシはどーすればええんやっ!? しかも女王が帰ってくる……ワシオワタ\(^o^)/」


 茶番はともかく、俺たちはアリシアに『ロード』を開いてもらい、異界へと向かった。場合によっては、“最終局面”になるかもな。



 ◇ ◇ ◇


「ウプ……!」

「タクミ、大丈夫? ううーん……」

「……アンタも人のこと言えないでしょ?」


 『ロード』を抜け、俺とレティシアは盛大に酔っていた。アリシアは呆れながら、俺だけ介抱した。


「悪いアリシア……てか、ここは?」

「ここは魔王城パパん家よ」


 な……なんだって!? まさかいきなり敵の『本陣』に来るとは。


「……まさかとは思うが、貴様嵌めたのか?」

「んなワケないでしょ。とりあえず、私の部屋に……って、妙に酒臭いわね」


 確かに強烈なアルコールの臭いが、鼻腔はなを突いた。俺たちはとりあえず、アリシアの部屋に向かった。



 ◇ ◇ ◇


「オーホッホッホッホッ! 女王様とお呼びッ!」


「「「なっ…………!?!?」」」


 アリシアの部屋で、俺たちは唖然となった。そこには上半身裸の複数の男を囲んでいる、見覚えのある顔があった。



「エ……エレナぁあぁああああっ! アンタ、私の部屋でナニしてんのよぉおぉおおおおっっ!?!?」

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