第18話 創作 vs 具現化

 「――熱閃ファイアボルトっ!」


 俺は様子見がてら、いつも通り段幕を張る。牽制には、打ってつけのスキルだ。

 大量の段幕を前にして、アリシアは微動だにしない。被弾直前に熱閃は全弾、消失・・した!


「なっ…………!?」

「どうも見くびられてるみたいね」


 そーいや、空間に干渉できるとか言ってたな……厄介極まりない!


 アリシアがおもむろに片手を上げた。途端に俺の体は重力を無視して、真上に放り出された! おいおい、なんでもアリだなっ!?


 俺は蜘蛛糸ウェブシュートでロープを張り、反動でなんとか着地した。アリシアの追撃はない。完全に遊ばれてんな。


「本気を出しなさいな。死んでからじゃ遅いわよ?」


 アリシアがパチン! と指を鳴らすと、虚空に無数の魔法陣が出現した! お約束通り鋭いきりが飛び出し、全体攻撃オールレンジが降り注いだ!


「――三重加速トリプルアクセルっっ!!」


 俺は『切り札』の一つを切らざるを得なかった。範囲限定で、周囲の『時間の経過』を遅くする荒業だ。相手アリシアから見たら、瞬間移動したように見えただろう。


 当然、体への負担は大きく無闇に連発は出来ない。あくまで緊急回避用だ。アリシアは意外そうな顔で、俺を見つめた。


「ふぅん……? 今のを避けるんだ?」

「……俺をスカウトするんじゃなかったのか?」


「あー言い忘れてたけど、これは所謂いわゆる『テスト』ね? ここで死ぬような奴なら、所詮そこまでってこと。また次の『召還ガチャ』を引けば済む話よ」


 そーいう事かい。大当たりSSRで文句言うとか、どんだけワガママなんだよ(呆)


「……成程な。まー合格うかっても、落ちても俺に『メリット』はないがな」


「そう言わないでよ。私はタクミのことが気に入ったわ。初めて本気・・になれそうだもの」


 そう呟くと、アリシアはゆっくりと垂直に上昇した。この予備動作は、定番だと『大技』くるよな……?


「だから……あなたをその気・・・にさせてあげる!」


 アリシアが片手を頭上にかざすと、とんでもない巨大おおきさの闇の球体があらわれた! おいっ、王国ごと消滅けすつもりかっ!?


「クソ……!」


 俺はまだ三重加速トリプルアクセルから回復してない。まともにやり合っても、競り負けるだろう。万事休す……!


「タクミっ、これを使って……!」


 レティシアが、自らの剣を俺に投げ渡した! 俺が柄をキャッチすると、美しい刀身が光った。


「代々、我が王国に受け継がれている由緒正しき『聖剣』だっ! あなたの創作スキルにも耐えられるハズよ!」


 確かに並みの剣ではないとは、手に取った瞬間に解った。おまけに装備しているだけで、活力がみなぎってくる。これならイケる……!


「ありがてぇ……恩に切るぜっ!」


 俺は切っ先を、頭上のアリシアに向けた。失敗は許されない……創作の真髄、見せてやるよ!

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