第9話 『裏切り』

「こうなったらやるしかないわ! 私が切り込むから、三人とも援護して!」


 レティシアが決死の覚悟で、闇竜に突っ込んだ! 複雑な『創作』には、長い集中が必要だ。ダイヤとセレナに、時間を稼いでもらわなければ!


「ダイヤ……さんっ、セレナさんっ、奴の注意を引きつけてくださいっ! 一気に片をつけますっ!」


 ところが、二人とも微動だにしない。声は聞こえてるハズなんだが……? しかもダイヤに至っては何が面白いのか、腕組みをしてニヤついている。


「ちょ……!? 二人とも、こんな時にふざけないでくださいよっ!」


「いいえ。何一つ・・・ふざけてないわ」

「ああ。むしろ何もかも上手くイキ過ぎて、順調快調だぜ」


 は? 何言ってんだこいつら……? ここまで来るのに頭を打った形跡はないが。


「セレナ、そろそろイイよな? いい加減、この役・・・も飽きてきたぜ」

「まぁあなたにしては、よく続いた方ね? 予定・・通りだし、もういいでしょ」


 そう言った瞬間……二人が『豹変』した! ダイヤは衣服が張ち切れ、紅い筋肉が剥き出しになった。セレナも露出の高い衣装に変化し、銀髪に紫の肌色だ。


 なっ…………急展開すぎて、思考が追いつかない。二人は瞳が爛々らんらんとしており、何より人間とは思えない翼が生えていた。


「うぃ~やっと元の姿に戻れたゼ。人間ヤッてた頃は、窮屈この上なかったシナ。ヨカったのは、タダ酒が飲めたくれーダ」


「ここまでして、皇女・・を始末したいなんてね。あの娘・・・も随分、手が込んでるわ」


「皇女……? それにあの娘って、お前らさっきから何を……」


「まーお前は『異邦人』の割には粘ったから、冥土の土産に教えてヤンよ。まず俺ら『魔族』は長年、人間側と争ってンわけよ。で、人間側の代表があの女……ヴァンクリーフ王国・第一皇女のレティシア・・・・・・だ」


 なっ……レティシアは皇女だった……? しかもダイヤとセレナは、魔族ときたもんだ。


「な……なんで皇女が冒険者なんかに?」


「さーな。確かパーティー組んだ頃に『英雄』とか『封印』が、どーのこーの言ってたナ」


「そう簡単に、口を滑らせるわけないでしょ? レティシアはあの頃から、私たちを完全には信用してなかったでしょうね。彼女の存在は、私たち魔族にとっては『不都合』極まりないのよ」


「……だから抹殺するってか? 俺たちを欺く為、熱閃ファイアボルトでやられたフリをして……!」


「いや、アレ結構痛かったゾ? 一瞬キレかけたが、バレたら計画がパーだから我慢シテやった。有り難く思えヨ?」


……なんで上からもの言ってんだよ。


「さて、私たちはそろそろいくわ。もう会うこともないでしょうけど。それと『脱出』は不可能だから、早めに諦めた方がいいわ」


「まー悪く思うなや。俺はお前のソーサクスキル、結構気にイッてたけどな。なんとか魔族側に引き込めねーかと考えたが、人間と魔族は相容れないらしいわ」


「待てダイヤモンドっ! お前、ツケを踏み倒す気かっ!?」


「ハハハハハッ! この状況でツケかよ!? 万が一イキ残れたら、ロゼに『ありのまま』伝えてクレや!」


 野郎……最初から踏み倒す気、満々だったのかよ。絶対、ロゼさんブチ切れるぞ……。


 あっさり消える二人。ほぼ同時にレティシアが吹き飛ばされ、壁に激突した。俺が駆け寄ると、意識を失っているだけだった。

 ずっと援護を待っていたのだろう。すまねぇ……俺は振り返り、キッと闇竜を睨んだ。


 幸い『三つ巴』という最悪の展開シナリオは避けれた。シンプルに闇竜ヤツを排除すれば、生き残れる。俺もこんな所でくたばるつもりは毛頭ない。奴らが言ってた『あの娘』というのも気になるしな。

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