Episode Memory:12 方法と繋がり

「幸奈たちは、どうやってシルフたちと仲良くなったの?」


 その日の夜、ラインは幸奈たちに尋ねた。

 あぐらをかいていた日向は、自分のひざの上でくつろいでいるフレイムを見下ろす。


「契約してから、いろいろあって仲良くなったって感じだな」

「契約しないと仲良くなれないの?」

「いや、契約しなくても仲良くはなれるけど……」


 ラインの疑問に、日向は夜空を見上げて考えを巡らせる。

 精霊と契約するのが当たり前の世界で、契約しない理由がない。契約を結んだことでお互いの間に絆が生まれる。

 つまり、人間と精霊が絆を深める過程に契約がある。

 少しの間うなっていたが、考えがまとまらなかった日向はフレイムをわしゃわしゃとなで回す。

 もみくちゃにされたフレイムは、静かに身を震わせてこらえていた。


「私たち精霊は、自分の力を最大限に活かしてくれる人間を探して人間界に行くの」


 蝶々のような羽を羽ばたかせ、シルフがラインの目の前に飛んでいく。


「そこで巡り会えた人間と契約を結ぶから、契約は仲良くなるきっかけのひとつよ」

「どうやって契約するの?」

「契約方法はそれぞれに任されているわ。例えばそうね……フレイムは?」


 シルフは毛並みを整えているフレイムに視線を移した。

 それに合わせてラインの純真無垢な瞳もフレイムに向く。


「俺は火をともした石をアクセサリーとして身につけてもらっている。日向、ラインに見せてやれ」


 フレイムに言われ、日向は首元に隠れていたチェーンを引っ張る。

 チェーンの先には燃えるように赤い石がついていた。小石ほどの大きさをしたそれは、火が宿っているかのように静かに赤々と輝いていた。

 石は近くで灯されている火に劣らないほど赤く、ラインはその石を食い入るように見つめる。


「俺の火でケガをさせるわけにもいかないからな。それでも契約した証にはなる」


 石を見つめたまま、フレイムの言葉にラインは何度も大きくうなずいた。

 ラインは胸の中に込み上げてくる感動を溜め、湖を泳いでいるセレンに歩み寄る。


「セレンはどうやって契約したの?」

「私は……私が生み出した水を瑞穂様に飲んでいただきました」

「どんな味がするの?」

「えっと……瑞穂様、どのような味でしたか?」


 穏やかな笑顔から一転して、助けを求めるような視線を近くにいる瑞穂に向ける。

 瑞穂はおろおろとしているセレンに小さく笑いながら、ラインに微笑みかける。


「特別な味はしなかったわ。いつも飲んでいる水と同じよ」


 少しだけ甘かったかしら、と付け加える瑞穂に、セレンはほっと胸をなで下ろした。

 ラインの瞳はさらに輝き、その興味は洸矢とプレアに移る。


「洸矢とプレアは?」


 その問いに、二人は顔を見合わせて苦笑する。


「俺は、プレアが力を込めてくれた結晶を食べたよ」


 洸矢の言葉に、ラインより早く反応した日向が顔をしかめる。


「結晶って、石のことか?」

「たぶんお前が想像したもので合ってるよ」

「うげ……石食べたのかよ」

「プレアとどうするって考えた結果だよ」


 いつものように突っかかってくる日向にあきれる洸矢。

 洸矢の横でプレアが申し訳なさそうに笑う。


「僕がいい契約方法を思いつかなくて、洸矢に考えてもらったんです」

「そうなの?」

「はい。洸矢が小さい頃に持っていた図鑑を見て、それにしようと二人で決めました」


 懐かしむように微笑むプレアと、それを聞いて感心したようにうなずくライン。


「みんな、契約のやり方が違うんだね」

「精霊の力が込もったものを人間が受け取るという行為が契約になります。なので、僕たちの間でもこんなに方法が違うんですよ」


 そうなんだ、とシルフたち精霊をぐるりと見回すラインの視線と、ニコニコとしていた幸奈の視線がぶつかる。


「幸奈とシルフはどうやって契約したの?」


 ラインの問いに、待ってましたと言わんばかりに幸奈は大きく両手を広げる。


「あたしはシーちゃんからの風を受け止めて契約したよ!」

「扇風機みたいだな」


 日向が鼻で笑うと、幸奈は「違うもん!」とむくれる。

 子供のような言い合いを始めた幸奈と日向を横目に、シルフが話を続ける。


「私も悩んだけど、結局一番簡単な方法にしたのよ」

「幸奈のことだから、もっと派手な方法で契約していると思っていたわ」


 驚きを隠せていない瑞穂と、その横で静かに同意するセレン。

 その反応に、シルフは気まずそうに「あー……」と声を漏らす。


「幸奈に難しいことができるとは思えなかったからよ」


 深いため息とともについたシルフのつぶやきに、幸奈とラインを除く全員が納得する。

 幸奈はあれこれ言い訳をしながら駄々をこね、ラインは意味を理解できずに小首を傾げていた。

 自分を置いて盛り上がる疑問は解消されないながらも、ラインは凜の方へ振り返る。


「凜は精霊と契約してないの?」

「うん。僕はまだ契約してくれる精霊と会えてないんだ」


 ラインの問いに眉を下げてうなずく凜。


「凜くんはしっかりしてるから、精霊も安心してると思うんだ!」

「嘘つけ。凜先輩は天然だろ」


 幸奈の明るい声に日向の冷静なツッコミが飛び、二人の子供じみた言い合いが再開する。

 そのやり取りを聞きながら、ラインは一人で考え込んでいた。


「凜を頑張って探してるのかな……」


 すると、ラインはなにかを思いついたらしく、笑顔で凜に小指を差し出した。


「ラインも契約してないの。だから、凜が契約するまではラインと契約して!」


 思いもよらぬ提案に凜は目を丸くする。

 人間同士が契約するなんてことはない。しかし、ラインなりに考えてくれたのだと、凜はすぐに理解した。


「ありがとう。これからよろしくね」


 ふわりと微笑み、ラインの小さな小指に自身の小指を絡める。

 いつの間にか言い合いを終え、会話を見守っていた幸奈たちの顔がほころぶ。


「これが小さい子ならではの癒しパワー……!」

「ラインがいい感じにまとめてくれたことだし、今日はもう寝るか」


 そして、幸奈たちは静かに眠りについた。

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