2 小さな液晶画面から、あふれ出た思いに……

 朝食後、自分の部屋に戻ってベッドで横になっていると、博士から緊急連絡用にと渡されていた小型マルチデバイスが震えだした。


 一瞬、出るかどうか迷ったが……。


「……はい」

『遅い! それになんじゃ! そのしけた顔と声は?』


 今は博士たちに会いたくないからです……そう言いたかったが、やめておいた。


「すいません……ちょっと昨日の事を考えていました」

『……気にしておるのか?』


 液晶画面の向こうの博士が、心配そうに見つめていた。


 そりゃ、気にするよ……だって僕は、何も出来なかったんだから……。


『タケルくんや、君はまだまだ素人じゃ。出来なくて、当然なんじゃよ』


 わかっています……でも、僕のせいで被害が出てるんです……。


『じゃが君は、逃げずに戦った! 初陣、それも実機での実戦が初めてなのにもかかわらずじゃ!』

「でもそれは……みさきちゃんがいたからで……」

『であってもじゃ、君たちは勝ったんじゃぞい!』

 違う、僕の実力じゃない!

「だから! それは全部みさきちゃんがやったことで! 僕は……僕は何も出来なかった……それでも勝てたんだ……」

『……』

 博士が、悲しそうに口をつぐんだ。

「博士……本当はみさきちゃんに僕なんか、必要ないんでしょう?」

『タケルくん、君はなんて事を言うのかね!? あ、ちょ、さ──』


 液晶画面から博士が消えたかと思うと、体の芯から凍りついてしまいそうな冷たいオーラを纏った美人さんが映し出された。


「さ、沙恵さん……」

 すっかり能面になった顔で、こちらを見ている。

「ど、どうかしましたか?」

『……』


 長い沈黙が、訪れた。


『……はああああぁっ』


 そして、心底呆れたようなクソデカため息が響いた。


『そうですね、必要ないです』

 さ、沙恵くん!? 何を言っておるんじゃ!?

 博士の驚いている声が、その後ろからうっすらと聞こえる。

「……やっぱり……そうですよね」

 あれ? きっぱり言われてよかったはずなのに、どうして……。

『過ぎたことをクヨクヨグチグチ……おまけに博士に八つ当たりですか?』

「……」

『そんな火野くんは、いりません』

 どうして僕は、悔しいんだ?

『みさきちゃんには、もっとふさわしい人を探したほうがよさそうですね』

 どうして残念だと、思っているんだ?

『……それで、いつ辞めるんですか?』

 沙恵さん、そんな酷い事、言わないで下さい!

 彼女の後ろから、怒りがにじんだ涙声が響いた。


 み、みさきちゃん!?


『タケルさんは、初めてだったんです! でも、一生懸命操縦していました! あたしの事も……気遣ってくれていました!』

 画面の中に、とても人間ぽく涙ぐんでいるアンドロイド女の子が割り込んできた。

『だから……だからあたしは……今できる中での最高のパフォーマンスを出せたんです!』


 言葉がでなかった……。

 僕は、自分の事しか考えていなかったんだ……だけど、みさきちゃんは……。


『なのに……辞めろとか……言わないで下さい……』


 沙恵さんが一瞬、困ったような表情をした。

『……だ、そうです。火野くんは、どうしますか?』

 さっきとは別人のような、暖かみのある口調だった。

「……僕は」

『おお! そう言えば、新しいパイロットスーツが完成したそうじゃな!』

『ええ、自信作です』


 博士も沙恵さんも……こんな僕に気をつかっていてくれたんだ。


『そうか! では、今から試着してみる、というのはどうかね、タケルくん?』

『はい、それから昨日の件で色々と報告もありますから、ぜひいらして下さい』

『あ、あの……待ってます』

 三人が狭い画面の中で、微笑んでいた。

「……わかりました……すぐに行きます」


 全部を吹っ切れたわけじゃないけど、博士たちの優しさに、少しだけ前を向けた気がした。


『うむ! あ、また採寸があるかもしれんでの、シャワーだけでも浴びてくるとよいぞい!』

『『……』』


 博士? 今のセリフでせっかくの雰囲気が台無しですよ? それから女性陣? なんで頬を染めているの?

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