第三話 タケルとみさきのスクールライフ!?

1 苦悩

【ぐおおおおっ!】


 目の前のワイバーンから、次々と魔導ミサイルが飛んでくる。


「直撃……します」


 みさきちゃんの冷静で、妙に機械っぽい声が響いていた。


「回避行動は……あれ? どうするんだっけ……」

『むう、タケルくんは使えんのう……』

『博士、戦闘終了後、速やかな解雇を提案します』


 え? え? どういうことだ……?


『うむ、そうしよう……みさきや、さっさとワイバーンを片付けて帰還してくれい』

「了解……タンデムマシンのコントロール権限を……火野訓練生より剥奪……」


 みさきちゃん? そんなよそよそしく呼ばないでよ……。


「アンドロイド型OS……typeM……自立行動を開始します」


 途端、ガイアキーパーゼロが神速で動く。

 メインモニターを埋め尽くしている魔導ミサイルを軽く回避して、ワイバーンの懐に飛び込んだ。


「し、尻尾がくる──」

「その攻撃は……30秒前に予測済み……カウンター攻撃……発動……」


 超振動サーベルがすべるように薙ぎ払われ、尻尾を切り飛ばした。


【ぐぎゃあああぁっ!?】


 悶絶し、転げまわるワイバーンの長い首を、容赦なく踏みつける。両翼を、巨体をジタバタと動かして抵抗していたが……。


「これで……終了です……」


 無慈悲な口調そのままに、サーベルが音もなく標的の首をはねた。


 それが、コックピットめがけて飛んでくる。恨みがましいその目が、僕を睨みつけていた……。



「う、うわああああっ!?」

 次の瞬間、目に飛び込んできたのは天井だった。

「……こ、ここは……僕の部屋……?」

 汗ばんだ体は、慣れ親しんだ柔らかさに包まれていた。それに混乱しながらも、状況を把握しようと頭をフル回転させる。

「僕の部屋……ベッドの上……ゆ、夢……だったのか……?」


 ゆっくりと上半身を起こして、辺りを窺う。カーテン越しに日の光を感じて、慌てて枕元の目覚まし時計を見た。

「げ、8時!? やば、学校! 遅刻だ!?」

 飛び起きるや、パジャマを脱ぎ捨てようとして……。

「あ……制服のまま寝ちゃってたのか……」

 紺色のブレザーとグレーのスラックスに、大きなシワが出来ていた。

「あ~あ、また母さんにドヤされるなあ……って、急がなきゃ!」

 机の上の鞄をひっつかみ、少し乱暴にドアを開け放つ。そして、ドタバタと階段を駆け下りた。


「あら? そんなに焦ってどうしたの、タケル?」

「どうもこうも、遅刻しちゃうよ! 朝ごはんは?」

 母さんのどこかのんびりとした口調に、苛立ちを覚えた。

「今日は休校だぞ、タケル。さっき学校から連絡があったんだ」

「って、え? 父さん? 会社は……」


 いつもはもう出社している時間なのに、のんびりとニュースを見ている。


「うん? まあ、昨日ので休みになった……しかし、やっぱりニュースにはなってないな……」

「だからこれから朝ごはんなのよ」


 言いながら母さんが、テーブルにハムエッグを並べていく。


「お兄ちゃんもたまには手伝ってよね!」

 妹の明日香あすかが、グレーのスエットのままで配膳の手伝いをしていた。

「明日香も、休みなの?」

「あたりまえでしょ? あれだけの事があったんだから……」

 不意に涙ぐんだ妹が、僕にお盆を押しつけてきた。


 14歳の多感な少女には、かなりの衝撃だったっぽい……いや、父さんも母さんもどこかいつもとは違って見えた。もちろん、僕も……。


 僕はそのお盆を受け取って、キッチンに向かう。


「じゃあお味噌汁、持ってって」

「うん」


 出汁のいい香りが起き抜けの脳を刺激したが、それでも何だかモヤがかかっているみたいだった。



 いただきます、と家族4人で手を合わせたあとは、お通夜のような朝食だった。皆何か思うところがあったのか、用意されたものを黙々と口に運んでいた。


「そう言えば田中さんの家な、半壊だそうだ」

「まあ、それは気の毒ね……」


 不意に父さんの口から出た話題に、ドキリとした。


「あのロボットの進行方向にあったからなのかしら?」

「まあ、そうだろうな……」


 田中さんは父さんの同僚だ。確かその家は、遊水地の近くだったはず……。


 僕のミスで……ガイアキーパーゼロで、巻き込んだのか?


「まったく、味方が被害出してどうすんのよ?」


 明日香の言葉に、胸が締めつけられる。


「そう言うなって。彼らは彼らで最善を尽くしたんだろうしさ」

「そうよ、明日香。被害にあった人達には悪いけど、ロボットがドラゴンをやっつけてくれたから、私たちの家は無事だったのよ」

「……はーい」


 両親の言葉に少しだけ救われたような気がしたけど……実際被害を被った人がいる事実は変わらない。


 僕がもっとうまくタンデムマシンを操縦出来ていたら……みさきちゃんともっと親しくなっていたら……状況は変わっていたんだろうか……。


 改めて、何も出来なかった自分が情けなく思えた。

 そして、博士たちに……みさきちゃんに、どんな顔をして会えばいいのか、分からなくなった。

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