7 激闘

 衝撃に続き、爆音が轟いた。

 そして、モニターを覆いつくす業火の嵐……ガイアキーパーゼロが、極大な炎に包まれているのだろう。


「機体表面温度……八千度を超えました」

「ええっ!? 大丈夫なんですか?」

『その程度の熱、ガイア合金にとってはそよ風みたいなものじゃ!』

『はい、融点までまだまだ余裕があります』


 そ、そうなのーっ!?


 僕は驚きすぎて、心の中で叫んでいた。


『じゃがこれはまずいぞい……』

『遊水地の植物が発火、そして近隣へ延焼してしまいますね』

 二人の焦ったような声に、嫌な緊張感が走る。

「機体周辺に……大きな大気の流動が生じ始めています」

『ぬう……』

『博士……』


 みさきちゃんの報告が、さらに博士たちに追い打ちをかけたようだ。


『タケルくんや、さらにまずい事になった』

「どど、どうしたんですか?」

『落ち着いて聞いてください』

『火炎旋風が……巻き起こるやもしれん』

『そうなってしまえば、広範囲に甚大な被害が予想されます』

「そんな……」


 火炎旋風。

 聞いたことがある。大きな火事とかで竜巻が巻き起こり、場合によっては炎を纏ったそれに、あらゆるものが焼き尽くされるって……。


「ど、どうすればいいんですか?」

『……正直、今の装備では……』

『対処は難しいかと……』


 愕然とした。

 僕の、僕たちの街が、焼き尽くされるのか?


「再度……高エネルギー反応……来ます」


 みさきちゃんの声に慌ててモニターを見たが、炎の勢いが強すぎて何も見えない。


「着弾します」


 機械的なその声に続いて、再び機体に無慈悲な衝撃が走った。


「機体表面温度、周辺の温度共に急速に下がっていきます」


 意味が分からなかった。僕たちは、何を喰らったんだ?


 今度はモニターが真っ白になり、文字通りホワイトアウトしているみたいで状況把握ができない。


『そうか……そういう事か……奴ならば、ガイア合金の性能も知っていよう』

『では……』

『ああ、試しているんじゃろう』


 二人の会話についていけない。いったい何が起こっているんだろう?


「……機体表面温度……マイナス二百七十度に到達」

『ほぼ絶対零度か……』

『いまのミサイルは、冷凍弾か何かだったんでしょうか?』

『うむ、計四発のミサイル……わしらの常識を超えた威力と、見え隠れする奴の影……まだ推測の域を出ないが、恐らく……先の二発が炎魔法、後の二発には氷魔法、のような物が込められていたんじゃろう』

『魔導ミサイル……とでも言う物でしょうか?』

『ふん、奴の好みそうな呼び方じゃが、それがしっくりくるわい』


 魔導ミサイル……か、かっこいい!


 ピンチな状況のはずなのに、その響きが僕の厨二心をくすぐった。


『タケルくん、奴の狙いは恐らく機体の熱衝撃破壊じゃ』

「熱衝撃……破壊?」

『お湯が入っていたコップに冷水を入れたら、割れてしまう事がありますよね?』

「は、はい……」

『それをガイア合金に試したのじゃろう。まあ、そんなことでどうにかなるやわな合金ではないのじゃがな!』


 ヘルメット内に、博士の高笑いが響いた。


「す、すごいんですね、ガイア合金て……でも、今動けないんですけど……」

 じつはさっきからレバーやフットペダルをガチャガチャやっているのだ。

『心配するでない! ガイア合金には温度を一定に保とうとする性質がある。すぐに──』

「強大なエネルギー反応を敵背部に確認」


 博士の言葉を遮って、みさきちゃんが淡々と報告した。


『博士、背部のキャノン砲らしき物が、エネルギーのチャージを開始したようです』

『脆くなった所へ衝撃を加える気か……じゃが』


 機体前方から、シュイィィイン……と不気味な音が漏れ聞こえてくる。


『果たしてガイア合金は、脆くなっているかのお?』

 勝ち誇った口調で静かに敵に質問する。

 と、真っ白なモニターの向こう側で、何かが煌めいた。

「高密度エネルギー体……直撃します」


 激しい衝撃に、機体が大きく揺れ動く。全身にこびりついていた氷の結晶達が、粉々に吹き飛んだ。

 復活したモニター中がその煌めきに包まれ、思わず目を細めた。


「敵……急速に接近してきます」

『沙恵くん、機体の被害状況は?』

『はい、です』

『結構! タケルくんや、反撃じゃあっ!!』

「りょ、了解」


 右レバーを動かしてレーザーライフルを構える、が、巨大な爪がその腕を掴みこんだ。


「こいつ、巨体のくせに早い!?」


 全長は十メートル位……両翼を広げた時の横幅は、二十メートル位はあるように見える。


「右腕部……損傷なし……しかし……レーザーライフルの射撃は……困難」

『ふっふっふ……自ら懐に飛び込んでくるとは、愚かじゃのう』

『火野くん、接近戦での武装は?』

 沙恵さんの声が届く前に、左レバーを動かしていた。

「超振動サーベルです!」

 叫ぶと同時に左手が、腰部に装着されているそれを握り振り上げる。

 短く収められていた刀身部が一気に伸びて、見惚れてしまいそうな形状を露わにした。


『翼を狙えい! 奴の動きを止めるんじゃ!!』

「はい!」

 左レバー人差し指部分のボタンを押し込む。

 ブ……ブ……ブーン、と刀身が震え出したかと思うと、すぐにその振動が激しくなり、一秒とかからずにキーンと耳をつんざくような高周波音が辺りに響いた。


「く、喰らえ!」

 右手を掴むことに夢中だった奴が、音の発生源へ首を動かす。

 遅い。すでにガイア合金製の超振動サーベルが、右の翼に吸い込まれていった。


【……】


 バターナイフがやすやすとバターを切るように、片翼が付け根から切断された。鋭すぎる切れ味に、その断面には血液すら見受けられなかった。


 十メートルはある翼が地面に叩きつけられて、轟音を上げる。土煙がタンデムマシンの全長をはるかに超えるところまで巻き上がった。


【ぐ、ぐぎゃあああぁっ!?】


 ワイバーンがやっと痛みを感じたのか、狂ったように咆哮を上げると、ガイアキーパーゼロから転がるように離れていった。

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