2 ガイアキーパーゼロの事と敵の事と……

 沙恵さんがホワイトボードにガイアキーパーゼロのシステムについて、要点をまとめていく。


「ちなみに極秘事項になりますので、ノートへの写しや、画像、動画等は撮らないでください」


 メガネの中央を押さえて、くい、と持ち上げた。


 おおっ! アニメとかでよく見る奴だが、モノホンは破壊力が違う!


「……(くいくい)」


 いやみさきちゃん? そのお顔には、何も乗っていませんよ?


「それでは詳細の説明を開始します。まずは、ガイアキーパーゼロの一番の肝であるアンドロイド型OSについてです」

「……(っ!)」


 お、みさきちゃんの顔色が変わったぞ!?


「アンドロイド型OSには、数多のパラメーターが設定されています。様々な感情等を数値化しており、それらがパイロットとの関係性により、リアルタイムで変化していきます……つまり、火野くんの接し方でみさきちゃんの性格が変わったり、性能が向上、または下落するわけです。ちなみに、当研究所所有のスーパーコンピューター【DOGIMAGI】にデータはバックアップされますが、緊急時以外の修復は不可となっております」

「な、なるほど……要はロードできないな恋愛シミュレーションゲーム、というわけですね」

「身も蓋もない表現ですが、そういう事になります。まあ、博士を見れば、ご納得いただけるかと」

「ああ……」

「……(しょんぼり)」


 博士に対しての呆れを自分の事としてとらえたのか、みさきちゃんが急にしぼんでいった。


「それから『隠しパラーメーターとかもあるからの! ま、頑張ってくれい!』と、博士じじいが仰っていました」

「……そ、そうですか」


 どんな隠しなのか、不安しかないんですけど……。


「とにかく火野くんは、みさきちゃんとの時間をより多く過ごして下さい。それが、ガイアキーパーゼロの性能をアップさせる近道です」

「は、はあ……」

「……(あせっ)」


 みさきちゃんに顔を向けると、不意に視線が絡まり、お互い慌ててそれを逸らした。


「あら、すでに甘酸っぱい空気が流れだしていますね」

「うむ、いいぞいタケルくん……流石ギャルゲーマニアの鑑じゃ!」


「「「!」」」


 は、博士!? なにドアの隙間から顔をって、ああっ! 沙恵さんが、チョークを投げつけた!? しかも剛速球っ!?


「あたっ!? って沙恵くん? チョークは何処から出したんじゃあ!?」

「講師のたしなみですので、ここに」


 ふわさ、と白衣をめくると、その裏には予備の銃弾よろしく色様々なチョークが!


「し、しかし、ホワイトボードにチョークはないじゃろう?」

「当然そうですね」

「で、ではこれは……」

「お仕置き用です!」


 あ、メガネが、きらーん、て煌めいた!?


「むう、わしはただ心配で覗いていたんじゃが……」

「そうですか。なら博士もご同席下さい」

「い、いいのかね?」

「はい」

「それではお言葉に甘えて……」

「どうせロボットの事とギャルゲー以外、やることがないんですよね?」

「う……そ、そんなこと、ないぞい?」

「ふっ……ではそういう事にしておきます」


 あ、博士が泣かされた……。


「あんまりじゃあっ! 沙恵くんのばかあっ!!」


 ドアを乱暴に閉めると、通路を爆走していくじじいの影が窓に!


「あ、あはは……博士、大丈夫ですかね?」

「大丈夫です。五分もすれば戻ってくるでしょう。では、気にせずにアンドロイド型OSのまとめに参りましょう」

「……はい」


 何だか博士が不憫に思えた。




「──以上でガイアキーパーゼロの基本的なシステム及びスペックの説明を終わります。十分間の休憩を挟んで、次は博士も交えて私たちが今、直面している危機についてお話いたします」


 そう言って沙恵さんが、部屋から出ていった。

 途端に静寂が二人を包み込む。


「あ、あはは……なんだか僕の責任、結構重大みたいだね」

 場を和ませつつコミュニケーションを取ろうと思い、隣のみさきちゃんに声をかけてみた。

「……い、いえ……あたしも頑張ります」


 なんだかぎこちない空気が流れだし、僕たちはそのまま無言でホワイトボードを見つめていた。




「みな、揃っているかね? うむ! 結構!!」

 キッチリ十分後。博士が沙恵さんを従えて、ブリーフィングルームに入ってきた。


 お、復活しているぞ! 物凄いドヤ顔だ!


「では沙恵くん、映像を頼む!」

「はい、博士」


 沙恵さんが、ぴ、とリモコンを操作すると、部屋の明かりが落ち、僕の頭上にプロジェクターが下りてきた。


「それでは、心して見てください」

 彼女の冷静な声が逆に僕の不安を煽った。


「……え? これって……」


 信じられない事だが、ホワイトボードに映し出されたのは……。


「「……」」


 博士たちを見ると、そこにはしかめっ面が二つ。


「いつ見ても、胸糞悪いわい」

「はい」


 隣のみさきちゃんを見る。


「……」


 無言で机に視線を落としていた。


「あ、あの、これってアニメとかラノベとかでよく見る……」

「うむ、いわゆる魔物という奴じゃ」

「この映像は、日本で撮られたものです」

「え?」

「ゴブリンにオーク……RPGなどでは雑魚扱いじゃが……」

「なぜか正気を失っていたようで、とても獰猛だったそうです」


 そんな……こんなのテレビにもネットニュースにもなかったぞ?


「か、かなり被害が出ているみたいですが、初耳です……」

「じゃろうな」

「強い報道規制が敷かれていますから」


 確かに報道したらパニックになると思うけど、それでいいのか?


「じゃがまあ、この程度の魔物なら、自衛隊でも何とか対応できるんじゃが……沙恵くん」

「はい」


 沙恵さんが再びリモコンを操作する。


「問題は、こういった奴らじゃ」

「え!? ドラゴン?」

「ワイバーンタイプです」

「しかもじゃ、沙恵くん、ストップじゃ!」

 博士の声と同時に映像が止まった。

「ここを見てみい」

「ん……あ!?」

「そうじゃ。明らかに

「先ほどのゴブリン等にも、その痕跡があったと聞いています」


 ワイバーンの頭部に、何やら機械のようなものが取り付けられていた。


「こ奴らがどこから湧いてきているのかはまだわからん……じゃが、心当たりが一つある」

「博士、そのお話はまだ早いかと」

「む、そうじゃの……まだ確定しておらんしな」

「はい」


 博士が沈痛な面持ちで、静止画になったままのワイバーンを見つめていた。

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