4 お遊びはここまでじゃ!
う~ん、何だかほっぺがひゃっこい……。
「って、はっ!?」
僕は目覚めるや飛び起きる。その視界には、仁王立ちな白衣が飛び込んできた。
「さ、沙恵さん……おはようごじゃいます……」
見れば先に復活していたらしい博士が、正座させられている。
「はい、おはようございます」
う、ニコニコしている美人さんから、こんなにも恐怖を感じるとは……。
「さて、火野くん。私は一体何者でしょうか?」
ド直球な質問キターっ! これは選択肢があるようで、実質一択問題……落ち着け僕。数多のギャルゲーをクリアーしてきた僕ならば、回答を導き出せるはずっ!
「コ……」
「こお?」
ひっ!? 何をやっているんだ、タケルぅ!? 好奇心は猫をも何とかと言われているだろう? ここは無難に行けえいっ!
「こ、この研究所の……美人な助手さん……です?」
「……まあ、いいでしょう」
ふ、ふう~、助かった……やはり現実にはギャルゲーにはない緊張感がつきまとうぜ……記憶には鍵、お口にはチャックだな……。
「の、のお沙恵くん……わし、足がしびれてきたんじゃが……」
「あら? 良かったじゃないですか? まだまだ末梢神経がご健在なんですね?」
能面で老人を突き放す……そんな沙恵さんも素敵です?
「た、頼むう……コスプレの事は金輪際言わん……画像は……」
「なぜそこでスパッと削除すると言わないんですか! えいっ!!」
「あひゃあっ!?」
ええっ!? 痺れている足を鞭で打つ、だとお? ご褒美じゃないですか!?
「さ、沙恵くん? 一体どこから鞭を?」
「護身用に常時携帯していますが、何か?」
そこから顔色一つ変えずに沙恵さんは鞭をふるい続けた。
広い格納庫に小気味よい打撃音と、老人の哀愁漂う苦悶の声が、響いていた……。
「さて、些末なことで時間を大幅に浪費してしまったわけじゃが、タケルくん、みさき、ガイアキーパーゼロに搭乗じゃ!」
足を小刻みにぷるぷると震わせて立ち上った博士が叫んだ。
「あふぁあっ!?」
と思いきや、もんどり打って倒れこんだ!?
「……さ、さあ、お遊びはここまでじゃ! いざ、適合テストじゃあっ!! 沙恵くん、二人をコックピットへ頼む、頼むう、ううう……!?」
いや、のたうち回っていますが、大丈夫なんですか?
「では火野くん……ぷっ」
ん? 沙恵さんが僕を見て、また吹いた? ってあーっ! そうだったあ!
「……あ、あの」
言いながら僕は腰を引き、股間を両手で隠した。これが二つめの赤面理由、です。
「なんじゃ?」
床に這いつくばったまま、博士が返す。その額には、僕と同じくらい脂汗が滲んでいた。
「こ、このパイロットスーツなんですけど……下半身部分が……すごいキツキツなんですけど……」
「なに? 沙恵くん、本当にしっかりと採寸したのかね? 全裸で!」
「はい、しっかりと採寸しました。全裸で!」
「……(ぽっ)」
そこーっ! 全裸はもうやめてえっ! みさきちゃんも赤面しないっ!
「火野くんこう見えて、下半身がかなりがっしりとしているんです」
「ほう」
「……(じーっ)」
だから、三人でまじまじと見ないでえっ!
「今研究所にある物では、これが一番ぴったりだったんです」
「ぴったりと言うか、ぴっちりじゃなあ」
「……(あせあせ)」
もう何でもいいです……。
「なので、早急に新しいものを用意します」
「うむ、その辺の事は沙恵くんに一任しよう」
「はい、お任せ下さい」
「では気を取り直して……いざ、搭乗じゃあっ!」
相変わらず床に転がったまま、博士が叫んだ。
『みさき、頸部コネクターをシートのアタッチメントに接続じゃ。慎重にな』
「は、はい……接続、完了しました」
前部モニターに映る博士は、今までの事が嘘のように真剣だった。
『うむ、確認する。しばし待機じゃ』
映像内の博士と沙恵さんが、せわしなく動いている。
「あ、あの……タケルさん、よろしくお願いします」
僕のシートの下から、かわいらしい声が響いてきた。
待機時間を使って、みさきちゃんがコミュニケーションをとってきたのだ。なんだかすごく緊張している声だ。
っていうか、女の子に気をつかわせてどうするんだよ、僕。
「う、うん! こちらこそよろしくね、みさきちゃん」
努めて明るく爽やかに言ってみた。
「……」
いい、いや、そこで黙らないでえ!? キモかったのか? キモかったんですねえ?
お顔が見えないから、余計に怖いですう!!
「……パイロットが、タケルさんで……よかったです」
「え?」
「い、いえ、何でもないです……」
「……う、うん」
いやそこは、うん、じゃないだろう、僕!?
『よし、確認完了じゃ。タケルくん、ヘルメットを装着してくれ』
流れだした甘酸っぱい空気を博士が破った。ありがたいような、ありがたくないような……。
「はい、ってあれ? 博士、ヘルメットなんてないんですけど……」
『なに? 沙恵くん、どうなっているんじゃ?』
『あ、すいません。色々あってうっかりしていました』
『しっかり者の沙恵くんにしては珍しいのお。あれか、やはりタケルくんのタケルくんが気にぎゃあああっ!?』
『鞭にはこういう使い方もあります』
れ、冷静にじじいの首を締め上げている!?
「はい、ヘルメットです」
沙恵さんが、何事もなかったかのようにやってきた。
「あ、ありがとうございます」
「いえ」
そう言って、あっさりときびすを返す。
モニターの中でぐったりしている老人について質問しようかと思ったが、彼女が纏う吹雪の様なオーラに何やら身の危険を感じたので、やめておくことにした。
「博士、準備完了しました」
フルフェイスのそれを被り、モニターに話しかける。
『うむ、では二人の適合テストを開始する!』
「「はい!」」
僕とみさきちゃんの声が、初めてシンクロした。
──初の適合テストの結果は、可もなく不可もなく、と言うものだった。
僕はみさきちゃんと仲良くなって、ガイアキーパーゼロのパイロットとしてやっていけるのだろうか?
なし崩し的に始まったバイトだけど、やるからには頑張ってみよう、そう思った。
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