1055 なかなか帰って来ない眞子
細川君が編集した眞子の新作映像を見る為に、崇秀の部屋に移動したまでは良かったが。
先程の洗い物をしに行った眞子が、いつまで経っても帰って来ない。
なにがあったのか?
***
……そして、そんな環境の中、彼是30分程が経過しようとしていた。
去れど皿を洗いに行っただけの筈の眞子は、まだこの場に現れないどころか、崇秀の部屋に来る気配すらない。
なので一瞬、家で待っているチビッ子との約束を思い出して。
急遽、上星川の奈緒さんの家に帰ったのかとも思ったんだが、どうにも、それじゃあ腑に落ちない。
だってよぉ、仮にそうだとしても、崇秀達に何も言わずに帰るのも変だし。
なにより、自分自身の目で『自身の新作映像』をチェックしない馬鹿は、どこの世界にも居ないと判断出来るからな。
そんな訳で、この沈黙した非常に嫌な状態の中。
パソコンのキーボードを叩く音だけが、部屋に充満している部屋で俺は1人で我慢比べをしている。
ヤッパ退屈だから……帰ろうかな。
……あぁただ、此処で1言だけ言って置くがな。
決して、この場で『勉強しろよ』とか思わない様に。
どう考えても、そんな雰囲気じゃねぇからな。
大体にして仕事してる連中の中で、俺1人だけ『宿題』って……どうよ?
悲しくも、あまりにも間抜けすぎるってばよ。
故に、俺は梃子でも宿題はやらない。
***
……そんでもって、更に30分程が経過した。
状況は変わらず、なにも変化のないまま、虚しく時間だけが過ぎていく。
そんな中……『コンコン』っと、漸く、待ち侘びていた、キーボード叩く以外の音が部屋の中に鳴り響いた。
「んあ?眞子か?」
「あぁ、うん。遅くなって、ごめんね」
「いや、別に構わねぇけどよぉ。オマエ、洗い物するぐらいに、何分掛かってるんだよ?」
「あぁ、ごめんね。ちょっと電話してから、お母さんと風呂に入ってたら、こんな時間になっちゃったのよ。ホントごめんね」
……アホなのかコイツは?
誰に、電話をしてたかは知らないがなぁ。
……あぁ、いやまぁ、用事が有ったんだから電話をするぐらいなら良いとしてもだな。
『風呂』って、なんだよ?
大体にしてオマエ!!
今日、此処に来た時、チビッ子との約束があるから、静流さんとは風呂には入らないって言ってたじゃんかよ。
それをなんで、人を待たせてる状態なのに、長湯に浸かてたって話になるんだよ?
こちとら、そのせいで、沈黙のあまり、1人寂しくウサギの様に死にそうになったわ!!
「あっそ。まぁ、廊下じゃ寒いだろうから、さっさと入れ」
良くねぇよ!!
「あぁ、うん。じゃあ遠慮せずに、お邪魔するね」
オマエもか!!
……ったくよぉ。
1人ぼっちで、寂しい思いをした俺の気も知らねぇでよぉ。
眞子が部屋に入って来たら、即座に大量の文句をぶつけてやる。
『ガチャ』
「オイ、眞子!!オマエ……」
「うん?」
・・・・・・
……うん、もぅ良いじゃないか。
そんな小さい事に拘って怒りをぶつけるのは止そう。
そんな虚しい事をするより、眞子を許す寛大な心を持って、この眞子の暴挙を許してやろうじゃないか。
眞子が部屋に入って来た瞬間、一瞬にして、そんな風に怒る気が失せた。
なにがあったかった?
だってよぉ、眞子の奴、汚ねぇんだよ。
コイツよぉ、綺麗に2つに束ねられたツインテールに、パジャマ姿。
その上、少し甘い香りがするシャンプーに、石鹸のなんとも言えない良い匂いのコンボをかましながら、部屋の中に入って来るんだぞ。
フェミニストな俺が、こんなものに耐えれる筈が無い。
この時点で、完全に戦意喪失でOUTだ。
……怒る気になれねぇ。
付け加えて『うん?』って言った時にした、首を傾げながらのアヒルぐち……俺の大好物オンパレードじゃねぇかよ!!
こんなの見たら、もぉ怒れねぇってばよ。
「いや、だから、あの、あのな」
ほらな。
所詮、俺なんて生き物は、こんなもんなんだよな。
兄弟の眞子に対してでも、この有様。
女の子に多少は慣れたとは言え、先天性のヘチョだけは、中々治らんもんなんじゃよ。
「うん?……あぁっと、あぁそうか、そうか。ごめんね、真琴ちゃん。家に帰ってからの勉強が、まだ有るって解ってるのに、遅くなっちゃったから怒ってるんだよね」
「いや、その、まぁ、なんつぅか」
「ごめんね。……私ね。お母さんに『一緒に風呂に入ろう』って誘われると、つい、嬉しくなっちゃって、知らない間に長湯しちゃうのよ。……本当に、ごめんね」
あぁ……そうか、そこか。
そう言う理由があったんだな。
本当の両親が居ない眞子にとって、今は、まだ仮の母親だとは言え、静流さんとの時間は何物にも変えがたいもの。
そこに再度、本人を眼の前にして誘われたら、そんな心理上、簡単には断れないよな。
これを理解してやれてねぇなんて、まだまだ眞子に対する認識力が不足してる証拠だよな。
「いや、まぁ、その、なんだ。解ってるなら良いけどよぉ」
「ホントごめんね」
「……つぅか、アンタ等さぁ。いつまで、そうやってるつもりだい?話が長引く様なら、先に用事をチャッチャと終らせて貰っても良いかい?俺は、この後も、少々用事がつっかえてるもんでな」
オイオイ……モジャ公よぉ。
オマエも、眞子の事情に詳しい人間の1人なんだからよぉ。
忙しいかも知れねぇけど、ちょっと位、おまけしてやれよな。
たかが風呂に入ったぐらいで、そんな風に言ったら可哀想だろうがよぉ。
(↑さっき、密かにボロカス言おうとした男の言葉)
「まぁ、そう言ってやるなって。女の眞子にとっちゃあ、自分を綺麗にする事は命題にも等しい。俺等みたいな『野暮で済む』野郎とは違うんだからよ」
「ふぅ、仲居間まで、そう来るかい。……しかし、なんとまぁ、オマエさんも、所詮は男なんだな。自分の彼女の眞子助にだけは、やけに甘いもんさな。他の奴等なら、いつもボロカスに言うクセにな」
「悪ぃな。自分の彼女の事だからこそ、仕事の事なんぞより、いつも綺麗で居て貰う事の方が何十倍も大事だからな」
「それはそれは。天下の仲居間崇秀とも有ろう者が、驚きの甘さを見せたもんさな」
「まぁな。そりゃあ、惚れた弱みって奴だ」
「ほぉ。そりゃあ、ごちそうさまなこって」
おぉ……眞子の奴、崇秀に、ちゃんと大切に扱われてるんだな。
まさに、今世紀最大の『特別扱い』じゃねぇかよ。
それに対して眞子も顔を真っ赤に染めて、崇秀の事を、嬉しそうにジィ~っと見てやがる。
……幸せなんだろうな。
「まぁ、それはそれとしてもだ。……ただなぁ眞子。オマエにも1言だけ言って置くぞ」
「あぁっと、えぇっと、なにかなぁ?」
「オマエなぁ。もぉちょっと時間を上手く使えな。人を待たすなんざマナー違反も良い所だぞ。綺麗で居たいのも、嬉しいのは解るがな。そう言う自覚が、大分足りねぇんじゃねぇか?何事もケジメは大切だぞ」
「うん……だよね。ごめんなさい」
……っと、ちゃんと注意すべき点はして、眞子も反省をすると。
そんで、反省した眞子は、キチンと、そこを修正すると。
クソ……なんか、スゲェ良い関係だな、オイ。
俺なんぞ、毎回毎回、奈緒さんに一方的に怒られてばっかりで、全然進歩してねぇつぅのによぉ。
オマエにだけ、そんな高性能な『修正機能』が付いててズルイぞ!!
俺にも、その機能をくれ!!
(↑なんでも欲しがる、くれくれ大王な俺)
「おぉ、解れば良い。んじゃま、体が冷えちゃイケネェから。さっさと、コタツに入れ」
「あぁうん」
「本当に、お優しいこったな」
「まぁな」
「あの……みんな、勝手な事してごめんね。今度から気を付けるね」
眞子は深々と頭を下げて謝罪をする。
「はいよ。なら、それでOKだ、眞子助。んじゃあ、この話は終わり。んで序に、早速なんだが、仲居間ご指定、ご要望の試写会に移るとするかい?」
「だな。……オイオイ、眞子。んな所で、いつまでも頭を垂れてねぇで、さっさとコタツに入れ。オマエは冷え性なんだからよぉ」
「あぁうん」
此処で漸く、崇秀の指示に従って、眞子が部屋の扉を閉めてコタツに入って来る。
「さてさて一葉。これで全員が揃って準備が万端に整ったんで、一応聞いて置くが……映像の出来栄えの方は?」
「ソイツは聞くだけ野暮ってもんさな。今まで誰も見た事もない様な、衝撃映像のオンパレード。自画自賛するのもなんなんだがな。クォリティーも、完成度も、かなり高い水準の筈さな」
あれ?ちょっと待て。
モジャが、今、なんかおかしな事を言いやがったなぁ。
衝撃映像って……なんだよ?
今回の映像って、ネット配信用のライブ総集編でも作ったんじゃねぇのか?
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【後書き】
最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございますです♪<(_ _)>
『ダメだダメだ』っと解っていても、過ちを犯してしまうのが人間。
実際、眞子も、みんなを待たせる事が悪い事だとは理解しつつも、静流さんの誘惑に勝てなかった訳ですからね(笑)
まぁただ、そう言うのが許されるのも【子供の間だけ】
大人に成ってからこんな無作法な真似をしようものなら【大顰蹙】じゃ済みません。
なので、こう言う行為をしない様にする為の抑制力を早く身に付けなきゃダメだと思い、今回のお話を書かせて頂きましたぁ♪
さてさて、そんな中。
これで漸く、細川君が作って来た『眞子の新作映像の発表』が出来る状態に成った訳なのですが。
果たして、如何なるものが飛び出して来るのか?
次回は、その辺を書いて行きたいと思いますので。
良かったら、また遊びに来て下さいねぇ~~~(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾
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