1036 自身の負った責任を果たすと言う意味

 眞子が崇秀を通して、骸のジムさんから譲って貰った呪いのベースであるスタファちゃん。

だが、その呪い(何に対しても満足出来ないと言う呪い)を倉津君の受験に使おうとしてた事が崇秀にバレて……


***


「ぐすっ、ぐすっ……ごめんなさい。ごめんなさい……うわ~~~ん」

「自分の失敗でピィピィ泣くな、ボケ。それとなぁ。今回テメェがやらかした事の責任は、テメェで取れな。……あのベースは、オッサンの遺作に成り得る一品なんだからな」

「えっ?……遺…作?ぐすっ、ぐすっ……それって……」


……嘘。


もしかしてジムさん……



「あぁ、オッサンはな。オマエの、そのベースを仕上げて、直ぐに病院に運び込まれたからな。それほどまでに丹精込めた一品って事だ」

「あの……ジムさん……死んじゃったの?……だったら、全部、私のせいだ……」


そんなぁ……


私の馬鹿な計画のせいで……


あんな良い人のジムさんが……



「いや、いや、殺すな、殺すな。勝手に殺すな。病院に運び込まれたって言っても、年齢から来る過労と、腕の酷い腱鞘炎だからよ」

「えっ?……もぉ!!だったら、なんで遺作とか言うのよ!!」

「いやな。思った以上にオッサンの腱鞘炎が酷いんだよ。それに前々から医者には、仕事もかなり止められてたからな。……まぁつっても、オッサンは馬鹿だから辞める気配がなくて。それで今回、1年以上、腕が少ししか動かせなくなるぐらい悪化させちまった。……だから年齢的にも、遺作に成り得るって話だ」


そうだったんだ……

ジムさんの遺作に成るかもしれないって意味は、そう言う意味だったんだね。


だったら結局は、私が無理を言ったせいだね。



「もう復帰の目処は立たないの?」

「まぁ、年齢的にも難しいだろうな。でも、技術は息子に伝わってるから、その辺はオッサンも一安心なんじゃねぇか」

「……そうなんだ」

「だからよぉ。大事に使えよ。馬鹿な事に使うんじゃねぇぞ」

「崇秀、ごめん。私、その要望には応えられないよ。……私なんかに、あのベースを使う権利なんて無いよ」


私なんかが使っちゃイケナイ。

寧ろ愚か者の私なんかにスタファちゃんを使う権利なんて、何所にも見当たらない。


もし使う権利が発生するとしたら、ちゃんと相手の意志を汲み取れた時からだ。



「それはダメだな。却下だ」

「なんで?私のせいで、ジムさんの腕が動かなくなっちゃったんだよ。そんな私が、あのベースを使っちゃイケナイよ。そんな資格なんか無いよ」

「アホかオマエは?」

「どうして?」

「あのベースは、オマエ専用にカスタム調整してあるベースなのに、オマエ以外の一体誰が使えるんだよ?それにオッサンはな。オマエが使って、ステージで演奏する姿を望んでるんじゃねぇのか?」

「でも……」

「『でも……』じゃねぇよ。少しでもオッサンに悪いと思う気持ちがあるなら、オッサンが作った2本のベースで、オッサンが満足いく演奏をして見せろつぅの。このカラパカ」


そうなんだけど……私なんかには、あまりにも過ぎたる物だよ。


ジムさんのベースを使うに値しない人間だよ。



「でも……」

「やかましいわ!!人の気持ちを買えない様な奴は、一生泣き事を言い続けて死んじまえ。使う権利云々の問題じゃなくて、あのベースとキッチリと使うのがオマエの責任なんだよ。それぐらいの事、瞬時に理解しろボケナス」


責任……果てしなく重く圧し掛かる言葉だ。


……私は、ジムさんに酷い怪我を負わせてしまって、初めて、この言葉の本当の意味を知った様な気がする。


まだまだ『責任』と言う言葉を、安易に考えていた証拠だ。

そう痛感すると同時に、崇秀が、この責任を言う名のプレッシャーと、日々戦い続けている事も知ってしまった。


じゃなきゃ、あんな言葉は、絶対に人には言えない筈だからね。


私の考えは、まだまだ甘かった様だ。


だったら!!



「うん、解ったよ。……キッチリとジムさんの気持ちは受け取らせて貰う。それで、必ず使いこなしてみせる。これは、私だけのベースだからね」

「そうだ。それで良いんだよ、それで」


そうだよね。

やってしまった事をウジウジと後悔してる暇が有るんだったら、前だけを向いて、その人の恩に報いるのが人間ってもんだもんね。


それ以外の余計な感情は必要ない。



「あぁ、そうだ。そう言えばよぉ、ちょっと耳寄りな情報があるんだがな」

「えっ?えっ?この期に及んでなに?」

「まずはオッサンの件なんだがな。あのアホのオッサン。リハビリを兼ねて、最近、なにやら温泉巡りをしながら放蕩生活を送ってるらしいんだよ。だから、ひょっとしたら、その内、日本に来るかも知れねぇな」


そうなの?


うんうん。

もしその情報が正確な情報なら、それは本当に耳寄りな情報だよ。


元気とまでは行かなくても、外を出歩いてるなら少しは安心出来るもんね。

それにもし日本に来て下さったら、ジムさんをライブにも招待したいし、観光にも連れて行ってあげたい。


ジムさん……日本に来ないかなぁ?

それとも、また私がアメリカに行っちゃおうかな。


……みんなの受験が終わってからだけどね。



「えっ?それって、過労の方は大丈夫だったの?」

「あぁ、オッサンは頭が悪いから大丈夫みたいだぞ」

「いや、頭は悪くないと思うけど。……でも、少し安心した」

「そっか。じゃあ、もう1つの耳寄り情報だ」

「まだなんか有るんだ。それって、なにかな?」


あっ……なんだろう?

突然なんだけど、コチラの耳寄りな情報には、なんか無性に嫌な予感がした。


って言うか、嫌な予感しかしないんだけど。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【後書き】

最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございますです♪


結局、また崇秀に怒られた眞子なんですが。

こうやって『ちゃんと理由を付けて怒ってくれる』のは非常に有り難い事だと思います。


なんて言うか。

それって、相手を見捨てていない証拠ですし。

こうやって理不尽に怒るだけじゃないなら、怒られた方も納得出来るでしょうしね♪


さてさて、そんな風にジムさんの話は一旦決着はついたみたいなんですが、なにやらベースの話は、まだ終わっていない様子。


とは言っても、一体、これ以上、なんの話があるのか?

次回はその辺を書いて行こうと思いますので。

良かったら、また遊びに来て下さいねぇ~~~(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾

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