1034 銭湯並みに大きなお風呂の理由は社会問題対策
崇秀の部屋に訪れた眞子は、彼の仕事の邪魔に成らない様に指示通り大人しくしていたのだが。
仕事が終わったみたいなので「なにやら質問」をする様なのだが……なんの質問をするつもりなのか?
***
「あぁ、でも、あれだよ。何もないって言ったけど、風呂に関する質問だったら有るんだけど」
「風呂に関する質問だと?……あぁ、だったら、広さの事か?」
あっ……質問内容が一撃でバレっちゃった。
……って言うか。
このお風呂の話題を振られたら、普通は誰だって、そう思うよね。
「そぉそぉ、なんで家庭用の風呂なのに、あんなホテルの大浴場並に大きな浴槽に成っちゃってるの?」
「あぁ、それはな。『Ns`F』で働くGUILDランカーの為に用意した風呂場だからだ」
「えっ?なに?それってどういう事?」
「いや、少し考えれば解る事なんだがな。GUILDランカーって言っても、全員が全員、関東圏出身の人間じゃないだろ。当然、地方の出身者の方が多い。……此処をまずは解ってるよな」
「あっ……うん」
そっ、そうだよね。
GUILDランカーが全員、関東圏の出身の人間だったら逆に怖いよね。
まぁ、都会には人口密度の高さがあるから、自然と上位ランカーが都会で勤めてる人には成り易いだろうけど。
それでも、全員が関東出身って事はそんな訳ないよね。
「オイオイ、その言い草。まさかオマエ、自分が住んでる土地を基準に物事を考えてたんじゃねぇだろうな」
「あぁ、はい。考えてましたね」
「アホだコイツ。……まぁ良いや。兎に角、地方出身者が多いし、関東圏出身であっても通いは辛いって人も、沢山居る訳だ」
「あぁ、うん、そうだね」
「だからな。このビルと、隣のビルの4階から8階まではな。ウチの店と契約してくれた『Ns`F』スタッフ専用の居住スペースとして提供してる訳だ。因みに、家賃は3万のワンルームだけどな」
はい?
「えぇっと、それは、人集めの為に?」
「そう言うこったな。まぁその上で、部屋に敢えて風呂を付けずに、男女別のこんな馬鹿デカイ大浴場を設置した。……さて、その理由はなんでしょう?」
「えぇ?ちょっと待って。なんででしょう以前の問題として、今時、各部屋に風呂がないの?」
「ないな」
変だなぁ。
この話からは、なにか腑に落ちない感じが抜けない。
なんだろう?
「じゃあ、当面は大浴場にだけスポットを当てて、意味を追求しろって事だよね。……にしても、なんだろう?」
「わかんねぇか?……答えは簡単じゃねぇか」
「なに?」
「あの風呂のでかさは、美容師同士の交流の場として使う為だよ」
「交流?……でもさぁ、言ってる意味は解らなくもないけど、その発想って、ちょっと安易過ぎない?」
「なんでだ?」
「だって、幾ら実力があっても、人と接するのが嫌いなホランドさんみたいな美容師さんも居る訳だよね。だったら、交流の場と言っても、そう言う人には、どう対応するつもりなの?」
「ハァ……なにを言うかと思えば、このトンチキは。それは、あまりにも馬鹿げた質問だな」
「なんで、なんで?」
「大体にしてミュージシャンと、美容師を同じ様な職業だと判断してる時点で危険な考えだぞ」
じゃあ、ミュージシャンと、美容師の違いを考察しろって事だよね。
でも、同じ人間がやってる職業なのに、そんなに大きな差が出るって言うの?
「なんで?」
「語るもアホ臭ぇぞ。良いか眞子?ミュージシャンってのは、別に表舞台に立たなくても仕事は出来る仕事だろ。なんてたって、作曲活動だけでも、ある程度、喰って行く事は可能だからな。……でも、美容師はそうじゃないだろ。こっちは、基本、対面商売の接客業。なにをするにも、人との接点が基本になってくる。……オマエは、今さっき『実力があっても、人と接するのが苦手』とか言ったけどな。接客出来無い時点で、ソイツに例え技術が有っても、美容師としての実力がねぇって判断されちまうんだよ。だったら、そんな奴がランキング入りする訳ねぇだろ」
あぁホントだね。
技術だけじゃ、知名度は、そんなに上がらないし、お客さんを疎かにする店員ってのも嫌だもんね。
まずにして、そんな『頑固親父な美容室』みたいな所にワザワザ行きたいとは思わないしね。
言われて見れば、確かに、その通りだ。
「あぁそうかぁ。そう言われれば、確かにそうだね。それに全然違うもんだね」
「だろ。まぁその上でな。お互いが持つ情報交換の場として風呂場を提供しておけば、自ずとお互いの親密度が高くなって行くだろ。なんつっても、此処のワンルームを借りるのは地方出身者が多いからな」
そっか……そこだったんだ!!
崇秀が作ったあの大きな風呂の真の狙いは、そこにあったんだ。
いや、これってね。
今、現実社会でも凄い重要な問題に成って来てる話んだけどね。
昨今、地方からイキナリ誰も知り合いの居ない見知らぬ土地に出て来た方が、まず一番陥り易い悪い現象の話の1つでね。
周りに知り合いがいないから『孤独感に苛まれる』なんて人が、地方出身者の方に多く見受けられるのよ。
しかも、これに陥っちゃうと、性質の悪い事に『欝』なんかを併発する恐れすらもある。
果てには『孤独』→『欝』→『自殺』なんて、悲しい事をしてしまう人まで出てしまう始末。
要は、この話自体、社会問題にもなってる様な話なんだけど、この原因の多くは『人との接点の無さ』だと指摘されている。
これを少しでも解消する為に、社交の場として、あんな馬鹿でかい大浴場を作ったんだ。
でも、考える規模が大き過ぎるって……
「そう言う事だったんだ」
「まぁ、付け加えて言うなら。同じ美容師同士なら、必ずしも『カットの技術』って共通の話題があるだろ。だったら他のランカーと接するにしても、これ以上、楽な事は無いだろうしな」
「はぁ、凄いねぇ。良くそんな事を思い付いたね」
「なぁに。GUILDの知名度と、ランカーの仕事効率を上げる為に、働き易い環境を提供するのもサイト側の仕事だからな」
まぁ、どうやっても人の輪に上手く入れない人って言うのが世の中には居るので、流石に完璧とまではハッキリ言い切れないけど。
この発想自体は、かなり良い線を突いてるとは思うね。
ホント、大した思考ですよ。
「ハァ~~~、それにしても上手く考えたもんだね」
「まぁな。潤滑な人間関係を構築するのも、ある意味、俺の仕事だからな。……っで。質問は、それだけか?」
「あぁうん。……あぁっと、じゃあ、もぉお邪魔かな?」
「いいや。今日の仕事は、もぉ全部終わったから、別に邪魔じゃねぇよ。つぅか。オマエが、此処に居てくれたら暖かいから。良かったもぉちょっとゆっくりして行けよ」
「あぁうん♪」
……って訳なんで、もっとピタッと、くっ付くこっと♪
だってさぁ。
この体勢って、超幸せだよ。
家族関係を除けば……幸せの極みだよ。
なんて思いながら、1人で、密かにニヤけてると……
「……あぁ、そう言えばオマエ。オマエにも1つ聞こうと思ってた事があんだけどよぉ」
「うん?なになに?」
「あの、ジムのオッサンから譲って貰った『骸カスタムのベース』なんに使うんだ?」
うん?
あぁ……なにかと思えば、私が崇秀に頼んで、骸のジムさんから譲って貰った『スタファちゃん』の事ね。
それなら、なにも聞かなくても、解りそうなもんなんだけどなぁ。
だってさぁ、此処最近の事情を考慮したら、キーワードは出揃ってる筈だよ。
『真琴ちゃん』『受験』『スタファちゃん』が3つのキーワードでしょ。
……っとくれば。
真琴ちゃんの勉強中の集中力を上げる為に、スタファちゃんの呪いを掛ける以外の選択肢は、なにもないと思うんだけどなぁ。
それにね。
この呪いについての安全性は、私が体験して立証済みだから、危険性は無いでしょ。
だから、それ以外は考えられない筈なんだけどなぁ。
……ってか、ひょっとして、崇秀なのにスタファちゃんの概要を知らないとか?
まぁ多分……それは崇秀の性格からして無いとは思うんだけどね。
でも、一応は確認してみよ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【後書き】
最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございましたぁ<(_ _)>
自分が市から得たビルをレンタルスペースとして利用して、まずは腕の立つ美容師達の独立を促し。
その上で、社会問題にも成っている『地方出身者を孤独にさせない』とメンタルケアまで、こうやってキッチリ整えてから企画に望む崇秀。
ハッキリ言って狂ってますね。
まぁでも、此処まで徹底的にやるからこそ、各GUILDランカーの人々は崇秀から離れられなく成って行くのかもしれませんね。
ぶっちゃけ、他のサイトなんかでは『こんな採算ド返し(度外視)な真似』までは何処の企業も早々にはしてくれませんしね(笑)
さてさて、そんな中。
大きの風呂場の理由を、崇秀から聞き終えた眞子なのですが。
その後、崇秀からの質問に対して眞子は、骸さんから買い受けたベース、眞子風に言えば『スタファちゃん』の話題に移って行ったみたいなんですが。
この話題がまた、眞子にとっては予想もしなかった方向に進んでいきますので。
良かったら、また遊びに来て下さいねぇ~~~(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾
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