第5話 ダチュラ ギルドマスターの思惑


ギルドマスターの三本目の小話です。

貸倉庫屋の第54話辺りからのギルマス視点の話になります。





 来たよ、来ましたよ。

話に聞いていた魔王様が。先代っては言ってるが、誰もが未だに魔王と言えばあの人を指す。歴代最恐と恐れられている戦闘狂。現魔王も平伏すと言われている。

時代が時代ならば、ああいう人が英雄と呼ばれるんだろうな。


 ああ、予想が当たっていたか。改めて思う。


今回、ダンジョンのスタンピード未遂絡みで、領主様からは説明を受けた。


この国の公然の秘密となっていたアレが、消失したという。で、その関係者がグネトフィータ国関係だったんで、魔王様御自らいらっしゃったのだと。


しかも、どういう経緯なのか全く語られなかったというが、勇者を引き連れて来たという。


勇者、やはりあの噂は本当だったんだ。スフェノファがまた召喚を行なったっていう話は。

もう魔法陣は魔力切れって聞いてたんだが、何をやったんだか。


タロウの足取りを逆算すれば、どこから来たのかは大凡察していた。まあ迷い人の線も無きにしもあらずではあったが。


あんなユニークスキル持ちは、そうそういない。今回、魔王様がお出ましになったのは、アレ関係だったらしいが、タロウの事も伝わっていたのでは無かろうか。

態々勇者を引き連れてきたというのだから。




タロウの所に勇者がやってきた。しばらくいるそうだ。魔王様は報告を兼ねてご帰国されている間、タロウに預けていったと聞く。


そうか、折角勇者がいるんだ。下の階層に支店を置くように言っておこう。金級の連中は、他の仕事があるからな。勇者とシロガネ君がいれば十分だろう。



なんと、10層支店では聖女様が開業ですか。素晴らしい。


呪われ系も皆、あそこで治療されてこい。今だけの限定だからな。魔物の呪いを受けたり、呪いの魔導具で色々と問題を抱えてしまったりした連中にも、声をかけた。

引退した連中には人をつけて、ツアーを組んだ。


お嬢ちゃんは知らずに、沢山の冒険者を助けてくれた。さすが、聖女様。


ずっと、勇者にはここに居て欲しいなあ。

しばらくいるだけだとは言われていたが、そう思わなくも無かった。


勇者が出発をする時、タロウはどうするのだろうか。



 国に帰っていた魔王様が再びやって来た。時間切れか。



タロウは、アルブム達と俺に話があると言って部屋にやって来た。遮音結界を張り、訥々と語っていく。


自分が勇者達と一緒にこの世界に召喚されたこと。役立たずのスキルだと思われて、外に出されたこと。


商業ギルドで仕事をしていたが、王都が自分のことを完全に手放していない事がわかり、出奔したこと。


そして、最後に召喚の陣を使って勇者と共に自分達の世界へ帰る事にしたという。


ただ、これは帰還できない可能性もあるので、その時はこの場所に帰ってきたいとも付け加えてくれた。


「事態がはっきりたら、一度連絡しに帰ってきます。貸倉庫屋には、直で戻れるので」


「そうか」

なんとなく、判ってはいたので反応は大きくなかった。

それは勇者達をみたアルブム達シムルヴィーベレも同じだろう。


「あんまり、驚かないんですね」

「ああ、多少は予想していた事ではある。お前のスキルは変すぎるからな」


それを聞いて、タロウは苦笑した。あんまりその顔は似合わないぞ。

お前はいつも、ヘラヘラしている方が似合っている。


「いつ、出発するんだ。それから貸倉庫屋はどうするんだ」

「出発は、明後日になります。貸倉庫屋は、このまま継続しますよ。

俺の貸倉庫トランクルーム、一部を譲渡できるんで、ギルドで取り扱っている分については、シルヴァが引き継ぎます。

今居る店員もシルヴァの眷属に変更しました」


「はあ ? 」

「あれ、こちらは驚くんですね。俺のスキルは変だって言ったじゃないですか」


そう言って、悪戯が成功したみたいにヘラヘラ笑いやがって。当たり前だろう。なんだそれは。まったく、最後までとんでもない奴だ。


「ま、駄目だったらさっさと帰ってくればいいさ。

貸倉庫屋の一部をシルヴァに譲ったとしても、仕事はいくらでもあるからな。

それでも、上手くいくことを祈っているよ」


そう言ってやると、ちょっと嬉しそうな顔をした。


送別会は、多くの人が集まっていた。タロウはこの街に随分馴染んでいたんだなと改めて感じた。



大丈夫だタロウ。聖女様の見送りだけでこれだけ人が集まったんじゃ無いから。少しは、お前の人望もあるはずだから。


ああ、ギルドにいたからオリクとロータは随分と聖女様になついているな。ニルとセピウムも、勇者達と色々と話をしているな。


ほら、タロウ、お前も一緒に出発すると言っても、あいつらは帰ってくると思っているんだよ。だから、だよ。気にするな。


ああ、聖女様を崇拝する一派が出現したか、仕方がない。聖女様はやっぱり特別だったよなあ。ほら、気にするな。






「今日から、復帰しま~す」

軽い調子で、シロガネ君と二人でタロウが戻ってきた。


勇者達は、元の世界へ戻れたという。要領の悪いタロウが残されたって事か。

何があったか詳しい話は聞いていない。


「おう、無事に帰って来れて何よりじゃないか」

「タロウさん、お帰りなさい」

丁度、ギルドに顔を出したニル達がタロウに駆け寄る。


「お土産があるから、あとで家に行くな」

タロウはいつもと変わらずに、ニル達の頭を撫でる。それをみているムスティがえらく嬉しそうだ。


「タロウさん、復帰するっていったんだからちゃんと仕事してくださいね」


シルヴァがお小言を並べる。そうだよな、コイツすぐにサボるからな。


「えー、おやつを作る材料の買い出しに行こうと思ったのに」

「仕方有りませんね。直ぐに帰ってきてくださいよ」


なんだかんだ言って、甘いんだよシルヴァ。でも、どちらかと言えば、食い物を作る方がタロウの仕事かもしれんなあ。


おかえり。





 じゃあ、せっかくだから頑張って仕事を任せよう。

実はな、アレが無くなった影響で、ダンジョンが閉鎖可能になったことが判ったんだ。これから、新しいダンジョンは生じない。


それで、幾つか大規模なダンジョンを閉鎖しようっていう計画があるんだ。


で、タロウには是非、それらのダンジョンに支店を開いてもらいたい。


いやー、帰ってきてくれて嬉しいよ。心から歓迎するぜ。

期待してるよ、タロウ君。

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