第3話 サイザワさんはお楽しみ 1
今回はサイザワさん視点のお話です。
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最初は、ほんの気まぐれだった。
スフェノファに来たのは、邪神を調べるため。テネブリスが邪神の書と封印の指輪を手に入れて、直ぐにでも蘇らせてくれるかと期待してたのに、なにかグズグズとしている。
それもあって、暇潰しにスフェノファの邪教徒集団からの情報収集をしにきた。
始めは地に潜っているような連中を殲滅して、資料をいただくだけだったけどね。そのうち、表立った集団と色々と取引をしていった。
今のスフェノファは、邪教徒の国みたいなものだから、あんまりやり過ぎると国として成り立たなくなっちゃいそうな気もしたから。ま、それでもいいけど、召喚の間を管理する存在が居なくなるのは面倒くさいから。
街中で暮らすのに、足が悪いふりをしてた。そうすると、時々、強盗君がやって来たりして退屈しのぎになった。その延長で、ポーターで買い物を頼んでみた。
そこで初めて会ったのがイチローという男だった。黒髪で黒目、平坦な顔、戦闘能力は低そうだったが、やり取りに不自然さを感じた。しかも王国の監視付きをしめす銀の短剣を持っている。
それで、見てみると「巻き込まれた異世界人」「スキル:トランクルーム 収納能力 アシスタントあり」と出た。今のスフェノファの地には、再び勇者を呼びよせるような魔力はない。
少し、興味がわいた。そちらの方面にも、ということで色々と調べた。
それとは別に、イチローという青年で遊んでみようかと思った。
収納能力がわざわざトランクルームなんて名前になっているのだ。
異世界から来た存在でだ。何か楽しい能力かもしれない。
でも、戦闘能力ではないのは、残念。
王族がどんな方法をとって、勇者を呼びよせたのかはまだ判っていない。
けれども、魔力を使い、世界の門を潜るということは、魔力を受けることで体が変質するということだ。
それならば、ただの収納のはずが無い。だが、レベルが低すぎるためか、収納以外の能力は判らなかった。アシスタントというのは、もっと判らなかったが。
お人好しそうで、誑かしやすそうだ、最初はそんな印象だった。
この国のことだし、監視もつけているからきっと神殿契約も結ばされているだろうとは予想が付く。
神殿契約、なんて大層な名前で呼んでいるけど、あれは神殿の神官の中に契約者の能力を持つ者がいて、それにやらせている隷属契約みたいなモノだ。
神官の契約の便利なところは、本人がその場にいなくても契約書のサインで、神殿で契約を成立させることができるということだ。詐欺みたいなものだ。
何が神の名の下にだ、自分たちの都合だろう。
だから、悪用が絶えない。不成立にしたいならば、簡単。自分の本当の名前を書かなければいい。だけど、神殿契約という名前の強制力で、それができないのよね。相手に思い込ませるって、重要。
この国の神官レベルならば、私がちょっと力を使えば易々と解けるだろう。その程度のモノだ。
捕らえられるようなことになったら、助けてやって恩に着せるのも良いかもしれない。そう考えていた。
それが無くても、逃げ出すために必要なほんの少しの知識は提供しておいた。何かあったときに、私は味方だと思って欲しかったから。
そういうのって、割と重要よね。信用してもらうためには。彼自身の能力で逃げるのならば、どこまで行けるのか、見てみたい気もしたから。あまり期待はしていなかったけど。
そのイチローくんが逃げ出したという。しかも神殿契約を掻い潜って。
楽しませてくれる。
呼び出しに応じなかったという点で、既に彼は神殿契約下にいないとなぜ判らないのか。割と魔力が強かったのかな。それともアシスタントとかいう能力が何かしたのかしら。面白そうな子ね。
勇者は手に入れた。召喚の陣と封印の指輪の使い方は判った。
では、封印の指輪を返してもらいにアンソフィータに行きましょうか。
イチローくんが素直な性格ならば、私の情報を基にして、きっとアンソフィータのどこかにいると思う。
運が良ければ、会えるかも。
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