第2話 ギルドマスターの憂鬱 2 スタンピード未遂
貸倉庫屋のダンジョン支店から連絡があった。スタンピード発生の可能性がある。
「緊急招集だ。総ての所属探索者に連絡を取れ」
クロークの報告に対して、即座に手配した。多様ダンジョンの11層への階段で魔香石が割られたという。
サイズによって影響は違うが、あそこは13、14,15層にドラゴンゾンビがいる。
あれらが上層に上がってくれば、狂乱したままダンジョンから出てしまうだろう。そうなれば、間違いなくスタンピードが起こる。現状はトランクルームで塞いでいるという話だが、詳しいことが判らない。
なんなんだよ、トランクルームって。どうやって魔物を防いでるんだ? 知りたいような知りたくないような。
クロークが戻ってきた。現在、押さえ込みは上手くいっているという。だが、トランクルームでこのままずっと押さえ込めるとは限らないとも。
銀級以上は10層を中心に配備し、それ以外は多様ダンジョンの入り口、街の門に配備した。
領主様にも連絡をとっている。いざというときは領兵を出して貰う必要がある。ま、あの方の事だから、すぐに対応してくれるだろう。
現在、シムルヴィーベレは依頼で街を留守にしている。ステラカエリが居てくれたのは幸運だ。銀級のドゥプレクスステラなど10層で待ち構える連中は、ギルドの馬車と車を手配して既に向かわせている。
回復薬や医療品、予備の武器などはクロークを通じて、ダンジョン支店に直接手配した。
クローク以外の人間が、ギルドから直接ダンジョンに行けないのが残念だが、仕方あるまい。シルヴァも無理みたいだからな。いや、これだけでも破格か。
定期的にクロークが現状を報告してくれる。それを受けて、ギルドからダンジョン入り口、街の門に配置している探索者や領兵に連絡をとっている。
今のところ、トランクルームで押さえ込んでいるという。ある程度の魔物は、トランクルームの環境設定で討伐できているらしい。
それが、いつまで持つかは未知数だという。なんだそれは? トランクルームって、本当になんなんだ。
シロガネ君がギルドにやって来た。
魔香石をぶちまけたヤツを捕まえて、領兵に預けてきたという。さすがだな。
ここからダンジョンに向かうというので、クロークからの報告と、ギルドや領兵の今のところの対応状況を簡単にまとめて伝えておく。
「現在、10層にいる探索者の対応能力を簡単で良いので教えていただけますか」
人数、階級、対応できそうな範囲を伝えておいた。幾つか質問を受けて、答えた。
「それでしたら、ある程度対応は大丈夫そうですね」
にっこりと微笑むと、そう言ってギルドの支店からダンジョンに向かった。
「ええ、事も無く治めましょう」
タロウのスキルもそうだが、やっぱり、この子は末恐ろしい子だ。この子だけは、敵に回したくない。シロガネ君が頼もしく、今回のことはどうにかなるのではないかと思えてもきた。
そう、決してタロウではない。シロガネ君がいるから、大丈夫ではないかと。
スタンピードはなんとか防げたようだ。
魔物を討伐した後に、彼等をしばらく10層で休ませて欲しいとクロークに伝言した。怪我の手当、食事なども手配してもらった。
領主様などにも連絡をし、確認のため自分自身で10層まで降りることにした。
自分も引退したとは言え金級の探索者だったからね。そのくらいは今でも可能だ。
このダンジョンは10層までは割と楽なんだが、11層目から格段に魔物が強くなるのだ。今回の首謀者はそれもあって10層で魔香石を割ったのかもしれない。
出現した魔物の種類を聞くと、ドラゴンゾンビがいなかったのはおかしい。だが、誰もそれを口にしなかった。
「ドラゴンゾンビが出るまでもなかったのだろう。そういうことだ、いいな」
誰もが頷いた。倒れたタロウのスキルのすごさを皆、感じているんだろう。一部、シロガネ君にビビっているヤツもいるようだ。凄かったんだろうな。他人事のように思う。
ギルドでは、タロウは呼び捨てなんだが、シロガネ君は皆、敬称をつけてるよなあ。
本人が君しか受け付けないから、君呼びだが。裏では様呼びしている奴もいるらしい。
10層で対応した探索者達には、その場である程度口裏を合わすようにした。出てきたのは、13層の連中までだ。
ここには14,15層で出てくるような、サイクロプスやオーガのアンデッド、
そういった魔晶石やドロップ品は、まとめてシロガネ君が収納した。ギルドで清算し、この場にいた探索者には現金化してあとで等分して渡すことになった。欲しいドロップ品などがあれば、その現金で買い戻す形とした。
この手続きは総て俺だけで手配する。あ、クローク、ちょっと手伝ってくれるかな。え、シロガネ君が手伝ってくれる…。お願いします。
シロガネ君から、現状を聞いた。タロウは現在、安静のためベットの住人だという。スキルの使用過多ということで、医者は手配しても意味はないという。
ギルドにある店舗はタロウが復帰するまでは閉めるそうだ。そりゃ、そうだろう。
誰も、奥には入れないことを約束した。
彼の見立てでは、今後タロウは、同じ事はできないだろうということだ。まあな、ドラゴンゾンビ3頭だからな。魔晶石の確認はしていないし、きっと居なかったんだけどな。仕方有るまい。そういう事だ。
加えてシロガネ君から詳しい状況を聞いて、血の気が引いた。あの場にいた探索者でも知らない話も含まれている。
なんてことだ!化け物並みのスキルじゃないか。こんなの放り出したらエライことになる。のんびりした男の癖して、スキルと本人が釣り合ってないだろう!
自分で自分の身を守ることが出来ないヤツがもつようなスキルじゃねえ!
あ、だからシロガネ君ね。成る程。
判ったよ、おれの腹の括り方が甘かったんだな。正規職員にするのは決定だ。それでもどこまでかばえるかは判らん。
情報操作は、いくらでもやってやろうじゃないか。もう、こうなったらあのスキルと心中する覚悟だ。
そういえば、ダンジョン内で店舗が二店、出てたな。支店は移動可能なんだ。
じゃあ、他の層や他のダンジョンにも店をだしてもらおうじゃないか。
もうバンバン活躍してもらおう! 早く元気になれよ、タロウ。
仕事がお前を待ってるぜ。
え、貸倉庫部門の部屋が3階建ての建物になっている。うん、これは最初からそうだったんだ。ほら、ギルドの建物は元々3階建てじゃないか、その延長だからそういうことだ。みんな、そうだったよな、な。
平屋だったのが気のせいなんだ。
薬師ギルドで、新開発の胃薬が出たっていってたな。買ってこよう。
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本編第50話から53話までと関係しています。
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