貸倉庫屋さん 小話
凰 百花
第1話 ダチュラ、ギルドマスターの憂鬱 1
ダチュラの探索ギルドのギルマスのお話です。
シムルヴィーベレが連れてきたヤマダ タロウはとんでもないヤツだった。
いや、お前ら、ちょっと考えろ。冷静になれ。その話が本当ならば、この男、国レベルで手に入れたがるようなスキルを持って居るぞ。
のほほんとした、顔が平たい男は自覚があるのか無いのか。なんなんだコイツは。
確かにアルブムは、昔っから探索でのポーターの必要性を語っていた。その彼にとってはタロウは天の配剤だろう。だがな、こんな能力、今まで聞いたことも見たことも無い。
人に収納能力を貸し出すなんて、前代未聞だ。
本当ならば、コイツ、よく今まで無事に過ごしてこれたと感心するぞ。
確かめるために、ステラカエリに試してもらった。シムルヴィーベレを信用していないわけじゃない。だが、確認は必要だ。
本物だった。何故、ウチに来たのだろう。普通に考えれば、商業ギルドの方に行くんじゃないのか。あちらの方が絶対に金になるぞ。
本当に探索ギルドでいいのか、商業ギルドの方が良いのではないのか。そう聞くと、
「いや、ちょっと商業ギルドは…」
と笑って誤魔化していた。コイツ、絶対商業ギルドとは何かあるんだなと思った。厄介事の匂いしかしない。藪をつついて蛇を出しては、面倒だ。
だが、このまま放っておくとシムルヴィーベレやステラカエリと一緒に探索者になってしまうかもしれない。そうなると、もっと厄介なことになりかねない。
胃が痛い。
腹を括るしかないか。
国がなんか言ってきても、ギルドは国に所属している組織ではなく、独立してるからな。スフェノファだと難しいけどな。ここはアンソフィータだ。
ギルド職員に国は手を出せないはずだ。というか出させない。
スフェノファ、そう言えば何か噂があったな。
とりあえずは、臨時職員という形で囲っとこう。ギルド内に貸倉庫部門を作ることにしよう。探索者とか個人では、こののんびりした男はどこかに連れ去られて、隷属させられてもおかしくないからな。
そんなことになったら、ウチの金級、何仕出かすか判らんからな。相手が国家レベルでも食らいつきかねん。
それに、一緒に居るシロガネ君。彼は底知れない。タロウに何もなければ、彼が爆発することもないだろう。ああ、そうか。彼が今まで(多分)何もなかったのは、シロガネ君の存在か。う、ますます以て、胃痛のネタだ。
マグナの連中、よくこんな逸材を逸出させたな。えらい、迷惑だ。これを勿怪の幸いとして考えるしか、ないか。ちょっと探り、入れとくか。
良い、胃薬が欲しい。
あまり積極的に貸倉庫屋の宣伝はしていない。アルブム達に直接聞いた金級や銀級の連中が、幾組か
1日レンタル、なんてこった。薬師ギルドに出入りしていた連中が、探索ギルドに所属して1日レンタルを利用しているって。話が、話が広がってしまう。まあ、時間の問題と言えばそうなんだが。
えっと、クロークね。彼は、何? シロガネ君、説明してくれる。ホムンクルスみたいなものなんだね。そう、じゃあ、タロウの従魔ということでいいかな。見た目、対応もまんま獣人だけどね。
また増える可能性もあるのか。そうなんだ。タロウって凄いね。
(おー、シロガネ君、嬉しそう。タロウを褒めると、彼、すごく喜ぶんだよな)
できれば作る前に前もって話をしてくれると助かるかな。
うん。手続きの問題とか色々あるんでね。扱いが従魔でいいなら、問題は無いように、しておくから。うん。
君ら、なんか規格外だね。次々と。報連相、大事にしてくれると助かるよ。
よろしくね、シロガネ君。
あ、新しい胃薬なんだ。ありがとう。
来ましたよ。商業ギルドのギルドマスターが。自分の所の方が良いと主張してくれてましたが。それならば、当事者に直接聞いてくれと言ってみた。
なんといっても、タロウの方からうちに来てるからってね。商業ギルドでは、ヤマダ タロウという人物は登録してないようだ。脱退者にも居ないと言っていた。
一応、本人に確認して駄目だったら諦めろと説得した。
後日、時間を作るとして、前もってタロウとシロガネ君に聞いてみた。いや、私の顔をたてて、会ってくれるという話になった。勿論、私も立ち会うんだがね。
で、本人がね、嫌だと言っていたのだから、仕方が無いので諦めたようだ。
探索ギルドから商業ギルドに移ってもらうのは無理でも、二足の草鞋でも、と交渉したが。それも嫌だと断られたらしい。
マグナでは薬師ギルドに居たっていってたな。その前は、探索ギルドだったと連絡が来ている。商業ギルドとはマグナでは揉めていないようだ。他の地域でも収納持ちの「ヤマダ タロウ」は引っ掛かってこない。タミヌスにも居たようだ。
どうも、移動し続けていたらしい。色々な話も入ってきたが。
なぜ商業ギルドを嫌がっているんだろう。登録もしてないってことは…。まあ、深く突っ込むのは今のところは止めておこう。
必要ならば、向こうから話をしてくるだろう。まあ、期待はしてないが。寝た子を起こしたくはないよなあ。ホントに。
スフェノファの噂、本当だったのかなあ。
タロウはともかく、シロガネ君は信頼しても良いだろう。
支店、ダンジョンに支店ができる。なんという画期的なスキルだ。私にしてみれば、収納のレンタルよりも、ダンジョンの支店の方が重要だ。
まだ未踏破のダンジョンに支店を置いてもらうことで、攻略が進むはずだ。いやあ、いいスキルだけど、恐ろしいスキルだ。
ますます、とんでもないスキルだと思うぞ。
ああ、胃が痛い。
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本編第26話以降のギルドマスターの心情でした。本編、殆ど登場していませんが。
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