第59話 バージョンアップ
「これは……」
俺は、メイが作ったお茶の上にミルクを泡事乗せていく。
「メイ。これを飲んでみてほしい」
「お、お嬢様! いけません」
タンボさんが驚いたように声を出す。
「……タンボ、大丈夫です。ちゃんと
メイは笑っているが、タンボさんは下を向いてしまった。カートさんの表情は崩れないが、メルピアさんも明らかに驚いている。
「ソウタこれはこのまま飲むのがよいの? それとも混ぜて飲むのがよいのかしら?」
「あー、一旦そのまま飲んでみてくれ。その後混ぜて飲んでみてほしい」
「分かったわ」
メイは山羊乳のミルクが乗ったお茶を手に取る。
「お嬢さ――」
タンボさんが言い終わる前にメイはお茶を口にした。
「――なるほど……」
メイは目を瞑る。口元が少し光った気がする。
メイは俺たち四人が見守っている中、三つのミルクティをテイスティングした。
「――うーん、失敗したわ」
「ダメか? やっぱり文化的なものが合わないか……」
「ソウタ、違うわ……お茶の葉が合わないの。これなら別のお茶の葉の方が合うと思う」
「お嬢様……」
カートさんが心配したようにメイに尋ねる。
「メルピア、この瓶に入っているそれぞれの泡だてている牛乳などを、味見してもらっていいかしら?」
「は、はい。承知いたしました……」
「――メ、メルピア……」
タンボさんがメルピアさんに声をかけるが、メルピアさんは気にせずメイの言われた通り小瓶のそれぞれの味見を行う。
「――なるほど……」
メルピアさんがメイを見て頷く。
「カート、タンボこれを飲んでみて」
「――お嬢様……そのお嬢様がいただいた器を我々が使うのは……タンボ、
「承知いたしました」
タンボさんが小走りにカップを取りに行く。それを見送ると、こっちに向かってため息をつくと口を開く。
「――ソウタ様、以後気をつけてください……」
「は、はい……」
ミルク泡だて器の代案がすぐに思い浮かばない上に小瓶の蓋をどうすればよいのか分からなかった……何よりこれ以上時間をかけたくなかったのだ。
その間もメルピアさんは「うーん」「なるほど」を繰り返している。
「ソウタ、これは泡を立てることに意味があるのね?」
「――俺も詳しい理由は分からないが、空気と混ざる事で口当たりがまろやか……優しくなるんだよ。あと――」
「渋みが抑えらえる」
メイが俺の言おうとしている事を遮って結論を言う。
「そう、メイがどう思うか別だが、ミルクの量を調整することで元のお茶の渋みが抑えられるのと……あとこれに砂糖を足す足さないでも変わってくる」
「砂糖ね……メルピアお願いできるかしら?」
「実は、すでに持ってきています」
「え? いつの間に?」
俺に微笑みを向けてくれるメルピアさん
「――お待たせいたしました!」
タンボさんが戻ってきてくれた。ここからは試飲会だった。
・ミルクを上に乗せたもの
・ミルクを混ぜたもの
・ミルクを混ぜたものに砂糖を混ぜだもの
皆、明らかに
それぞれがある程度飲み終わった所で俺が感想を求める。
「――で、商品になりそうか?」
従者は全員メイを見ている。
「『なる』としか言えないわ。砂糖入りのも調整すれば単品として面白いお茶になるわね。お茶と言うのか分からないけれど……」
メイは俺の目をしっかり見ながら感想を言う。
「確かに甘味が入ると、食事と合わないものが多いと思います」
メルピアさんが料理人として意見をする。
「ただし、先ほどのようにタンボが泡を作る方法は、どうにかしなければならないでしょうね」
カートさんが俺を見て眉を潜めながら言う。
「――申し訳ございません」
タンボさんが頭を垂れている。ここは俺が謝る場所なので俺が対応する。
「いや、タンボさんにお願いしたのは、俺なんで。俺が悪かったです。ごめんなさい」
「とんでもございません」
タンボさんは、すぐに俺に問題ないと表情で返してくれた。
その様子を見ていたメイが口を開く。
「――タンボ、先ほども言いましたが、私は気にしていません。それよりも簡単に泡を立てる方法って何かあるかしら?」
「まず、このような瓶に蓋があるとしますと……
「あぁ!
タンボさんはメイに褒められて嬉しいのか胸を張っている。しかし、ここでも魔法が重要になるようで俺が凹む。
「お嬢様、しかしこれを
カートさんが価格面の指摘をする。当たり前だが砂糖とミルクの料金に泡立ての人件費も上乗せになるので今までの価格帯のお茶とは一線を画すらしい。
「そうね、ただこれは王都向けにするわ。貴族の方に飲んでもらうということで一旦
「承知いたしました」
(ミルクティーが貴族用かぁ、まさにロイヤルミルクティーって感じになるが、クッキー持っていかれるより100倍はマシだな……)
見事に俺の思惑が成功し、ミルクティーの開発会はお開きとなった。俺は自分の部屋に戻り店のシンボルを考える時間にした。
◇◇◇
「――できた!」
我ながら意外といい気がする。徹夜になるかと思ったが夕食前にアイディアが浮かび、夕食後にすぐに形にできた。
オーナーのメイの『M』と店の名前がアルモロなので『A』を併せてMの右側をAにする感じのデザインにした。
その『M』のマークをマグカップの真ん中に入れた。
謎のやり遂げた感を胸に俺は眠りについた。
◇◇◇
「――へぇ……」
「ダメか?」
朝食後、食堂にて昨日作ったシンボルを確認してもらう。
「いいえ、ソウタが言っていた奇抜というのがコレってことね」
カートさんも頷いている。そっかコレを奇抜と言うのか自信が脆くも崩れる……
「因みにこの奇抜な魔法陣のような模様には意味があるのかしら?」
これを魔法陣と感じる
「あぁ、これは俺の地元の文字でメイとアルモロという文字の最初の文字が入っている」
「へぇ! ソウタにしてはちゃんと考えたんだ? もしかして、この周りの丸はクッキーをイメージしている?」
「あー……」
なんかカフェのシンボルって丸が多いからそれを踏襲したわけで意味がなかったのだ。
「――違うのね……でもクッキーに入れてもいいわね」
「そうですね!」
カートさんも乗り気だ。
「これで行きましょう! カートこれで発注お願いね」
「承知致しました」
「――じゃぁ、私はこれから王都に向かうわ。タンボとメルピアを連れてしばらく留守にするから後はよろしくね」
「え? 結局メイが直接行くのかよ?」
「えぇ、
おお、
「分かった……その間俺は練習だな」
「練習?」
「あぁ、そろそろ俺の方の計画も進めないとな……」
「ソウタは最近働き詰めだったからゆっくり羽を伸ばしてよ」
メイが経営者らしい一言を言うのでちょっと驚く。実質社長なので当たり前と言えば当たり前なのだが。
「意外と心配してくれてたんだな」
「うーん、心配というか
「――善処する」
一瞬カートさんの口が綻んだ気がするが気のせいだろう。
「じゃぁ、いってきまーす」
メイは王都に行く面倒臭さを全く見せないように食堂を出て行った。俺も自分の部屋に向かい楽器の練習をし始めた。
◇◇◇
一旦、これにてチェリア編は終了になります。54話にてソウタ達は王都のすぐ側のアルモロ王都店の建設現場に居ましたが61話よりアルモロは王都に進出します。
ここまではソウタの音楽家としての活動が殆どなくタイトル詐欺にも近いストーリーでしたが、「ミルクティ」「マグカップ」「紙コップ」「クッキー」などでアルモロはソウタのスポンサーとしての基盤を作る必要性があったので、どうしても楽器の作成や音楽活動の準備に時間がかかってしまいました。
次の王都編より少しずつ音楽系の話が増えていく予定です。
もちろんエナドリもできていませんし、彼の家にも結界がなかったり色々とチェリアでやり残した事があるので、ずっと王都にいるわけではありませんが、これからの彼らの活躍をお楽しみください。
余談ですが、ここまではソウタ視点での文章となっていますが、王都編からは少しずつ客観視した文章となっていきます。
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