第57話 再見積もり

「ソウタ、エナドリって……」


「あぁ、前に話してた『お茶薬ちゃぐすり』的な奴だ。もう面倒だから今から作るぞ!」


 カートさんの顔を見て色々反省したが、王宮にクッキーを献上したくない。それなら簡単に作れそうな別のものを用意すればいい。

 俺もいい大人だ。キレるならにキレることにした。


「ソウタ様?」


「あー。カートさんごめんなさい。まぁアレです。俺のワガママなんですけど。ちょっとお付き合いいただきたいです」


「は、はぁ?」


 カートさんは、いまいち状況が飲み込めないようで、いつもの小気味の良い『承知しました』が聞こえない。


「――えっとですね。今から薬だけど薬にならないものをここで開発しようと思います」


「ソウタ、その――」


 メイが何かを言おうとしているが無視する。


「できたものを『お茶と呼ぶのか?』はオーナーのメイが決めればいい。とりあえずお茶屋がクッキーを王宮に持っていくのは変だ。もっとにしたい」


「それはいいのだけども、はダメは……」


「メイ、詐欺は。それは約束する」


 俺はキレた時に閃きがあった。それを口にする。


「カートさん、今から喋る事は多言禁止でお願いします。もちろんメイもだけれど」


 二人は覚悟したように無言で頷いた。


「まぁ、メイは知ってると思うが……」


 俺は自分のステータスカードに【体力】と【魔力】を表示させカートさんに見せる。


「これは……」


「かいつまんで話しますが、俺は魔力が0.5ないんです。体力も1.1なんですね。珍しいでしょ? 0.5とか1.1とか……」


 カートさんは表情を崩さないまま、こちらをジッと眺めている。これから先俺が何を言うのかに集中しているのだろう。


「で、今から作るお茶と薬の間の飲み物、俺のいた所では『エナドリ』と言っていましたが、エナドリは俺のこのステータスを0.1から0.3くらい回復するものを開発します」


「れ、0.1から0.3?」


 メイが質問する。


「そうだ、仮に1回復したらそれは『薬』になってしまってポーションを売っているところからクレームが来るが、0.1ならどうだ?」


「「……」」


 メイもカートさんも黙ったままだが、カートさんが口を開く。


「どうなんでしょうか、そもそも人のステータスを見た事が初めてなので……」


「以前、こういう話をした時に俺は『』が回復した良いと話したんですが、メイが詐欺になるのは嫌だと言って一旦考えるのを辞めたんですが、0.1回復するなら詐欺じゃないでしょ?」


「それは、そうだけど。多分、ソウタ以外に確認する方法がないわ……」


「あぁ、だからこれはあくまで『健康茶』とか『リラックス茶』として売るんだよ。回復薬じゃない」


「ソウタさま、でもそのお茶を十杯飲めばステータスが1回復するのでは?」


 そう、俺もそれを考えた。


「そうなんですよ。ただ魔力や体力を『1』回復する為にお茶を十杯も飲みますか? 逆に魔力『1』回復する為にお腹を壊しそうですが?」


「「……」」


 魔力『1』でできる事がどんな事なのか知らないが、俺みたいな0.1が大事にしている人じゃないとエナドリを買う金額と、飲む量が割に合わないと思うんだよね。


「あくまで、お茶を飲んだら疲れた体がちょっと元気になるというので売るんです」


「うーん……」


 メイは納得がいくような、いかないような複雑な顔をしている。


「あと、お茶として売るかどうかも考えないとな……」


「どういうこと?」


「いや、既存のお茶と同じ風に売っていいのか? ってこと。まぁどちらにしろモノが先にないとダメだからな。カートさん屋敷や店に薬草ってありますか? できれば煎じて飲めるヤツ」


「は、はい。大量にはないかと思いますが……」


「薬効が分からないのですが、類持ってきてもらっていいですか?」


「ぜ、全種類ですね。かしこまりました」


 カートさんはあわてて部屋を出ていく。


「メイ、少量でも癖の強いお茶やもしくは爽快感があるようなお茶の葉を複数用意してもらいたい」


「本当にやる気なのね?」


「あぁ、やるしかねーだろ。クッキーより100倍マシだからな」


「そっか……分かった。取ってくる」


 メイは自分の部屋に戻っていった。その間、俺は魔法で『小さな火種』を四回起こした。ステータスカードを見ると0.1になっていた。

 体力はどうやったら減るのだろうか……とりあえず腕立て伏せをはじめてみた。


「――ただいま戻り……」


「はぁはぁ……あぁ、カートさんすいません。ちょっと実験を……」


「はぁ……?」


 カートさんってメイのワガママには割と耐性あるのに俺のやる事にはまだ慣れない感じだよなぁ……


「こちらに三種類ほどお持ちいたしました。一応、煎じる事もあると思いましたので、お湯や湯飲みなどの準備もしてまいりました」


「あ、ありがとうございます」


 最低限の会話で欲しいものを持ってきてくれるところは流石、カートさんという所だろう。


「早速なんですが、これらはどのような効果があるのでしょうか?」


 俺は机の上に置かれた三枚の葉っぱを指差しながら説明を聞く。


「こちらの緑色の手のひらのような物が一般的に言う『薬草』と呼ばれるものです。煎じて飲むと胃痛や二日酔い、下痢などのお腹の痛みに効くと言われています」


「なるほど、ではこちらの茶色のは?」


「こちらも『茶薬草』と呼ばれていてこちらの普通の薬草と同じくらい有名なものです。こちらは頭痛などの痛み止めとして使う事が多いですね」


「へぇ……じゃぁ、こちらの赤紫のちょっと小さめのものは?」


「こちらは『紫薬草』と呼ばれます。本来であれば化膿止めや傷薬として使う事が多いものであまり煎じて飲むということはいたしません。これを酒につけて色付けとして使う事があるのでお持ちした次第です」


 カートさんは丁寧に教えてくれた。魔力回復に関する物がなかったので残念だがしょうがない。


「ありがとうございます。これらの値段とか流通量はどのような感じなのでしょうか?」


「こちらの三つは流通量としてはかなり多いと思います。いわゆる冒険者になると最初のクエストとして使われるもので有名ですね」


「あぁ! なるほど」


(ゴブリン討伐と二分するアレね!)


「ただ、紫薬草以外はこのように葉っぱの状態で出回るよりも、茶葉のように一度乾燥させて粉状にして飲むのが一般的だと思います」


「ということは、結構これらの味には慣れている感じですか?」


「いいえ、そう言われると慣れていないですね。常日頃、腹痛や頭痛に悩まされる人であれば別でしょうけども、健康であればそんなに薬草を使う機会はないかと存じます」


 確かに葛根湯とかの味に『慣れているか?』と言われると慣れている人は少ないだろう。


「それに、緊急の場合は薬草よりも治癒魔法を含め回復系の魔法を使ったりいたしますし、より精錬されたポーションなどを含めた薬を使うことの方が一般的ですので、これらは薬の的な意味合いが大きいです」


「あー。魔法を使うのか……」


 やっぱり、現代日本の漢方とか生薬的な感じなんだろうな。


「それで、ソウタ様は先ほど――」


「――ただいま!」


 メイが戻ってきた……戻ってきたんだが、持ってきた茶葉の量が半端なかった。


「持ってきすぎだろ……もっと選抜してこいよ……」


「だって、しょうがないでしょ? ソウタの指示がすぎなんだから」


「――おぉ、なんかすまん」


 どうやら、カートさんが出来過ぎなようで、俺の指示はメイでさえかなりアバウトだったようだ。気をつけなければ。


「それで、ソウタはなぜそんなに汗をかいているの?」


「あぁ、カートさんとメイにお願いしている間、ちょっと体力を少しだけ落とそうと思って……」


「「は、はぁ……?」」


 そんなところで、ユニゾンするか? そんなに理解できないのだろうか? 


「いや、今から作るのは『ちょっと疲れたなぁ……』という時に飲んでスッキリするだから、ちょっと疲れる状況を作りたくて……」


「――なるほど?」


 カートさんが今まで見た事のないでこちらを見ている。


「で、ちゃんと減ったの?」


 メイはこちらを見ずに質問してくる。


「確認してない。どうだろう……」


 俺はステータスカードを見る。


「……ダメくさい……」


 メイは目を瞑って額に手をやる。


「ソウタ、真面目にやってくれるかな? 私もカートも真剣なの! っ……」


 今、確実に笑ったな。俺の方が真面目にやってるのに。


「おい、俺の方が真面目にやってるんだぞ。今の所この世界で1以下の世界、つまり0.1刻みでステータスを確認できるのは俺だけだぞ?」


「そ、それは……ブッそうですが……」


 カートさんも明らかに笑っている。


「逆に聞くけどさ【体力】を0.1減らす方法知ってるか?」


「「知らない」です」


「だったら、笑うのおかしいだろ!」


「ごめん……」


 ここでキレたら大人気ないので我慢するが、ちょっとだけ泣きそうだ。


「あー。魔力回復する系だったら実験が簡単だったんだけどなぁ……」


「魔力回復系はポーション自体が高価だし、作れる人が限られてるからねぇ」


(やっぱり魔法でなんでもできちゃう世界でマジックポーション系は高価なのか……)


 あとは小説ラノベ的な有名所だと『世界樹の葉』とかなんだろうが、どう考えてもエナドリの材料と方向性が違う。


「なんか、精神的に疲れてる時に『スッ』とする系でもいいんだけどなぁ、ハーブティ的な感じというか……」


「「うーん……」」


 一応、カートさんもメイも一緒になって考えてくれる。


「あっ!」


 カートさんがいきなり大きな声を出す。彼女らしくない反応にびっくりする。


「どうしたのですか?」


「いいえ。あくまで私が子どもの時の民間療法的な話なのですが……」


(キタキタ! これは『フラグ』くさい!)


「はい」


「子どもの頃、黒い袋になっているようなキノコがよく生えていたんですが、その袋をつまむと粉が出るんですね」


「はい」


「その粉をと魔力が回復するという話だったんですが、誰も回復しなかったんです」


 なるほど。キノコの粉というのはきっとキノコの『菌』だろうな……。


「そのキノコって結構そこら辺に生えているんですか?」


「えぇ。でもその……冒険者のクエストにもなってないキノコですし。私も舐めてみたのですが、当時ステータスカードが全く変わらなかったのは覚えておりまして……」


「もしかしたら0.1くらい回復している可能性があるということですね?」


「えぇ。ただ可能性は限りなく低いとは思いますが……」


「ありがとうございます」


 貴重な情報だが、まずキノコの採取をしなければならない。


「これは直ぐに取り掛かれそうにないなぁ……」


「ソウタ。ちょっとその前に聞きたい事があるんだけれど?」


 俺が考え込んでいるとメイが途中で質問をしてくる。


「――なんだ?」


「『ハーブティ』って何?」


「はぁ? そりゃぁ、アレだよ。お茶にハーブを使った……」


「だから、ハーブって何よ?」


「あー。ハーブね、ハーブ――ハーブって何って言えばいいんだ?」


 結局エナドリを諦めてハーブティに思考を振ったがこれからハーブを説明する地獄に頭を悩ませた。

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