第40話 タスクリスト

 メイをやり込めた翌日、昨夜は日付の単位などのことがあったのでカートさんが心配してくれて時計を用意してくれた。

 文字盤がフリューメここの文字になっていたのと動力が魔石であること以外は殆ど同じものなので安心した。もちろん形状が丸でなく四角で薄い板で秒針がないとか、薄すぎで動力部がどうなっているのか分からないとか、小さな差異はあるが時間に関してはかなり便利になった。

 なんとなく店にあるメニュー表やステータスカードに似ているので針が動いているというより針をディスプレイにしている感じに近いなというのが感想だ。


 因みに一年が365日じゃなく480日換算になったので、寝る前に480日換算で36年を過ごすと18歳になっているのかと思って計算したが違ったようだ。


 メイと朝食の時間を約束したので、早めに起きて今後の俺の課題について考えることにした。

 行き当たりばったりだが昨日の契約で『楽器の開発』や『音楽の普及』というタスクができたので持ってきた楽器を部屋のテーブルに並べてみる。


 ・カリンバ

 ・ギタレレ

 ・ソプラノリコーダー

 ・アルトリコーダー

 ・カスタネット


 家にある楽器を持って来ればもっと、あると思うが一旦これで最低限の音楽活動はできると思う。

 ただ、問題があるのも事実でギタレレだけ「弦」という消耗品を使う楽器があるということだ。学生時代からの癖で、弦楽器の弦は二セット程買っているので家を探せばストックはあるはずだが、楽器屋にスペアを買いにいけなくなった現状を鑑みると弦に代わるものを考えないと、ギタレレに限らず弦楽器は無用の長物がらくたになってしまう。


「金属加工が問題だよなぁ……」


 近代の弦楽器の弦はほとんどが金属である。クラシックギターも低音源は金属を使っているし、中国の二胡やヴァイオリンも弦は金属を使っている。

 この世界に0.1mm以下の針金を作れる技術があるのか分からないが、消耗品である弦に加え、音程をとるためのフレット、弦を巻く為のペグ……これらを今の俺の環境で作ってもらうのは時期早々すぎる。


「よく考えたらピアノだって弦使うもんな……」


 しばらく弦楽器の開発は避けるのが賢明のようだ。色々分かってきたら三味線とかから手をつけていくのが無難だろう。


 楽器の開発のスポンサーを得たとは言えしばらくは、この部屋で一人で作れそうなものを開発することになるのを考えると一旦現代的な弦楽器の開発は先送りし異世界こっちでも再現できそうなものをリストアップする方が現実的だ。


「うーん、リコーダーが一番再現しやすそうだけど、笛ならもうちょい再現できそうなケーナやティンホイッスル辺りの構造を知った方がいいだろうな……」


 一瞬オカリナも頭に浮かんだが、粘土を焼くという加工を考えるととてもじゃないが俺の家の機材を使っても再現できない。


「スポンサー以外……器用さに特化した仲間を作らないと詰むかもな……」


 ご都合主義おやくそくが発生するなら魔道具開発に特化した錬金術師とかが近いうちに仲間になってくれるとありがたいが、自分の性格的なものを考えると仲間と書いてビジネスパートナーと呼ぶ的な関係の方がありがたい。

 多分に漏れず、メイもこの位置にいるのでそれで充分だし感覚的にはネトゲでいつも一緒に狩りやタスクをこなすくらいの関係が俺にとってベストだと思っている。


 俺が陽キャだったら、みんなで『ア・カペラをユニットを組んで!』みたいな展開もありえるが少なくともあと三回くらい転生しないとダメだろうな。


「まぁ、楽器の開発に関してはそんなもんかな……」


 次に俺が考えなければならないのはアルモロの出涸らしの件だろう。

 これについては昨日就寝前に二つのやる事タスクが思い浮かんだ。


 ・お茶っ葉クッキーの開発

 ・ゴミを運搬する仕組み


 クッキーの開発に関しては家にある家庭科の本を持ってきて試行錯誤しなければならない。オーブンの開発とかはできないがきっと『っぽいもの』は早めにできるだろう。

 問題は『ゴミを運搬する仕組み』の方でこれが頭を悩ませた。というのも昨日俺が思いついたのは、よく運送屋さんが使っている車輪が四つ付いた台車的なものなのだが、この『車輪』が曲者なのだ。


 IT技術者エンジニアやっていた時の有名な言葉で『車輪の再発明』というのがある。『既にある機能などをわざわざ自分で作るな』という戒めで使われるのだがそれくらい車輪は人類にとって大きな成果物だったらしい。車輪がないと歯車もできずエンジンもできなかったとも言われている。


 確か、同じくらい革命的なものに印刷もあった気がするが、魔法が存在するのであればそこはなんとか代理できそうな気がしているし、実際フリューメここには本があったので魔法で印刷したのだと勝手に思っている。


 もちろん、魔法による紙の複製技術ではなく印刷機やコピー機が存在するのであれば間違いなく車輪の先に生まれる歯車も存在するはずで、きっと馬車もバネも存在するのだろう。ただ、歯車が存在しなかった場合が


 車輪の再発明という言葉を知った時に、動画サイトで車輪の作り方を見たがとてもじゃないが俺の知識で作れるとは思えなかった。


「うーん、なかった場合どうするかというのもそうだし、車輪という概念を伝えてよいのか?」


 車輪だけにがブレブレなのは分かっているが、俺がマグカップや紙コップを教えたのはフリューメここで再現可能な近未来再現技術ニルテクノロジーだと思ったからだ。仮に魔道具で電気を発生できたとしてシンセサイザーを演奏してもシンセサイザーは半導体などを多分に使った再現不可超越技術オーバーテクノロジーになっていると思う。


 フリューメここに居て地球の発明品を使うからには、プラスチックや半導体、電気を使う再現不可超越技術オーバーテクノロジー系の物の直接利用は極力避けたいし、現地の人に気軽に触れてほしくないと思っている。


「こういう所も俺の悪い所なんだろうなぁ。でも、ある意味ワガママともとれるか……」


 変なこだわりをと押し切ることで自分を納得させる。地球にいた頃はネガティブなイメージのあった単語だがフリューメこっちではポジティブに考えられるようになった。メイやカートさんに感謝しなければならない。


「とりあえず、車輪についてはメイに聞いてから動くか……んで、最後はお待ちかねのコレだ!」


 俺は目の前にあるソプラノリコーダーを手に取ると『蛍の光』を弾く。


『フリューメに新しい曲が誕生しました』


 やっと!やっと!やっとだ!!


「キタキタキタキターーーーーーー、ハイハイ! どんどんいくぜー」


 次に弾いたのは『パフ』という曲だ。


『フリューメに新しい曲が誕生しました』


 これは俺が小学生の時に弾いたのだがこれには理由がある。


「えー、それではお聞きください。パフ下パート」


 自分以外誰もいない空間でMCとかやっているが、痛いとかどうでもいい。俺はこの世界でフリューメここで音楽家になるのだ。今やれる実験は全てやっておきたい【祝福】の仕組みを極力しておきたい。

 で、肝心の結果だが『パフの下パート』で【祝福】は起きなかった。


「なるほど、なるほど」


 俺はリコーダーをテーブルに置くと、ギタレレに持ち変える。


「次の曲は枯葉のキー違いバージョンです!」


 前回七弦ギターが半音下げになっていたが今持っているギタレレはギターのレギュラーチューニングになっているのでカラオケでいうキーが一つ上の状態になっている。

 その上でアドリブをやったところを別のアドリブ(まぁ、アドリブなんで覚えてないが)にして演奏してみる。

 名目としては【祝福】の確認として演奏しているが、ぶっちゃけどうでもいいぐらい楽しい。楽器も音楽も『楽』という字が付いているのだフリューメここで漢字を使う事はないが、この漢字を割り当てた人は天才だろう。

 そんな事を考えながら『枯葉』を弾き終える。


 ――結果【祝福】は起きなかった。

 だが、俺の実験はまだ終わらない。


「それでは、次の曲です。ギタレレ用にアルペジオを交えてアレンジしたカエルの歌!」


 クラシックギターを練習すると自分の知っている単音(メロディーしか知らない)の曲をアレンジしてしまうになる。俺も一時期そういう真似事をしていたので、これくらいならできる。

 で、今回の実験はオッサの前でベースで弾いた曲をアレンジするとどうなるか? という事だが、予想通り【祝福】は起きなかった。


 そうなると、やっぱり地球にいた頃のがやっていると同様で『曲』という単位で管理されているんだろうと予想が着く。


「ただなぁ……こうなると楽譜がほしいよなぁ」


 こういう演奏こと(というか作業)をするまで気づかなかったが、俺が弾ける曲は『100曲以下』になりそうということだ。


 店のBGMとして100曲は多すぎると思うが『蛍の光』はいいにしても『カエルのうた』や『チューリップ』をレパートリーに加えるというのはなんとなく抵抗がある。


 かと言って『キラキラ星』をモーツァルトの『きらきら星変奏曲』のようにアレンジした所でカフェに似合うかというと微妙だろう。

 そうなると、手持ちの楽器で且つ店のBMGとして使のリストアップから始めないといけないのだが、いざ楽器を目の前にすると義務教育時代に習った曲やピアノをやり始めた時の曲ばかり浮かんでくる。


「参ったな……演奏家として仕事にするには選曲も必要なんだな……」


 カフェみたいなおしゃれな所でBGMと頭に思い浮かぶのは、サックスでスムーズジャズなのだが、実際店でサックスは煩いだろう。


 しかも、午前10時くらいからBGMを奏でるとすると、朝飯食った後にスケール練習をし、楽器がお店で弾くみたいなことになるだろう……


「高校生の吹奏楽部の合宿じゃなあるまいし……」


 まぁ、スムースジャズってキャラでもないので一旦この案は保留とし他の案を考えるが、技術的に一番熱を入れていた頃のHR/HMハードロック・ヘヴィメタルやJAZZやFusionなんかは指が動かないし、ピアノ曲にしてもショパンの曲なんかはピアノで弾いてこそ意味があるみたいものが多かったり、アンサンブルを重視するものが多かったり、演奏者一人という縛りは中々大変だと気づいた。


 もちろん、子どもの頃に見たアニメソングやヒーローものの一番だけとかなら大丈夫なんだけど、10年以上まともに楽器に触れてないのが原因なのか、少し短絡的に考えすぎたと反省している。


「とりあえず、あと10曲くらい弾いたらメシにでもいくか……」


 悲観的になっても仕方ないので幼少の時から覚えているアニメソングやヒーローものの曲のオープニングとエンディング曲をリコーダーやギタレレで弾いた。

 ステータスカードの【祝福】の値は17になっていた。


 

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