第18話 14年目

 オッサも俺も玄関前での『質問コーナー』での会話である程度慣れたのか、チェリアに向かう途中も色々嫌味やダメ出しをされながらもいくつか質問をした。


■紙が存在するか?

 文字のところで質問しようと思ったのだが俺が一時期読んでいた異世界モノは羊皮紙が使われている事が多く、普通の紙を使うというのが殆ど見られなかった。仮にこの世界も羊皮紙のみの扱いであれば筆やペンというのも色々問題になると思われる。結果、紙のようなものは存在するらしい。

もちろん日本で使われているようなのものなのか分からないが植物の繊維を漂白し色々加工してサイズを揃えたものがあるようで(流石にオッサも作り方の全てを知ってはいなかった)本も存在するようだった。

 いやー、「本って知ってますか?」って言った時に「バカにしとるのか?」とちょっとマジ切れされそうになったのが怖かった。


■魔物や魔族とか魔王とか

 結論から言うと、魔王はいないらしい。約40年くらい前に勇者が倒したそうで今は平和とのこと。もちろん魔物はいるにはいるが治安の維持のために冒険者がいるらしくこの辺りはよくある的な感じだった。

 もっと聞いてもいい気もしたが、チェリアには冒険者が少ないらしく偶に魔物退治のクエストの途中で寄る程度らしい。


■王国や帝国とか貴族とか国の状況とか

 オッサは全ては知らないらしいが、チェリアは『ノスファン』という王国にある一つの街らしい、オッサ的には田舎の方という話だったが俺的には街ではなく村の一歩手前くらいな気がしているが国の規模などが分からないので王国ということが分かればそれでよかった。貴族はいるらしいがもちろんチェリアにはいないとのこと。


■文字について

 文字を無視して生きてもいいとは思うが、やはり日本で育った者として文字は読めた方がいいとは思うし、本があることも分かったので読みたい。特にスマホとネトゲがなくやることがない時に本はうってつけだと思うが、そうなると文字が読めないといけないので相談したところ、オッサの姪っ子が使っていた古い教科書をどうにか融通を効かせてくれるらしい。

 読めるのにどのくらいかかるか分からないが話せはするので最低限のコミュニケーションはできるので、後は知力のパラメーターの補正に期待したい。


■魔法の覚え方について

 秘匿義務みたいなのがあって聞けるかどうか分からないが(そもそも0.5だし)聞いてみたところ、やはり0.5だと十歳児以下の初歩魔法も使えるか分からないらしいが例のオッサの姪っ子のお下がり作戦で……という話になった。

 ただ、それでも0.5というステータスは学習価値はないとみなされている。


■ステータスカードの他の使い方や魔道具的なものについて

 スマホが不便というダメ出しをされたので『メモ』が使える『地図』が使えるとか色々言ったがステータスカードにはメモ機能があるらしい。

 相手の位置の確認などはプライベートの問題があるらしく親がこどもの位置を把握する為とかで『魔法的な契約』が必要らしく確認できる人数も決まっているとのこと。

 あの言い方だと多分奴隷の管理用としても使われているっぽいが聞かなかった。

 魔道具は色々あるらしい、値段も色々あるらしく百均的なところでは一回または数回で使い切りの魔法陣のお札みたいなのが売っていたりしているらしい、発動条件は聞き忘れた。

 魔力はチャージできたりするらしく魔力の売買があるのに関心をしたが、こうなると『電力がほぼ魔力と等価じゃないのか?』と思ってしまいなんだか残念な気持ちになった。


■オッサが俺によくしてくれる理由

 これが一番気になったのだが、最初は治安維持のパトロールの為に怪しい奴がいるというので質問したらしいが【祝福】を有り得ないくらい(四曲分なのに)授与されたのでそのお礼を兼ねているらしい。

 ある程度は助けようとは思ったが、【呪いのカード】と【俺の家】などを見て『あまり関わらない方がいいかも……』という雰囲気は感じた。

 とは言え無駄【祝福】を与えてしまったのでお礼に後で、オッサが使わなくなった服などはもらえるらしい、その辺は律儀な人でありがたい。ステータスカードの発行の際のお金もいらないとは言っていたが、それとこれは別なので返却したいし、いつまでも頼りきりになるのは気がひけるし親友になれる気は全くしないので早めに上司と部下程度の関係になっておきたい。

 まぁ、見ず知らずの異世界人に服の手配など色々やってくれているのは、やはり【祝福】はお金に換算できないくらいの価値なんだろう……


 ◇◇◇


 こんな質問と目印の付け方にダメ出しをされながら歩いていると意外とサクサク進みチェリアへ到着した。

 昨日もお世話になった門番さんにステータスカードを見せる例の魔道具大理石カードリーダーを通すとそのまま何事もなく通された。


「さて、どうする? どこか行きたい場所はあるか?」


「そうですね、やはりお酒の出る店と、お茶ができるお店をまず周りたいです」


 冒険者とか勇者に憧れているのなら武器屋とかギルドなんだろうけど憧れがだ。


 (どうして転生した人はあんなにアグレッシブに生きていけるんだろうか? やっぱりステータスの向上でその辺りも補正されたのだろうか……)


 ――小学校低学年の時に父方の祖父の家で飼っていた鶏を絞めて捌いているのをとして見た事があるが泣きながら鳥のスープを飲んで「かわいそうだけど美味しい」という感想を言ったくらいだし、祖父と親父と釣りに行った時も釣りの才能が全くない俺は親父や祖父が釣った魚をすぐ捌いて内臓を取り出していたのを見ていたが何のノウハウもないまま家を出た。

 母親が「都会の子は魚の切り身しか知らない」とか揶揄していたのを聞いた事があるが、40歳が目前に迫った俺だって捌けないし、虫は嫌いだ。

 色々考えても俺はなる気がないの前にのだ。


「エールは飲まんぞ?」


「あ、流石に店に入ってほしいわけじゃなく、どこにあるのか? とか雰囲気を把握したい感じなので大丈夫です」


 門から左側に行って1つ通りを超えると明らかに飲食街的な通りに面した。

 それぞれの店によってカラーは違うと思うが、店の外側にブースがある店では『出来上がってる人』がいるが総じて治安が悪いという感じはしなかった。


「この辺は夜の方が賑わうからのぉ。今のこの時間帯は夕飯前に飲んだくれてる連中じゃから人生楽しんでる奴らの集まりじゃな」


「いやー、そういう人生もいいと思いますよ」


 俺は人飲む酒が好きじゃないし、酒を滅茶苦茶美味いと思ったこともない。どうしても付き合いで飲まなければならない時は頑張ってビールをちょっと飲んで後は薄めのウーロンハイや緑茶ハイで場を凌いでいた。

 プライベートで酒を飲む時は『ネトゲ上の大きなイベントなどで戦い切った時』に梅酒などで祝杯をあげる程度だ。昼間から誰かと飲める人やリア充的な飲み会を楽しめる人を羨ましく思っていたりもする。


「まぁ、金を出してるのは本人じゃからな……」


「そうですよ、しっかり働いてその対価で好きなものを買ったりする人生って一番いいと思いますよ」


「そうじゃの。若いのに意外と達観しておるの……」


(見た目はというか設定は18歳ですけど社会人経験14年ぐらいですからね……)


「あっ!」


 俺は重要なことを思い出した


「どうした?」


「えっと、こんなところで何なんですが、チェリアって酒を飲む年齢とかどうなってます?」


「ん? ああ確かにな、お前さん年齢いくつじゃったかの?」


(あれ? 俺見せなかったっけ? あ、あれかスマホの方の画面に書いてただけでオッサは読めなかったんだっけ……)


 などと考えてしまい


「じゅ、18歳に


 と返してしまう。


「なんじゃ、『なってました』とは……」


(ヤバい、年齢の事も話すべきだったかもしれんが、変な感じになったので誤魔化さないとな……)


 なんだろう、このどうでも良い所で嘘をついていまうような感じになるの……悪いことしてないのに警察の人いるとちょっとビビる感じに似ている。


「いや、18歳になりましたと言いたかったのです」


「最近誕生日だったのか。まぁ、お前さんの言葉遣いが変なのは今に始まった事じゃないからの……」


「で、この辺って18歳でも歩いていいのでしょうか?」


 質問を聞いたオッサの眉間に皺ができる。


「逆に質問するが、この通りの向こうに家がある子どもはここを歩いちゃいけないのか?」


「あー、そうですね、効率悪いですね……」


(いや、外国はアルコールのあるところを子どもが立ち入り禁止になってるとかなんとなく聞いた事あったからなぁ)


「まぁ、酒が飲めるのは18歳からじゃの、少なくともノスファンの国ではそうなっておるが、地域や種族によってはその自治区で変わっているところもあるにはあるな……」


(種族ってことはやっぱり定番のエルフとかあの辺もいるんだろうな……あまり興味ないけど)


「あれですか?入店する時にステータスカードでチェックする感じですよね?」


「そりゃぁ、そうじゃろな。まぁ明らかに見た目で分かる場合はチェックしない店もあると思うが『全員チェックする』というのが基本じゃな。でないとトラブルがあった時に色々困る事があるからのぉ」


(確かに。この辺は日本より良い制度かもしれない)


「なるほど!」


「まぁ、飲み屋通りはこの辺りまでじゃの。では茶屋の方に向かうかの……」


「お願いします!」


 ◇◇◇


 お茶屋というか俺の中でカフェは飲み屋通りのように固まってる訳ではなくいくつかあるらしく、オッサは三店舗ほど紹介してくれた。

 『喫茶店タイプ』が一店舗と『お茶屋さんの隣で飲めるようにしているタイプ』が二店舗だった。

 他にもあるらしいが、紹介してもらった店の兄弟が経営してる店だったり、似たり寄ったりの雰囲気だそうで三店舗見れば充分ということらしい。


 正直物足りなさを感じてしまうがコーヒー文化がないこっちではこんなもんなのかもしれない。


(カフェと喫茶店、漫喫とか日本はバラエティに富んでいたんだなぁ……)


 で、俺は気づいた無一文だとカフェにも入れないことに……


「オッサさん、最後に見たお茶屋にお茶を飲みに行った場合いくらかかりますか?」


「ん? あー金か、多少なら工面はするぞ、を無駄にもらったからの……」


 オッサは察してくれたのでお金を貸してくれるらしいが、無限に借りるのも有り得ないわけである程度試算して借りないと失礼になる。

 こっちの感覚で一万円くらい借りれれば酒場に行ってエールといくつかのを余裕をもって注文することができるので市場調査くらいにはできそうだ。


「ありがとうございます。それでいくらくら――」


 オッサは俺の言いたいことを全て聞く前に切り返す。


「まぁ、待て一度ワシのに寄りたい、例の本の方が大事じゃと思うからの……」


(いやいや、コミュニケーションは言葉でできるから本より金の方が大事だと思うんだけどなぁ……)とは思うが『人に対してお金を借りる』という行為に抵抗があるので言われるがままになってしまう。


「――あのなぁ。茶屋は今行こうが明日行こうが逃げん。でも、お前さんは家でお湯も沸かせない、夜は真っ暗になると何もできず寝るだけ……お前さんにとってどっちが大事なのかも分からんのか?」


「返す言葉もございません……」


 そっか、そうだわ。自分から魔法を使える可能性の選択肢を完全に消していた。俺も頑張れば火種を起こす事ができるかもしれないし、コーヒーカップぐらいであればお湯を沸かせるかもしれないのだ。

 確かに直近の生活を考えるとそっちの方が需要かもしれない。ただ気になったことがある……


「あのー、夜の照明ってどうやってるんですか?」


「ランタンを使う人もおるが、大体は夜光石を仕込んだ魔道具を使う方が多いかのぉ」


「え? 俺。魔道具の使い方知らないんですけど……」


「もし、お前さんが魔道具のランタンを使うのであれば自分の魔力を貯めた魔石を使うのは難しいじゃろうから、魔石を買うか魔法陣を購入するしかないじゃろな……」


「なるほど、魔石ですね!」


(魔力が電力なら魔石は乾電池とかモバイルバッテリーとかみたいなもんなんだろうな……しかし、なんで電気がないのかなぁ……)


 雷とかの自然現象あるんだからもっと電気のことをどうにか研究・進化させなかったのか?と思ってしまう。


(毎回魔法や魔力のことで思うが、異世界の魔力=電気って概念になると途端にな気持ちになるなぁ……)


「なんか、お前さんの知識の偏りが凄く気持ち悪いのよなぁ、魔法や魔力のことは知っているくせに魔石のことは知らないとは」


(俺の知識は全て小説ラノベからだからなぁ……)


 いざ、自分が転送されてになるとテンパって色々な設定を忘れてしまう。


「すいません、俺の居た所はちょっと違う仕組みで動いているものがあったりするので……」


 一応、謝ったが頭の中はこっちで使う生活必需品のことで頭がいっぱいになる、それらを購入を考えると三万円くらい借りた方がいいかもしれないが、やっぱり昨日知った人に三万円を借りるのは心が痛いので二万円に抑えたい。(そうでなくとも銀貨を借りている状態だし……)


 と、やりとりしているうちにオッサは一軒のかなり大きめの家の前で止まった。

 

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